パイロット達
頼りなげにつぶやくクリスをかわいそうなものを見るような目で見つめる明華。にらみつけるような明華の視線に困って逸らした目の先にクリスはオリーブ色の二式の機体の向こうに黒い大型のアサルト・モジュールがあるのを見つけた。
「あれは何ですか? 」
二式を撮りつづけているハワードを置いて、クリスは歩き出した。
「ああ、あれね。隊長の四式改よ 」
「四式? 」
「まったく遼北と胡州は型番の呼び方が同じだから混乱するわよね。四式試作特戦。先の大戦で胡州が97式特戦の後継機として開発を進めていた機体よ。結局、その当時としてはコンパクトな機体に、おさまるエンジンの出力不足が原因で開発は中止。そのまま胡州軍北兼駐留軍に放置してあったのを前の大戦で使ってからあれがしっくり行くって言う隊長の為に何とか予備部品を見つけてレストアした機体ですよ 」
黒い、二式より一回り大きな機体。頭部のデュアルカメラが胡州のアサルト・モジュールらしさをかもし出している。
「そう言えば、前の戦争では嵯峨中佐は試作のアサルト・モジュールを愛用したと言うことですが、それがこれですか? 」
「違うわよ。隊長の愛機だったのは三号機。でもこれは人民軍に鹵獲された一号機よ 」
明華はクリスに寄り添うように付いてくる。クリスは彼女の顔を見た。何かに気づいてもらいたいとでも言うように、わざとらしくクリスの視線を漆黒の巨人に導こうとしている。
「すいません! 許中尉! ジャコビン曹長! それに御子神中尉 」
そんなやり取りをしていたクリス達に格納庫の入り口で角刈りの少年兵が叫んでいる。
「おい、柴崎! なんで俺だけとって付けたように言うんだ? 」
御子神は入ってきた少年をにらみつける。だが、気が強そうな伍長の階級章をつけた少年は逆に皮肉めいた笑みを浮かべて突っ立っている。
「ああ、紹介しておくわ。第二小隊の二番機の専属パイロット柴崎浩二伍長。うちでは隊長が太鼓判を押した期待の新人よ 」
「へっへっへ。どうも 」
どこか粗野な雰囲気のある少年士官が右手を差し出す。クリスは彼の握手の申し出に応じた。
「外人さんですか。わざわざうちに来るとは変わってますね 」
言葉のどこかに棘があるような語調に少しばかりクリスは嫌悪感を感じた。
「それと紹介しておいたほうが良いかしら? 」
そう言うと明華の言葉を察したと言うように二人の女性士官と小柄な一人の男性下士官が前に出た。
色黒で、がっしりとした体格の青年下士官。赤い髪を肩の所で切りそろえたような長身の女性士官。そして紺色の髪を後ろで編み上げた女性士官が敬礼をしている。
「まず彼が飯岡小十郎軍曹。胡州出身で海軍のアサルト・モジュール部隊に在籍していたベテランよ。それに柔道家なんですよね 」
「自分はそれほどでもありません! 」
頑丈そうな腕をさらして敬礼する飯岡。そして隣で赤い髪の女性士官が釣られて敬礼する。そんな様子を見ながら紺色の女性士官は笑いをこらえていた。
「そして、彼女がルーラ・パイラン少尉。遼北の周大佐が先の大戦で率いた『魔女機甲隊』は有名でしょ? パイロット不足ということでそこから私のコネで見つけてきたのよ。二式の試験ではパイロットでは一番良い成績だったわね 」
静かに敬礼するルーラ。そして自分の番だと言うように敬礼する紺色の髪。
「じゃあ柴崎君。何で私達を…… 」
「紹介してくださいよ! 」
取り残された准尉の階級章の女性士官が叫ぶ。仕方が無いというように明華は咳払いをした。
「彼女が…… 」
「レム・リスボン准尉です! 第一小隊三番機担当です! みんな拍手! 」
周りを取り巻く隊員達がいかにも仕方が無いというように拍手を送る。目を細めてその歓声に答えるレム。
「遊んでると怒られんじゃないですか? 明日の作戦の説明があるとかで楠木少佐が待ってますよ! 」
その言葉を聴くと、女性陣はなぜか大きくため息をついた。
「あのスケベ親父、帰ってきてるの? 」
レムが露骨に嫌そうな顔をしながら柴崎を見つめる。彼女の脅迫するかのような顔に恐る恐る頷く柴崎。その状況が滑稽に見えて思わずクリスは思わず後ろに立つキーラの顔を見つめた。彼女もレムの言葉に同意するように首を縦に振っている。じりじりと近づいてくるレムに柴崎は諦めたように叫ぶ。
「俺に言っても仕方ないじゃないですか! まあ、あの人の情報は確かだって、隊長も言ってますし 」
「確かに情報網は認めるけど……この戦争が終わったら訴えましょうよ、セクハラで 」
そう言うと明華はハンガーを後にする。クリスは彼女達の態度で招かれざる情報将校の人となりを知った。
「クリス! 俺はしばらく写真を撮らせてもらうよ! 」
ハワードは相変わらず、整備兵に案内を受けながら二式の撮影を続けていた。