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支援物資

「支援物資ですね。私も行きます 」 


 そう言うとキーラは輸送機に向けて走り出した。シャムもその後に続く。クリスはこの光景を見ながらただ呆然と立ち尽くしていた。


「もう30年、いやそれ以上かもしれないな。地球人がいるかどうかなんて関係なくこんな光景が繰り広げられてきた 」 


 後ろで声がしたのでクリスは振り向いた。タバコを吸いながら嵯峨は静かに座っていた。


「見てたんですか? 」 


「まあね 」


 そう言いながらタバコをふかす嵯峨。彼もまたこの国の動乱に運命をゆがめられた存在だと言うことを思い出してクリスは言葉を飲み込む。


「しかし、ここらで終わりにしたほうが良いよね 」 


 嵯峨は立ち尽くしているクリスにそう言って立ち上がって伸びをした。


「あなたにはこの状況を終わりにするべき義務があると思いますよ 」 


 クリスは本部に消えようとする嵯峨の背中に叫んだ。


「そうかも知れませんね。だが俺も神じゃない。でもまあ、ベストは尽くすつもりはありますよ 」 


 嵯峨はそのまま本部に向かった。クリスは再び難民達の方に目を向けた。彼等の群れの中に向かって本部の裏手の倉庫から大量のダンボールを運び出す兵士の一群が現れた。そして輸送機からの荷物を運び出す隊員と合流してテントの下で受付の準備をしている管理部門の隊員の姿が見える。それを仕切っている伊藤を見つけるとクリスはそこに駆けつけた。


「ずいぶんと準備がいいですね 」 


「なにか問題あるんですか? ……そこ! それは炊き出し用の白米だろ? そのまま食えるものを持って来いって言ったんだ! 」 


 伊藤に怒鳴りつけられた政治局の腕章付きの下士官が頭を下げながら持ってきたダンボールを運び出す。


「戦争にはね、タイミングと言う奴があると隊長から言われてましてね。あなたに連絡を取ったのはこの日のためってこともあるんですよ。見ての通り遼南は貧しい。先の大戦では遼州枢軸三国と浮かれていたが、この有様を見てわかるとおり貧しい国なんですよ 」 


 伊藤の口からの言葉が悔しさに満ちていた。クリスは彼の前に積み上げられていくレーションの山を見つめていた。難民達はすぐにそれを見つけて集まり始める。


「待ってください! 数は十分にありますから! 」 


 受付でキーラが支給品に次々と手を伸ばす難民達に声をかけていた。シャムが大きな鍋の下に入り込み火を起こしている。奥の仮設の診察室で別所は運び込まれる栄養失調の子供達の胸に聴診器を当てている。そしてハワードはそれらを一つ一つ写真に収めていた。それでもまだ難民の列は途切れることなくこの村に向かって続いていた。


「それにしてもこんなところを攻撃されたら一撃じゃないですか? 」 


 クリスの言葉に伊藤は呆れたような視線を送る。


「エスコバルもそれほど馬鹿じゃありませんよ。上空で東和の攻撃機が警戒飛行を続けている。西部戦線では人道にうるさいアメリカ軍を主体とした地球軍が戦闘中だ。どちらも難民に共和軍が襲い掛かれば手加減せずに攻撃を仕掛けて共和軍が壊滅するくらいのことはわかりますよ 」 


 伊藤はそう言うと上空を見上げた。いつもよりも低い高度を飛ぶ東和の偵察機が見える。


「しかし、スパイを難民にまぎれさせるなどのことはしているんじゃないですか? 」 


 クリスが食い下がるのを見て伊藤は笑みを浮かべた。


「それはあるでしょうね。それに北兼台地南部基地の指揮官が吉田俊平にすげ代わったらしいですからそこはこっちとしては苦しいところですよ 」 


 難民の食料を求めて集まる数が多くなってきた。それに対応するようにまだ帰還したばかりでパイロットスーツを脱いでもいないセニア達のパイロット連中までも、隣のテントに詰まれた缶詰の配布を手伝い始めた。


「ああ、あいつ等まで手伝い始めたか。すいませんね、俺も働かなきゃならなくなりましたんで。取材は自由でいいですよ。ここの困窮が宇宙中に知らされたならそれだけ難民への支援も集まるでしょうから……俺も隊長もどこまで行っても偽善者なんでね 」 


 そう言うと伊藤はセニア達のところに駆けていった。クリスは一人になると、難民達を見て回ることにした。怪我人はそれほど出ていないようだが、医療スタッフが設置した大型のテントは一杯になりつつあった。点滴のアンプルの入った箱が山のように積まれているのが見える。クリスは嵯峨がこのことを予定していたことを確信した。


 走り回る別所と、懲罰部隊の階級章を剥がされた制服のままの医師が走り回っている。その周りを駆け回る看護師達も緊張した雰囲気に包まれていて、クリスは取材をすることを断念した。


 邪魔にならないように病院のテントを離れて散策するクリス。ゲリラが残していったテントには仮眠を取ろうと難民達が次々に腰を下ろしていた。疲れ果ててはいたが、クリスがこれまで見てきたどのキャンプの難民達より目が光に満ちていると感じた。

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