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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【短編】愛されたいけどお前じゃない!

作者: エノコ モモ
掲載日:2018/03/24


桃鈴タオリン!」


空は晴れ渡り、鳥はさえずる清々しい朝。

桃鈴は自室のベッドの上で目を覚ました。


「桃鈴おはよう!お前が好きだ!」


朝から大音量で話しかけてくる目の前の男を、横たわったまま呆然と眺める。

昨夜はひとりで寝たはずなのに、何故かふとんの上に獣耳の生えた男が座ってこちらを見ていた。

彼の橙色の毛が朝日に反射して眩しい。


「だから俺と、交尾をしよう!」


そう言いながら、男は忙しなく手を動かしあっという間に服を脱ぐ。

そのまま彼女の服も脱がそうと、ずるんと寝間着の中に手を入れられた瞬間、桃鈴が完全に覚醒した。

右脚をふとんから引っ張り出して、男の脇腹に添える。

何を勘違いしたのか、彼は嬉しそうな顔になった。


「桃鈴が…自ら俺に股を開いてくれる日がくるなん、」

「ホァッタァアアアッ!」

「がっ…!」


言い終わる前に、渾身の力を込めて男の脇腹に蹴りを入れた。

ゆうに80キロは超えそうな大男が吹き飛ぶ。

壁に叩きつけられた瞬間、バリバリと音がして窓と壁が割れ、男が外に消えていった。


「キャーッ!」

虎男ウェアタイガーが落ちて来たぞー!」

「……」


桃鈴が家に大きく空いた穴から、下を覗き込む。

まばらに人が行き交う道路には人型に穿ったような裂け目ができており、中からは虎の尻尾が見えていた。


「はァ…」


通常ならは吹き飛ばした男の心配をするところだが、桃鈴はがっくりと床に膝をついた。


「せっかく良い夢見てたのに…台無しヨ。…でも今日の仕事は…」


むすっとした顔から一転、口元が緩み笑顔に変わる。

例え筋肉ダルマから夜這いならぬ朝這いをされようとも、今の彼女は機嫌が良い。

鼻歌を歌いながら、仕事着に着替える。

中華服と戦闘服の間のようなデザインの、頑丈な素材でできたものだ。

腰まである長い黒髪を高いところでふたつに結び、くるくると纏める。

そうして、小さな彼女の背丈ほどもある荷物を背負って、家を後にした。

外は突然降って来た虎男のせいで未だ騒がしいが、それを無視して目的地へ急ぐ。


「桃鈴さん!」


待ち合わせの酒場に着くと、4人ほどの若者のパーティに声をかけられた。


「ごめんヨ!待たせてしまったカ?」

「いいえ、僕らも今来たところで…今日はよろしくお願いしますね」


そう言って頭を下げる彼らが、今日の仕事の依頼人だ。

人間と亜人で構成されている、本当にごく普通の若者である。


「張り切っていきましょうね!」

「うン!ワタシ、がんばるヨ!」


そう言って笑う桃鈴の心は、幸せでいっぱいだった。

(あア…なんて普通の人たちネ…!)






桃鈴は格闘家モンクである。

その体を生かした格闘技や一通りの武器の他、簡単な神術も扱える。

今は特にパーティやギルドに所属せず、フリーとして活動している為、その仕事は多岐に渡っていた。

今回はダンジョン探索の手伝いを頼まれており、彼らに同行し力になるのが彼女の役目だ。


「ホアタァ!」


パーティの仲間を攻撃しようとしていた死霊ゾンビを蹴散らす。

回転しながら華麗に着地すると、すぐに仲間が寄ってきた。


「わっ!助かりました桃鈴さん!すごいですね」

「えへへ…」


(今回の仕事は面倒なダンジョン探索の割に、賃金が少ないネ…)

それでも是が非でもこの依頼を受けたかった理由が彼女にはある。


「これを機に、普通の人に好かれるようになるヨ…!」


桃鈴は、恋人を募集していた。

(実家を離れて丸々5年…。たくさんの弟妹達の為に出稼ぎにきて、仕事は順調ヨ…でも…)

貧乏でも騒がしかった故郷を思い出して、ふとした時に無性に寂しくなるのだ。

慣れない土地にたったひとりで働きに来て、仕事も軌道に乗り余裕が出て来た彼女は、今猛烈に愛情を欲していた。

(今回わざわざ身入りの少なそうな依頼を受けたのは、パーティが普通の若者で構成されていたからヨ!)

桃鈴も今年で22歳。

修行だ仕事だと必死に動いてきたが、いい加減普通の女の子のようになりたい。


「ワタシ、そう…思ってたヨ…」


ダンジョンの一室。

人気のほとんどないこの場所で、桃鈴はぐるぐるに縛られて床に転がされていた。


「トウヨウジンはレアだからな。少し発育は悪いけど、まあ楽しめるだろ」


彼女を拘束したのはダンジョンの魔物でも、盗賊でもない。


「仲間と信じてたのに…嘘だったカ?」


桃鈴が睨む先は、先程まで命を守っていた依頼人。

部屋に連れてこられた瞬間、パーティ全員が彼女を襲ったのである。

先ほどまで人の良い顔をしていた彼らはまるで別人のように、煙草を吸ったり酒を飲み交わしたりしていた。


「最近はなかなか、女がフリーで依頼を受けてくれることが少なくてね〜」

「黒目黒髪だしラッキーだったなあ。大丈夫だよ。全員が満足したらちゃんと帰れるから」


そう言って下卑た笑い声を出す彼らの耳に、桃鈴の泣き声が入ってくる。


「うぇっ…うぐ…」


見れば、彼女はその黒い両目からぽろぽろと涙を流して、頰を真っ赤に染めていた。


「やっと普通の人と知り合えた思ったのニ…神様ひどいヨ…どうしてこんなことするネ…」

「やば…可愛いじゃん。俺勃ってきちゃった」


ひとりの男が興奮気味に桃鈴の上に乗る。

服を脱がそうとぐいと引っ張った。


「へへ…状態異常の魔法がかかってるから、力が入らないだろ。このまま大人しく、」


男が全てを言い切る前に、下からするりと足が伸びて来た。

一瞬、それが交差するように動くと、次の瞬間、彼が地面に倒れる。

その首はぽっきりと折れていた。


「…え?」


何が起こったのかわからず呆然とする彼らの前で、桃鈴が立ち上がる。

いつの間にか縄は解かれ、その顔には涙の代わりに青筋が浮かんでいた。

その小さな手をバキバキに鳴らしながら、口を開く。


「乙女の純情を踏みにじった代償…ちゃんと払ってもらうヨ…!」






桃鈴が全てを片付け部屋を後にすると、向こうから虎男のレオナルドが走ってくるところだった。

今朝の傷か、額に大きな絆創膏を貼って、ばたばたと手を振りながらこちらへ向かって来る。


「桃鈴ー!」

「……」

「朝のことだけど、お前の仕事の依頼人のやばい噂を聞いて、止めに行ったんだった!すっかり忘れて交尾しようとしたけっ、どんっ!」

「遅いヨォ!バカァ!」


レオナルドは通り過ぎさま桃鈴に蹴られて、そのまま壁に食い込んだ。






「それで…その後どうしたの?」


日もとっぷり暮れた酒場は、たくさんの冒険者達で大いに盛り上がっている。

桃鈴は目の前のジョッキを飲み干したあと、ガンと机に叩きつけた。


「騙されて腹が立ったから、全員キンタマ潰して殺してやったヨ。最後の良心で蘇生屋と警備団に連絡してやったから、今頃は仲良く牢屋の中ネ」

「それは大変だったね…お疲れ様」


桃鈴の目の前には、耳の尖ったエルフの姿。

彼に優しい声をかけられて、みるみるうちに目に涙が溜まった。


「わーん!ワタシにはユノしかいないヨー!エルフって嫌な奴しかいないと思ってたけド、ユノはワタシにも優しいネ」


ぐすぐすと鼻をすすりながら、机に頭を乗せた。

ユノとは三年ほど前に仕事の関係で知り合い、それからちょくちょく会っている。

女性と見間違えるほど長い睫毛と白い肌は、桃鈴の憧れだ。


「愛されたいヨー!レオはびっくりするぐらいしつこいし、このままじゃ恋人なんてできないネ…」


あまりにも寂しくなった時、桃鈴の中で悪魔が囁いたことがある。

『レオナルドで手を打て』と。


「獣人にしては綺麗な方だし、まるで犬みたいで可愛いかなって気が狂った時あったヨ…でも裸になったあいつと対面した時、考え変わったネ」

「裸で対面したの?」

「あいつは勝手に家に入り込んで来て勝手に服脱ぐヨ…」


ランプに照らされて煌々と浮かび上がった彼の股間を見て、桃鈴は思った。

(これは無理…)


「あんなに大きいの明らかに無理ヨ!ただでさえも、ワタシ人間とハーフリングの間に生まれてるから体が小さめなのニィ!」


それを伝えると、言うことに欠いてレオナルドはこう宣う。


『大丈夫!なんとかなるから!最初はきつくても1日50回もすりゃ慣れるって!』


その言葉は、桃鈴の顔から血の気を引かせるにはじゅうぶんだった。

自分がこの土地の人間ではないぶん、種族で差別することはあまり好きではないが、彼女は思った。

(こいつとは無理。死ぬ)


「だからちゃんと断って、断って断ってそれでも言うこと聞かなかったからボコボコにして追い出したのニ!」


彼は一切気にすることなく、毎日のように体の関係を結ぼうとしてくる。

そこで桃鈴は察した。


「あの虎畜生にとって、ワタシはただ強い遺伝子を残すためのメスに過ぎないネ!」

「虎畜生は…初めて聞いたね」

「今日やっと、普通の人と仕事ができるって喜んでたのに、筋金入りの犯罪者だったシ…変態は変態で別に良いネ!ひとりで楽しむ分にはいくらでもすればいいノ!でも人に迷惑かけるのは頂けないヨ!」


被害に遭うこっちはたまったものではない。

桃鈴は目を閉じ過去に思いを馳せながら、げっそりした顔になった。


「こっちに来てから、露出狂に遭遇したり、今日みたいに襲われかけることも沢山あるし、踏んでくださいって頼まれたこともあるヨ…ワタシは変態を引き寄せるのカ!?」

「……」


わあわあ騒ぐ桃鈴を前に、ユノが静かになった。

(うーん…これは…)

さて。

余談だが、桃鈴たちモンクは修行の最終段階で〝神を降ろす〟という行為を行う。

格闘家でもあり修道士でもある彼らは、肉体が完成した後に自分の守護神となる神を呼ぶのだ。

『神なんていないから形だけ取り繕ったヨ〜』とハナから信じていない桃鈴は気がついていないだろうが、どうもその時に彼女は無意識にとんでもないものを降ろしたらしい。


「……」


ユノのような上級の魔法使いには、桃鈴の〝降ろしたもの〟が形となって見える。

(こんなデカくて神々しいもの…ほかに見たことないんだよね)

その憑いているもののおかげか、桃鈴は確かに強い。

格闘家として申し分ない成績を残しつつも、もうひとつの強みは魔法の類いが効かないその性質だ。

おそらくそれは、彼女の背後の何かが跳ね返している。

だが、強い力は諸刃の剣。

強すぎる力には相応の対価を払わなければならず、その対価が変態を引き寄せるというトンデモ体質を生み出している可能性はじゅうぶんある。

(言ってあげても良いんだけど…)

真実を教えたところで、この強大な何かがそう簡単に除霊されるとは思えない。

なにより、こうして頰を濡らして、顔をくちゃっとさせて泣いている桃鈴は、とても可愛い。


「普通の人に普通に愛されたいヨォオ…」

「よしよし」


机に突っ伏す彼女の頭を撫でながら、ユノはにこにこと笑う。

その腹の中は、真っ黒だ。

(俺が今、机の下で勃起してるってこと知ったら、桃鈴、ますます泣いちゃうかな〜)

唇を舐めながら、はあと艶めかしい息を漏らした。


5月ぐらいにまた構成と設定を練り直して続き書くと思います。

ご縁があれば是非。


(4/6追記)

連載バージョン書き始めました。

色々変わってます。

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