214 好きな匂いと嫌いな匂い 1
「……『本日貸切り』?」
【司書】メリジェーヌは、【聖女】マリーベールと共に、いつものレストランを訪れていた。
だが扉には『本日貸切り』の札がかかっており、二人が首を傾げていると、中から店主のライオスが笑顔で出迎えた。
「メリジェーヌさん、マリーベールさん。いらっしゃい」
「今日ってお休みでしたっけ?」
「今晩急に、特別なお客さまのご予約が入ってね。君たちは予約してもらってたから、席はちゃんと用意してあるよ。三名様って聞いてたけど、あと一人は後からかな?」
「はい。仕事で遅くなるらしくって」
「じゃあ、ひとまず二名様分を用意させてもらうよ。どうぞ、お好きな席へ」
「ありがとうございます」
すっかり常連となった二人は店に招き入れられると、王都の街道が見渡せるテーブル席に腰を下ろした。
二人の他には客はおらず、外の喧騒とは対照的だった。
「……はぁ。やっと落ち着けましたねぇ」
「だねぇ」
「びっくりするぐらい街が賑やかになりましたねぇ〜。新しいお店も凄い勢いで増えてて、チェックが全然間に合わないですぅ」
「なんでも、正体不明の『篤志家』が現れたとかで、銀行からすんごくお金が借りやすいらしくって。魔導皇国、ミスラに続いて、サレンツァとの交流まで始まったから、ありとあらゆる業種がバンバン開業してるんだって」
「へぇ〜」
メリジェーヌの解説に全く興味なさそうに相槌を打ちながら、マリーベールは早速店主に運ばれてきたケーキをつつき、至福の表情を浮かべる。
「ん〜! これこれ、これですぅ! やっぱり、最低週に一回はここのケーキを食べないと、とても『聖女』の商売なんかやってらんねぇですぅ!」
「その発言、セイン様が聞いたらどう思うかなぁ」
「だって、酷いんですよ、あの人! 自分に外せない用事ができたからって、たくさんの患者を私一人に押し付けて! それを笑顔で『少しは貴女の精神鍛錬になればいいのですが』とか抜かしやがるんですよぉ!? 一瞬で何百人も看ることになった、こっちの身にもなってみやがれってんですぅ!」
「でもそれ、ものの数分で終わったって言ってなかったっけ?」
「確かにお給料的にはすっごく美味しくて、私も思わず二つ返事で引き受けましたし、思ったより簡単に終わってガッポリ稼げたのはそうなんですけどぉ!」
ならいいじゃん、という、『聖女』という肩書きから大きく外れた倫理観を持つ同僚へ出かけた言葉を飲み込みつつ、メリジェーヌはケーキを口に運ぶ。
「そうそう、聞いた? レイ、ノールさんの護衛役になったんだって」
「え〜? ノールさんって、あの? それはちょっと、大変すぎやしないですかぁ?」
「だよねぇ。そもそも、魔竜と一対一で殴り合って勝つような人に護衛が必要か? って疑問も湧くけど。まあ、重要人物なことには変わりないし、王様のお気に入りだからねぇ」
「私だったらそんな人、怖くて絶ッッッ対に近づきたくないですぅ。きっと、私なんて目があった瞬間、あっという間にグチョグチョでビチャビチャのケチョンケチョンなキズモノにされて、一生お嫁に行けないカラダにされちゃいますぅ」
「流石にそこまで怖い人じゃないと思うけど」
「でも実際、この王都に敵う人なんかいないんじゃないですかぁ? ギルバートさんも「俺なんてきっと存在すら忘れられてる」って、だいぶ卑屈になってましたし」
「それは、可哀想ではある」
「────ごめん、遅くなった」
二人がのんびりと会話していると不意にカランカラン、と店の扉のベルが鳴る。
「シレーヌ。遅かったじゃない」
「お疲れ様ですぅ」
「ホントごめん。予定より、会議が長引いちゃって」
「ま、よくあることさ。さ、座って座って」
「シレーヌさん、いらっしゃい」
「こんにちは、ライオスさん……ロロは?」
「今日はこれから来るはずだよ。はい、こちらはシレーヌさんの分」
「あっ。ありがとうございます」
シレーヌが席に着くと、早速、笑顔のライオスがお茶とケーキを運んでくる。
シレーヌはロロの姿を探しつつライオスに礼を言うと、運ばれてきた淹れたてのお茶に口をつける前にカップにフーフー、と念入りに息を吹きかける。
「で、早速で悪いけどさ。シレーヌ。王城の外で会うのも久々だし、まずはあれを聞いておかねばと思って」
「あれって?」
「ロロ君との関係。どこまで行ったのかな?」
シレーヌは冷まして口をつけたお茶を、吹きかけた。
「な、なにそれ?」
「いや、ずっと気になってたから。その後の進展も聞いてないし」
「……べっ、別に。進展とかないし。サレンツァに行ったのは、そういう目的じゃないし。あくまでも仕事だし」
「でも、やっぱり一緒にいられる時間は普段より多かったわけじゃない? 必然的に何度もお泊まりの機会があったわけで」
「そ、それはそうだけど……」
「道中、皆さんで『超豪華リゾート』にご宿泊された、とも聞き及びましたが?」
「そっ、それは……成り行き上。ノールさんとリンネブルグ様に付き添っただけで。部屋は別々だったし」
「一緒にプールで水着になって仲良く遊んでた、との証言もありますが?」
「そ、それはちょっと語弊があって。あそこはすごく広くて、一緒にって言っても距離があって……って。なんで、そんなに詳しいの?」
「本人から聞いたから」
窓から差し込む光に眼鏡をキラリ、と光らせ、テーブルに両肘をついて手を組むメリジェーヌ。
「……ふ〜ん。そっかぁ? ロロ君は向こうであった出来事を一つ一つ、楽しい思い出として語ってくれたんだけど。シレーヌにとっては、そうじゃなかった、ってことなのか」
「べっ、別に、私だって、二人で料理とかできたのはすごく楽しかったし」
「────ほう? ロロ君と料理?」
「それから……プールでのことも。遊んだのが楽しくなかったってわけじゃなくて。私を庇ってくれた方がずっと、嬉しかっただけだし」
「────ほほう? ロロ君が、シレーヌを?」
誘導尋問めいた会話の意図にやっと気がついたシレーヌはハッとして顔を上げ、メリジェーヌの顔を不満気にじっと見る。
「……ねえ? さっきから、これ、なんなの?」
「いやぁ、ごめんごめん。実は、向こうから帰ってきてからあまりにもなんにもなさすぎるから、逆に向こうで二人の間になんかあったのかなぁ、って心配になっちゃって。シレーヌもロロくんに会うのを避けてるように見えたし」
「……べっ、別に。嫌いになったとかじゃないし。お互い、忙しくて会えなかったっていうか。特に会う理由もなくなったし。それだけ」
シレーヌは俯きつつ、らしい答えを返したが、それは自然消滅のフラグだぞ……? と一抹の不安を抱えたメリジェーヌは、もう一つの素直な疑問を投げかける。
「そもそも、純粋に疑問なんだけど。シレーヌって、ロロ君のどこがいいと思ったの?」
「えっ?」
「だって。今はともかく、出会った頃なんてすごく頼りない感じだったし、出生不明だから厳密には年齢不詳だけど、多分、歳もかなり下だし。背丈だって私よりもチビで華奢だったじゃない? 今は違うけど、当時は正直、どこがそんなに魅力なの? って思ってたんだけど」
「……そっ、それは……? その……?」
恥ずかしそうに言い淀んだシレーヌだったが、しばらく沈黙して考え込んだ結果。
「……や、優しい、ところ?」
顔を真っ赤にしつつ、全力で言葉を搾り出した様子のシレーヌに、メリジェーヌはああ、自分はなんと余計なことをしたのだろう、と心の底から反省した。
この反応は、冷めるor冷めないとかじゃない。
完全に出来上がっている。
「……も、もちろん、それだけじゃなくて。どんな時もひたむきで、真剣で……自分が辛いはずのときでも、いつも笑って、弱音ひとつ吐かないし。背が低いとか……そんなの関係ないし。そ、そりゃあ、だいぶ年下かもしれないのは気にはなってたけど、でも、それぐらい私は全然────」
「わかった。私が悪かった」
引き続き、ゴニョゴニョと色々なことを呟きながら、両の手の指をツンツンさせているシレーヌに、ああ、なるほど。こりゃダメだ。
と、メリジェーヌは己の完全なる失敗を悟った。
こちら側の不用意な介入で、要らない扉を大開放してしまっている。
「これ以上はもう、大丈夫だから」
「……べっ、別に。他が、言えないわけじゃないし……。あ、ありすぎて、ちゃんと言葉にできてないっていうか、まだどう言っていいか、わからないだけだし」
……うん。わかったから。
もう、いいから。
続きは大事に心の中に閉まっとけ。
質問しておいてなんだけどこれ以上はこちらが危ない。
────最悪、糖分摂取過多で死に至る。
「とりま、相変わらずなのがわかって安心したよ……でもさぁ、客観的に見てロロ君ってどこがいいんだろうねぇ? 確かに、元から顔はいい方で美少年とは言えるし。最近は体格も良くなってきたから、どことなく頼り甲斐も出てきたし。あと、手先も器用で今や『魔導具研究所』のエースだから、稼ぎも相当あるし。性格も『魔族』って肩書きからはとても想像できないぐらい誠実で真面目で、絶対に浮気とかしなさそうだし、気も効くし、既に王様からも信用を得てるから、今後はより多方面に顔が利くようになるのも確実とはいえ───」
……ん? あれ、ちょっと待て?
と、そこまで言ってメリジェーヌは首を捻る。
人を性能だけで見るなんて、人としてあるまじきことだとは思うが、冷静に彼のそれを並べ立てるだけで急にとんでもない優良物件に思えてくる。
まあ、自分は好みかと言われればそうじゃないので手は出さないが、実際、性格・能力・コネクション全てに於いて一家に一台はあって絶対に損しない超優良スペックなんだよな、ロロ君は。
唯一のウィークポイントであろう『魔族』改め『レピ族』という肩書きの評判も、回復傾向となっている今、相当な『買い』物件であることは明白である。
……まさかとは思うが。
あの【弓聖】ミアンヌをして「どんな『風』でも読める天才」といわしめるこの少女。最初から、こっちの未来も読んでいた、とか……?
────あり得る。
だとすれば、この女……恋愛強者にも程がある。
メリジェーヌが未だに顔を真っ赤にしながら指先をツンツンし続けるシレーヌに内心戦慄していると、また店のドアが開き、カランカランと音を立てる。
「おっ。噂をすれば」
「メリジェーヌさん、来てたんだ。シレーヌさん、マリーベールさんも。いらっしゃい」
「……ど、どうも」
「お邪魔してますぅ!」
話題の少年が現れたことで、ひたすら指を突いていたシレーヌは咄嗟に平静を装ったが、まだ態度はぎこちない。
それを知ってか知らずか、ロロはシレーヌに笑顔で声をかける。
「シレーヌさんがお店に来るの、久しぶりだね。ずっと忙しかったって聞いたけど」
「……うん。師匠があれから「アンタにはたくさん教えておくことが見えたから」って。訓練もみっちりやるようになって」
「ボクもミアンヌさんから聞いてたよ。たぶん、一人前だって認めてもらったんじゃないかな。商都でのあれ、凄かったし」
「……そ、そうかな? あれは夢中だったから何も覚えてないんだけど……でも、初めてかも。師匠があんなに細かいことまで教えてくれたの」
「シャウザさんもすごく褒めてたよ。自分の妹とはとても思えない、って」
「……それは、思って欲しいけど」
メリジェーヌは無言でケーキをがっついているマリーベールと共に、じっと二人のやりとりを横目でじっと見守っている。
そして会話の内容に、なるほど、少しは打ち解けてきたようだ……と安堵していると、ロロは店の奥から裏の搬入口に忙しく何かを運び出したかと思うと、三人の来客に別れを告げた。
「それじゃ、皆さん。ごゆっくり」
「あれっ、ロロくん。これから厨房じゃないの?」
「そのつもりなんだけど、今日はララの餌やりがあって」
「ああ、例のヤバめの給仕当番ね。やっぱり、まだロロ君がいかなきゃダメなんだ?」
「うん。他の人が餌やりに行っても基本は大人しくしてくれるようにはなってきたんだけど……彼女、元々気難しい性格だから。一旦機嫌を損ねちゃうと、大変らしくて」
「……冷静に考えると、本当に危なそうな仕事よねぇ。危険手当とか十分にもらってる?」
「うん。王様からお給料を出してもらってるから大丈夫。それに、ボクがやる分にそこまでの危険はないから」
「本当に……?」
「ただ最近、食欲が出てきたらしくって。一回で食べる量が増えてきたのが大変といえば大変だね」
ロロは力仕事用の銀色の小手を嵌めた手で、店の厨房の隅に置かれた大きな木箱を指差した。
「確かに、大きいね。それ、丸ごと持ってくの?」
「ううん。これはごく一部で。裏にもっとあって、ほら、あれが今日食べる分」
「────マ?」
ロロが次に指差した裏の勝手口付近に積まれた木箱の山を見て、己の目を疑うメリジェーヌに、ライオスが厨房の奥で気まずそうに笑った。
「……これは、完全に僕のせいなんだよね。調子に乗って、彼女の好みを追求しすぎてしまった。まあ、誰かに料理で喜んで貰うのが僕の生き甲斐だから、仕方のない面もある」
笑うライオスの背後には『前菜A』、『前菜B』、『メインディッシュ』などとまるでコース料理のようなラベルが貼られた大量の木箱が積まれている。中には冷気を放つ、『本日のデザート』と書かれた巨大な木箱もあった。
メリジェーヌは呆れ顔で照れくさそうに笑う店主に目を向ける。
「にしても、限度ってものがあるでしょ、ライオスさん? これは餌って言うより、最上級のおもてなしコースでは?」
「反省はしている。でも、案外……と言うと彼女に失礼かもしれないけど、竜って味覚も嗅覚もちゃんとしてるんだよね。実は人間相手よりも作り甲斐があってね」
「にしたって、こんなに種類必要でした? 本人の要望ってわけじゃないでしょうに」
「メリジェーヌさん。僕は料理というものは、誰かに「美味しい」と思って食べてもらえるのであれば、たとえ相手が人であれ竜であれ、少しも差はないんじゃないかと思ってる」
「はぁ」
「もちろん、代金は本人からじゃなく、王宮からもらっているけどね。ララもウチにとって、大事なお客さんであることにことに変わりはないんだよ。というわけで……今後は器にも拘ってみたくって。今度相談に乗ってもらえないかな?」
「器? あ、なるほど、『竜用の食器』ってことですか?」
「うん。まさにそう。普通の工房じゃ作れないと思うから、是非、『魔導具研究所』にララ用の食器を依頼したいと思ってるんだけど。頼めるかい?」
「確かに、強度的にはウチじゃないと作れないでしょうねぇ……」
「できれば、時間はかかってもいいから、長く使える頑丈なものにして貰えると助かるんだけど。その方が、ララも喜んでくれると思うしね」
「ま、わかりました。ライオスさんからのご依頼ということで、上司に一応、言うだけ言っておきます」
「ありがとう。急がないから、お手隙でね」
ライオスのいつもとかわらぬ穏やかな口調から発された依頼に、何気なく肯定の返事をしたメリジェーヌだったが……直後、内心、やらかしたと思った。
この人、優しそうな雰囲気につい騙されてしまうが、かなりえげつないことを言っている。
まず、あの【厄災の魔竜】と呼ばれたララの『食器』の製作だって? それも、今の流れで言うと、想定は『コース料理』なんだろう。つまり、準備する数と種類もさることながら、テーブルマナーという概念が全くないであろうララの牙と爪を日々受け止めながら、『長く使える』という条件を満たすとなると、必然的に世界最高峰の盾や鎧と比べても遜色のないレベルか、それを上回る強度と耐久性が必要になってくる。
……えっ。これ、どう考えても無理そうじゃね……?
少なくとも、既知の武具製造方法では作れないことがわかる。
いつも美味しい料理をお得意様サービス込みで食べさせてもらっているだけに、ついうっかり安請け合いをしてしまったが……今後の展開によっては最悪、魔竜の牙の現地採寸とか、本竜に協力を仰ぎつつの試作品の耐久試験とか、そういう超危険な作業が大量に出てくる可能性がある。
いや、きっとそうなるだろう。
……この案件、思ったよりずっと、キツいやつでは?
早速だけど、どうやってお断りを入れようか……とメリジェーヌが内心の動揺を抑えつつ、手を震わせながらお茶のカップを口に運んでいたところ、ちょうど、ロロが外の荷車に木箱を積み終わった様子だった。
「じゃあ、第一弾、行ってきます」
「第一弾?」
「うん。一人で一度に運ぼうとすると、荷崩れしたりして危ないから、最低何往復かはしないといけないんだ。食材の鮮度が落ちるから『魔法鞄』も使えないし」
「なるほど。そりゃあ、大変そうだねぇ?」
「……じゃあ、私も手伝おうか? ちょうど、手が空いたところだったし」
シレーヌの申し出に、ロロは嬉しそうに振り返る。
「ありがとう、シレーヌさん。どれも気合の入った料理だから、あんまり乱暴に運搬するわけにもいかなくて。荷台を抑えてもらうだけでも本当に助かるんだ」
「ちなみに、私はパス。爬虫類全般ダメなので」
「私も無理ですぅ! ここを訪れた目的を果たすまでは、一歩も動かぬと己に誓っているのですぅ!」
「じゃあ、悪いけど……頼めるかな、シレーヌさん」
「う、うん。私でよければ」
「じゃあ、二人とも。頼んだよ。ロロくん、彼女にも次回のリクエストがあったら喜んで承るよって言っておいて」
「うん、じゃあ、行ってくるね。ライオスさん」
「ああ、いってらっしゃい」
そうして、二人は店を出て行った。
「……なるほど、ねぇ。流石に何も進展がないわけではない、か」
窓の外を見やると、手押しの荷車を挟んで歩く二人の間には距離はあるが、ほんの気持ち、後ろ姿が馴染んでいるような気がした。
これはもう、今後は余計な干渉はせず、二人のペースに任せておけば良いだろうなと思ったメリジェーヌだが。
「というか……ね?」
────ふと、振り返れば。
店内のテーブルでは、聖女が大量のケーキをつつくのみ。
「冷静に考えて、人の心配をしてる場合じゃないんだよなぁ」
「ん〜? なにがですぅ?」
「いや。なんでもない。私の分、食べる? 今日は流石に甘いモノは十分だぁ」
「うふふふぅ。持つべきモノは、やっぱり友ですぅ!」
きっと、ああいう眩しい関係性は自分たちには当分、ご縁がないだろうなぁ……と、メリジェーヌは一心不乱にケーキを貪る聖女を横目に、窓から王都の賑わう街道をぼんやりと眺めつつ、目下抱えている研究課題とついさっき受けた依頼の合理的な実現方法へとすぐに思考を移していった。