少女と義父
ゲリラが去り、難民が去った本部前のテントは手の空いた歩兵部隊と工兵部隊の手でたたまれている最中だった。
「元気だねえ! 」
「今度、あんぱんあげるからな! 」
シャムを見つけた兵士達が声をかけるのに笑顔で手を振って答えるシャム。
「人気者だね 」
「まあ、これが人望と言うものだよ……うん 」
シャムは腕組みをして頷いている。おそらく誰かに吹き込まれたのだろう。笑顔のシャムを熊太郎が後ろから突いた。
「こら! 」
シャムは熊太郎に声を上げるが、熊太郎は身を翻すと、そのまま急な坂を上り村の中心へと駆け上がっていく。シャムはそれを追って走り始める。戦闘服や作業着の兵士達の中で、黒に色とりどりの色で刺繍を施した民族衣装を着ているシャムの姿がいつの間にか自然に思えていることに気付いてクリスは笑っていた。人間は慣れて行くものだ。キーラ達人造人間もいつの間にかこんな生活に慣れてきている。
そう考えて歩いているクリスの前の砂利道の傾斜が緩やかになり、そして平らになる。いつものように目の前には墓の群れが広がる。その前で笑いながら追いかけっこを続けるシャムと熊太郎。
「少なくともこれはあんまり見たい光景じゃないな 」
粗末な墓を見ながらクリスは独り言を言った。中心の墓。それはシャムの義理の父親、ナンバルゲニア・アサドの墓である。遼南帝国最後の輝きを放った名君ムジャンタ・ラスバ帝の治世、北方遊牧民に生まれたアサドは軍に志願。遼州で発見された古代遺跡の中に見つかった人型兵器のレストアされた『人機 』、後のアサルト・モジュールの精鋭部隊『青銅騎士団 』の団長となった。
だが、それは短い栄光にしか過ぎなかった。
今から27年前、ラスバは一人の遼州人の自爆テロにより急逝した。一説にはそれは彼女の長男である第12代皇帝ムジャンタ・カバラの差し金とも言われた。カバラは母から見放され、廃嫡されて東宮の位を息子のラスコーに奪われていた。そんな彼にラスバの急激な改革に既得権益を脅かされていた保守勢力が近づいたのは自然の流れだった。
兼州に帝位を継いだラスコーの政権が立つと、遼南の東岸を地盤とする花山院家や南にアメリカ軍基地を抱えて独自の地球との関係を持つブルゴーニュ侯はラスバが重用した人材の排除に奔走した。その中にアサドの名もあった。資料では青銅騎士団の団長を罷免されてからのアサドの消息はまるで無かった。
クリスの目の前にはその運命に翻弄された騎士が眠っていた。その娘、シャムは元気に遊んでいた。夕方と呼ぶにはまだ早い太陽が照りつける。クリスに気付いたシャムは熊太郎と一緒にクリスの隣に立った。




