第八話「笹香」
大腸カメラの結果、潰瘍性大腸炎の疑いと言われた笹夫。
トントンと誰かが病室の扉をたたいた。
笹夫はあわててタオルで顔をぬぐった。
「お兄ちゃん!」
「笹夫!」
やってきたのは、笹香と父の笹郎だった。
家に着替えを取りに帰ったササも一緒だ。
「え?え?笹香、入院しなくて大丈夫なの?」
自分と同じように入院していると思い込んでいた笹夫。
「笹香はまだ軽症だから、今は入院しなくていいんだって。」
「そ、そうなのか。」
「あのね、3ヶ月前からずっと血便が出てたの。下痢じゃなかったから、最初はただの痔かなって思ってたんだけど、少しずつ血が増えてきて、怖くなって病院に行ったら大腸カメラやりましょうって。でも予約が1ヶ月半取れなかったの。先週大腸カメラで、今日検査結果聞きに行ってたの。でもお兄ちゃんには心配かけたくなくて言ってなかったから、ビックリさせてごめんね。」
「僕は月曜日からなのに入院してて、笹香は3ヶ月前からずっとなのに入院しなくていいって、なんかよくわからん病気だな。僕は疑いって言われただけだから、違う病気かもしれないよな。ハハハ。」
あきらかに笑い方が変な笹夫。
そのとき、
「あ!」
と声を出したのは、廊下を通りがかった女性だった。
笹夫は一瞬誰だか分からなかったが、思い出した。
「あー!いつものコンビニの。」
出勤前によく立ち寄るコンビニの店員、アヒ留さんだった。
「実は仕事中に急にお腹痛くなって倒れ込んでしまって。」
「アヒ留さんもですか。」
「知っている人がいてなんだか安心しました。また来ますね。」
ガラガラガラと点滴台を押しながら、アヒ留さんは病室に戻っていった。
「コンビニの店員さんまでこの病気なわけないわよね?」とササ。
「うん。だって、この病気って珍しいから、難病なんじゃないの?」と笹夫。
<日本では約750人に1人。(総人口/2016年特定医療費受給者数による算出)>
「面会時間、終わりですよ。」
そう言って入ってきたのはキツツ木さんではなく、キツツ木さんにとても似ているキツ月さんだった。名前の読み方が一緒なだけではない。あの高い声や見た目までそっくりだった。
「じゃあ、お母さんまた明日来るね。」
「お兄ちゃん、退院したら遊ぼうね。」
「おい。子どもみたいなこと言うなよ。恥ずかしいだろ。」
「笹夫、お父さんも潰瘍性大腸炎について勉強するからな。」
「ありがとう。でも僕は違うかも・・・。」
そして、みんなは帰って行った。
急に1人になった笹夫は、またあれこれ考えていた。
(今日はビックリすることだらけだったな)
(本人の前では言えなかったけど笹香がすっごい痩せてた)
(僕も疑いって言われちゃったし)
(コンビニの店員さんまで入院してるし)
(そういえば、先生が話してたのってお父さんの院長先生なのかな?)
(内視鏡ってまさか)
(仕事も気になるし、早く退院したいなー)
(お、お腹痛い・・・)
こうして流しそうめんのような次から次へと降り注ぐ衝撃の木曜日がようやく終わったのであった。
最終的に診断されるあと2人は誰と誰なのか?
推理小説としてもお楽しみください。
つづく