動き出した白い悪魔
ヒルアが読んだ歴史の書物は、まるで千武族達を悪者みたいに扱っていた。
だから村は、滅ぼされたのだろうか? ヒルアはそう思い、何度も本を
読んだ。でも、何も変わらない。魔法と白魔王を擁護するばっかりで気味が悪いとヒルアは、口を覆った。
「まるで千武族すべてが世界の敵みたい」
ヒルアは、そうおもむろに呟き、強引に本を閉じて、眠りについた。
朝起きると叔母の足音が聞こえ、目の前に立っていた。
「...顔色が悪いね。何かあったのかい?」
ヒルアは、首を横に振って、否定するが叔母に怪訝な表情をされた。
「言いたくなかったら、それでいい。今の世の中は、偽りばっかりだからね」
叔母は、ヒルアの机に置いてあった書物に視線を向けていた。
「おばあちゃん。これは、違うの。こんなものに影響された訳じゃないの!でも
あたし達、千武族が悪者扱いされてるみたいで気味が悪い」
ヒルアは、急いで書物を隠すが叔母は、眉1つ動かさず、淡々と話し始めた。
「いつの時代だってそうさ。今に始まった事じゃない。差別は、世界を狂わせ
反乱を生んだ。おばあちゃんも、昔、戦っていたんだ。その時の腹いせがヒルアに一気に来てしまったね」
叔母は、切なそうに今にも泣きそうだった。
「それは、違う。おばあちゃんが頑張って戦ってくれた事を否定したら何も残らない。そんなの嫌だよ」
「優しい子だね。お前が孫でよかったよ」
ずっと、ずっと、叔母は、ヒルアの事を抱きしめていた。
ヒルアは、温もりを感じながらもこう思っていた。
絶対にあんな歴史の本、本当の事を書いてるなんて思えない。きっと、嘘が
混じってるはずだ。
いつか、いつか絶対に暴いてみせる。そう彼女は、決心していた。
****
王宮の王座の間の豪華な椅子に座り、足を組み佇んでいた。
その女性は、この国の女王様だ。
「ハク。10年、待たせておいて、見つかってないですって」
「申し訳ございません。でも一切、手がかりがない状態でどこを探していいか...」
ハクは、頭を下げて、その女性に膝まづいていた。
「それって言い訳なの?」
女性は、高圧的で異論を認めなかった。でも誰も逆らえない。
それは、圧倒される美貌と悠然と見下す瞳。その女性は、白髪の白魔王様だからだ。この世界では、絶対的な存在だ。
「···手がかりが無いのは、上手く逃げおうせている証拠よ。どれもあの
ババアのせいよ。老いぼれが調子に乗るんじゃないわよ」
白魔王は、罵声と激しく怒り狂った怒号を張り上げた。それがハクの顔を
険しくさせる。
「それは、ヒルア·ダルクの叔母の事ですか?」
「そうよ。あのババアのおかげで小娘は、あたし達に見つからないで済んでるのよ」白魔王は、冷たく、低い声でそう零した。
「それは、そうですが、彼女を捕まえたとして、何をするんですか?」
ハクは、ヒルアという人間を捕まって、殺す気だろうと思っていた。何故ならば白魔王は、彼女の事を憎んでいるから。
「もし、奴らの生き残りがいたとして、そいつらに絶望を与えるわ」
ハクは、その言葉を聞いた瞬間、真意が分からず、こう問い返した。
「公開処刑ですか?」
「そんなもんじゃないわよ。拷問し尽くして、ボロボロになった姿で全世界に中継するのよ。愚か者が殺される姿を···。」
ハクは、身震いするぐらいに恐ろしくて味方である事を幸運に思う程だった。
───叔母の店の電話が鳴り響いた。主は、ワールドプロジェクトのマスター
からだった。
「もしもし、またテロ?」
ヒルアは、てっきり事件の要請かと思っていたがどうやら違うみたいだ。
「嫌、そんなのじゃない。とにかくテレビをつけろ」
ヒルアは、テレビの電源をONにすると画面にいっぱいに彼女の顔が映って
いた。
「これは、どういうことなの?」ヒルアは、気が動転するあまりに状況がよく
分かっていない。
「お前を捕まえるだけで白魔王から永遠の富と豪邸が用意されてる。こんなの誰だって飛びつくに決まってる」
コクは、淡々とゆっくりとした言葉でそう言っていた。
「あたしだけを捕まえる為にそんなことさえするの」
そして、テレビから白魔王の声がして、こう言っていた。
「彼女があたしにしたことは許されるべきではありません。あたしを殺そうとしたのです。小さい体なのに殺意だけは、確かでした。何とか逃げましたが、とても
怖かったのです。あたしは、真実を知りたいのです。なぜ幼い少女があたしを
殺そうとしたか、国民の皆様にお願いします。彼女を見かけたら王宮か国際ギルド局に連絡をお願いします」
画面の向こう側で白魔王は、深々と頭を下げ、フラシュが激しくて、顔は見えなかったがとても恐ろしくてまともに見れない。
「白魔王は、お前を殺す気だ。真実なんかとっくに知っている。お前が思い出せない記憶は、目の前で両親が····」
「うるさいわね!その声は、コクだね?ヒルアは、その事がショックで今でも傷が治りきっていないんだよ!思い出すのが嫌で忘れてただけなんだ」
叔母は、ヒルアから電話機を強引に奪い、今まで見たこと無い位にすごい剣幕だった。
「お前は、ノアールなのか生きていたのか」
「そうだよ。あたしは、しぶとくってね。ヒルアは、あたしの孫なんだ、唯一
残された家族の1人だ。10年間ずっと守ってきた。やつの魔の手から」
ヒルアが、聞いた事のない声で低くて、威圧するようだった。
「お願いがあるのだが守らせてくれないか希望なんだ。彼女は、世界を変えれるかもしれない。やっと報われるだよ100年の戦いから···。」
コクは、声だけでも分かるように必死に叔母を説得していた。
「あんたは、仲間をどれだけ犠牲にしたら、気が済むんだい?あたしは、戦争は、嫌いだ。何も生まない。革命を起こしたいのなら他所でおやり?うちの孫を巻き込まないで」
「それは、悪かったって思ってる。今度は、戦争じゃないやり方で世界に革命を
起こすんだ!」
コクは、興奮して、声を張り上げていた。
「綺麗事だね。昔から変わらないね?あたしは、あんたのそういう所が嫌いだった。正義を振りかざすのなら、憎しみを捨てなさい。昔からあなたの姿は、醜かったわ」マスターからの電話は、プツンと切れ、叔母は、何事も無かったように
座っていた。
「マスターの事知っていたの?」
「昔からの腐れ縁さ、戦友とも言うのかね。コクは、昔から自分がやる事を正義だとか革命の為、本当は、100年前の復讐よ、惑わされるじゃないよ。ヒルア」
「おばあちゃん。あたしは、マスターに利用されかけたって言いたいの?」
叔母は、コクリと頷いた。
「あたし、それでもいいよ。ずっと、目を背けてた。世界にちゃんと、向き合う為に戦わなきゃいけない」ヒルアの声は、弱々しく、叔母には、覚悟の強さなんて
感じられなかった。
「あんたはなんも悪い事もしてないのに、意味の分からない因縁に巻き込まれるの?」叔母は、険しい顔をして、ヒルアに歩み寄った。
「おばあちゃんは、そのせいで苦しい思いをして来たんでしょ?今、終わらせなきゃ、どこで終わらせるの」
ヒルアは、今にも泣きそうな顔だった。でも涙を流さないのは、彼女なりの
強がりだ。
「覚悟が出来てない。小娘がそんな事を言うんじゃないよ」
2人は、互いに涙を流し、まるで傷を舐め合うみたいに抱きしめ合っていた...。
続く···。