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戦地の日常

「何してるの! 」 


 叫び声の主は明華だった。3人で下を見ると、パイロットスーツの明華が手を振っている。


「これから昼の炊き出しの仕事があるから降りて来なさいよ! 」 


 そう言うと明華は更衣室に向かう。


「そんな時間だったんだね 」 


 そう言うとクリスはエレベータに向かう。キーラもシャムもなんとなくその後に続いた。彼等はハンガーの前を見た。すでにまだこの基地で出発を待っている難民達は炊き出しのテントの前に並びだしている。輸送機を待つ群れには隊員がレーションを配布していた。


「相変わらず手際がいいね 」 


「伊藤中尉はこう言うことは得意ですから 」 


 キーラはそれだけ言うと下を向いてしまう。難民達の群れに頭を下げられながら、キーラは早足で炊事班がたむろしているテントに向かった。


「シャムちゃんはこの人達をどう思うんだ? 」 


 クリスの問いに行列に加わろうとしていたシャムが振り向いた。それまでひまわりのように明るく黒い民族衣装の帽子の下で輝いていたシャムの笑顔に影が差す。


「おとうが言ってたけど、戦争では弱いものが一番の被害者なんだよ。戦えるのは強い人だけ。その人達は何でも手に入るけど、弱い戦えない人はみんな持ってるものを取られちゃうんだ 」 


 シャムの視線がさらに何かを思い出したような悲しげな光を放つ。


「だからね、アタシは戦わなければいけないんだよ。騎士なんだから。それで余った分はみんなに分けてあげるの 」 


 シャムの決意にも似た言葉を聞いてクリスは少しばかり胸が痛んだ。


「でも君は子供だろ? 」 


「騎士は騎士なんだよ。戦う意思と力があるから弱いものを守って戦えっておとうは言ってた。それにおとうやみんなの墓があるんだ。みんなが見ているから一人だけ逃げるなんて出来ないよ…… 」 


 そこまで言うとシャムはしゃくりあげ始めた。クリスは難民達からまるで子供を苛めている外国人と言う風に見られて思わず頭を掻いた。


「なんだ、クリス。子供を泣かせるとは許せないなあ 」 


 難民達を写真に納めるのも一段落着いたのか、レーションの箱を開けるのをその棍棒のような褐色の腕で手伝っていたハワードが冷やかしの声を上げた。


「別にそんなつもりは…… 」 


 ハワードの顔を見ると、少しばかりシャムは安心したように涙を拭った。彼女の隣には熊太郎が心配そうな顔をしながら座っている。


「じゃあお手伝いをしよう 」 


 そんなクリスの言葉にようやくシャムは笑顔を取り戻した。


「ホプキンスさん何をしてるんですか? 」 


 パンを難民に渡す手伝いを始めたクリスに声をかけたのは伊藤だった。


「ああ、とりあえず僕に出来ないことがないかなあと思って 」 


「別にそれは良いんですが、取材はどうしたんですか? 」 


「これも取材の一環ですよ 」 


 そう言うクリスの肩を叩いて伊藤は感心したような笑みを残して人ごみに消えた。未だに難民の群れは止まることを知らない。新しくやってくるのは車やオートバイで逃げてきた難民達。徒歩で来た人々は休憩を済ませるとすぐに輸送機で後方に向かっていた為、残されたのは比較的若い人々だった。若い男の中には軍への志願手続きを終えて似合わない軍服に身を包んでいる者もいた。


「なんだ、お前も志願したのか! 」 


 スープを盛り分けている若い炊事班員がそう声をかけるところから見て、どうやら彼も朝の志願兵受付に応募した口らしい。あちこちで着慣れない軍服を笑いあう若者の姿が見える。


「ようやく終わったみたいですね 」 


 クリスは隣の太った炊事班員に声をかけた。ふざけあう元難民の隊員達だけが残された広場を見て、彼は満足げに頷くと空になった鍋を持ち上げようとした。クリスが手を貸してかまどから持ち上げられた鍋を駆け寄ってきたつなぎの整備班員に渡す。


「いやあ千客万来だけどなあ、夜は作り過ぎないようにしないと材料が無くなっちまう 」 


 両手を払いながらその太った整備班員が笑った。クリスもそれにあわせて笑っていた。右派民兵組織が壊滅した今、この基地にとっては北兼台地南部基地への侵攻作戦の準備に取り掛かる絶好の機会であることはどの隊員も自覚しているところだった。炊事班の補助をしていた管理部門や通信部門の隊員は早速本部ビルに駆け足で向かっている。


「ご飯食べたの? 」 


 そう言って近づいてきたのはシャムと熊太郎だった。


「いやあ、そう言えば忙しくて食べられなかったなあ 」 


 そう言うクリスにシャムは手にしたパンを差し出した。


「コーヒーくらいなら詰め所にありますけど…… 」 


 シャムの後ろから近づいてきていたキーラ。クリスは何を言うべきか迷いながら彼女を見つめた。その白い髪が穏やかな午後の高地の風になびく。思わずクリスも彼女に見とれていた。


「じゃあご馳走になりますよ 」 


 そう言ってクリスは嬉しそうにハンガーに向かうキーラの後に続いた。


 踏み固められた畑の跡を通り抜けると、いつものようにハンガーが見える。カネミツの前では菱川の青いつなぎを着た技術者が日の光を浴びながらうたたねをしていた。白いつなぎのこの部隊付きの整備班員は帰等した二式のチェックも一段落着いたというように、だるそうに歩き回っていた。


 キーラは軽く彼らに手を振るとそのままクリスを連れて詰め所に入った。中には明華と御子神、それにジェナンとライラがコーヒーを飲んでいた。

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