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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜  作者: 鍋敷
第二章 神聖教国編

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59 槍の男ギルバート

 あのあと、俺たちはリーンが開けた天井の穴をよじ登り、地上に出るとすぐに別れた。

 リーンは、


「……先生のおっしゃっていた意味がやっと分かった気がします。

 ここから先は、私一人でも大丈夫です。

 ミスラへ行くまでには、きっと……もっと上の力を得て見せますから」


 笑顔でそう言うと、一人でどこかへ行ってしまった。


 ……一体、彼女は何が分かったというのだろう。

 それに、あの子はあの歳で、あれ以上強くなってどうしようというのだろうか……?

 もう十分すぎるぐらいに、強い気がするのだが。


 疑問は尽きないが、ひとまず、もう『幽霊退治』は懲り懲りだと思った。

 元々、幽霊だとか骨だとかは、あんまり好きなものではない。

 その上、まさか初日でいきなりあんなものが出て来ようとは。


 あとで色々聞いてみると、やっぱりあれは『幽霊(ゴースト)』ではなかったらしい。

 確かに、あんな化物がネズミ避けにしか思われていないなんて、幾ら何でもおかしいと思ってはいたが……。

 あれは名を『灰色の亡霊(ファントムグレイ)』という、もっと別の何かだった。


 冒険者ギルドのおじさんから最初にその話を聞かされた時、冷や汗が出た。

 ギルドではちょうどその化物の話題になっており、俺がそれと遭遇したと伝えると、おじさんには「よく生きて帰ってこれたな」と驚かれたが、本当にその通りだ。


 ────ほんの少し触れただけでも、即死。


 あれはそんな超常の怪物だったのだ。

 あの巨大な無数の触手。

 不気味なのでなんとなく避けていたが、あれは絶対に触れてはいけない類のもので、一瞬でも触れたら命を吸い取られ、絶命するという恐ろしいものだという。


 どんなに屈強な冒険者であろうとも確実な死が訪れる。

 実際、それで死んだ人間は過去数千人も出ているらしい。

 本当に俺などがよく生きて帰ってこれたものだ。


 一緒に行ってくれたリーンには感謝しかない。

 あの子がいなければ、決め手の攻撃手段のない俺だけでは、確実にあの気味の悪い触手を躱しきれずにあの暗い地下空間の中で帰らぬ人となっていた事だろう。


 リーンが跡形もなく消滅させた為、あんなものはもう、二度と出てこないだろうとは言っていたが……用心はするべきだろう。

 一度あることは二度あるとも言う。

 何かの拍子に、また一匹や二匹、まとめて同時に出てこないとも限らない。


 そういうわけで、その日以来、もう俺は『幽霊退治』の依頼は受けないことにした。

 流石に初回から強烈な経験だったし、リーンも行方をくらまして見つからない。

 またアレが出たらと思うと、とても一人で出向く勇気は出ないし、その後、出没する『幽霊(ゴースト)』も急速に姿を消し、依頼自体が少なくなったこともある。


 ────さらば、俺のまだ見ぬ宿敵『スケルトン』。

 腕試しのために、一度ぐらいは戦ってみたかったが…………ちょっと当分は見送らせてもらおう。


「────────パリイ」 


 そうして、俺は森の中で相変わらずの素振りを続けている。

 『葉っぱ素振り法』は、辺りの木々が以前と比べて明らかに風通しよくなってしまったので、申し訳なくなってしまいしばらく前から封印している。


 そういうわけで、今はただの素振りだ。

 一振りする度、地面が揺れる。

 とても重たい『黒い剣』のおかげで、それだけで鍛えられている感じは確かにするのだが、物足りない。

 こんなことを繰り返しているばかりでは、俺は強くなれないだろう。

 ここにきて限界を感じていた。


 もっと強くなるには、どうすればいい……?


 実力が拮抗する人間が一人いればかなりいい、とはいう。

 模擬戦などをして、お互いを高められるからだ。


 でも、俺と実力が同じぐらいの人間か……ちょっと思いつかないな。

 そういえば、俺は他人としっかりと力比べをしたことがないように思う。

 そもそも、俺に付き合ってくれるような暇な人間がいるだろうか。


 ────今度、リーンにでも頼んでみようか。


 そんな風に俺が考えていた時、不意に背後で声がした。


「────こんなところで一人で訓練とはな」


 そこに立っていたのは金色の槍を肩に担いだ、見覚えのある男だった。

 その顔は忘れるはずもない。

 彼は前の皇国の軍勢に俺が殺されかかっているところを救ってくれた、命の恩人。

 そう、彼の名は、ギル──


 ギル……?


 ギル──


 ギル────


 ギル──────


 ギル────────────!


「ギル…………………………………………と呼ばせてもらってもいいだろうか」

「なんだ、今の間は」


 なんとかバート……そう、そうだった。

 俺の背後に突然現れたのは、槍の男ギルバートだった。


「ギルバート、どうしてここへ」

「なんだ……名前、覚えてるじゃないか。てっきり忘れられてたかと思ったぜ」

「そ、そんなわけないだろう。命の恩人に向かって。ちゃんと覚えている。大丈夫だ。安心してくれ」


 ……ちょっと出てくるまで時間がかかってしまったが。


「命の恩人? なんだそりゃ? ……そう感じるのは勝手だがな。まあ、そんなことはどうでもいい。お前、俺の用事に付き合ってくれよ」


「────用事?」


「ああ。オーケンの爺さんが戦場で拾った『魔導鎧(おもちゃ)』を弄くってたみたいでな。使って感想聞かせろって言うもんで、ちょうどいい相手を探してたんだ」


 ギルバートの姿が一瞬、消えたように見えた。


 ────疾い。


 彼が今、俺の背後に移動したのが殆ど見えなかった。


「どうだ? こんなもんで。訓練相手(・・・・)としては」


 どうやら、彼が俺の前に現れたのは、前のように胸を貸してくれるということらしい。

 本当に、願っても無いことだ。


「ああ、今の疾さぐらいなら、まあ大丈夫だろう」

「そうかよ…………そりゃあ、よかった」


 そう言って、槍の男ギルバートは槍を構えた。


「言っとくが、今回は手加減は無しだぜ?」

「ああ、そのつもりで頼む」


 俺がそう言った瞬間、彼の姿が再び────────ブレた。


竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)


 ──────疾い──────!


「パリイ」


 俺は咄嗟に彼の槍を弾いた。

 あの技は以前、見たことがある。

 そうでなければ、今のように簡単には弾けなかっただろう。


 だが────以前とは比べものにならないぐらい、疾い。

 まるで、俺を殺しにきているかのような鋭さだった。


「ははっ────今のが、届かねえのかよ。冗談きついぜ。じゃあ…………もっと、疾くしていいか?」

「…………ああ、頼む。まだ大丈夫だ」

「じゃあ、行くぜ」


 彼の顔から、先ほどまであった笑みが消える。

 次は、本気だ。

 ────────それが、わかった。


竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)


 一筋の閃光かと思えるほどに、彼の槍は加速する。


 ──────集中。

 周囲から音が消え──────。


 俺は全神経を彼の槍を捉えることに注ぎ込み、全筋力をただ剣を一振りするのに使った。


「パリイ」


 ギルバートの槍の先端と俺の『黒い剣』がぶつかり、黄金色の火花が散った。


「────はは────今のも、防ぐのかよ。王類金属(オリハルコン)が、欠けちまった…………ははは、なんだよこれ…………面白えな。…………これだけズル(チート)して、これかよ」


 ギルバートは、楽しそうに笑った。


 ────笑っている。

 俺などは今の凄まじい一撃で体全体が緊張し、剣を持つ手が震えてさえいると言うのに。

 やはり、この男は──────強い。


「──────じゃあ、次は更に疾くするけど、いいか?」


 そして、次は更に疾くする、と。

 目の前の槍の男は言う。

 それが、なんでもないことかのように。


 ────────さも、当たり前のことかのように。


「────ああ、頼む」


 俺の口からは考える間も無く言葉が出た。


 今の一撃ですら、俺には未体験の疾さだった。

 次はもう、ついていけるかは分からないというのに。


 だが、この男は当然のようについて来い(・・・・・)、と。

 そう言っているのだ。

 己の限界を超えるようでなければ、決して、強くはなれないと。

 俺だって、それぐらいのことはわかっている。


 ────それならば。


 彼の胸を借り、自分がどこまで出来るか見ておくことにしよう。

 危険は承知の上で、敢えて挑む。

 それぐらいの覚悟がなければ強くなど、なれない。


「────次は手加減などしなくていい。どこまで出来るか試したいからな」


「────はは、言いやがったな……! ……後悔するんじゃねえぞ」


 そうして────

 俺は次のギルバートの槍を受ける為、全力で『黒い剣』を握り締め、構えをとった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] パリイ祭りきたああああああ! [気になる点] チート使っても勝てないギルなんとかさん… 今どんな気持ち?今どんな気持ち? 死ぬほど(文字通りの意味で)愉しい? 左様でございますか…
[一言] ギルバートくんもとうとう《忍び足》が必要なレベルに到達してきたのか?
[一言] うーんこの伝統芸w(アンジャッシュ感) ギル視点だととんでもねぇんだろうなぁw
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