ドロドロした血の沼
颯爽と駆け抜けていく中で彼は、異形の魔物の生命線を探っていた。赤い糸が
見えたが、ドロドロしたように感じて目を疑った。
「オマエハキミョウナジュツヲツカウノダナ」
異形の魔物は、ユージンが振り下ろした剣を握りながら、カタコトでそう尋ねた。「喋れるだな。びっくりしたぜ」
剣が震え、握りつぶされそうな位に強く掴まれていた。
「シツモンニコタエロ...ニンゲン。」
異形の魔物の腕は、血管が鮮明に見え浮き出ていて、ユージンの首を絞めた。
「こ、こんな事をされて、答えられる訳ないだろ」
ユージンの声は、掠れ、異形の魔物の耳に届かなかった。
「ナニヲイッテルカワカラナイ」
異形の魔物の顔が険しくなり、締められる手は、より一層と力を込められ、
ユージンの息が途絶えそうだ。ユージンは、剣を振るいたいが離れそうになく、
策に考えを巡らしていた。
ヒルアがいつの日か言っていた。魔物は、炎に弱いと...一か八かで試してみるしかない。だが剣をこの魔物が剣を離してくれたら、握る手を弱めてくれたら...。
「炎網」猛烈な炎を纏った網がヒルアの手によって生み出された。
それは、魔物の首や腕を締め付け、剣を握る手は、弱められた。
「炎龍剣!!」
龍の如く猛火を纏いし剣を舞うように振るった。異形の魔物の腕は、切り落とされ、腹に切り傷を与えた。だが、少しずつ再生して行く...ヒルアは、それに気づき、次々と言霊術を唱えた。「四炎柱」燃え盛る柱を四方に張り巡らした。
続いて「炎箱」(ほのおばこ)と唱え、異形の魔物を炎の箱に閉じ込めた。
強烈な炎の中で魔物の生命線を探ったが、見当たらず、息は、途絶えたのか...。
「ヒ、ヒルア、奴は、死んだみたいだ。」
「そうみたいだね。強かったわね...まるで得体の知れない者を相手にしているみたいだった。」
「俺も同じ気持ちだ。ここを去ろう...博士達が起きたら大変な事になる。」
互いに頷き、ユージンは、切り取った魔物の腕を手にした。
「それは、持って帰りましょう。前にあった奴より、確かに強かった。何かわかるかも...」
ヒルアにそう言われ、ユージンは、魔物の腕に布を巻き付け、鞄に入れた。
彼女に崖からロープを出して貰い、それを掴んでユージンは、登っていった。
そして2人は、雪山を後にした。
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血が溢れて仕方がない。ドロドロした血の沼に浮かぶように異形の魔物の首だけが存在していた。
少女の攻撃によって、灰となって肉体ごと燃やされるところだったが咄嗟に自ら首を切り落とし、四肢は、燃え散った。でも首だけでも残れば、また再生出来る。
四肢が生えるまで、ここでゆっくりと待っていよう。急ぐことは、ない。
あの二人は、いつか殺せる。そう異形の魔物は、憎悪の心に囚われ、何度も
殺すと呟き、再生に集中を注いだ。
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凍えそうな冷たい風に肩をすくめ、ヒルア達は、雪山から少し離れた街の宿に
泊まっていた。
「今度は、聖水の湖に向かなきゃね」
ヒルアは、ベッドに座り、世界地図を見ていた。
「それは、ワクチンみたいな物なのか?」
「抗薬剤みたいな物だね。ルビアさんの時に似たような魔物が出たけど、さらに進化してる。2つを組み合わされただけでああなるなんて、恐ろしい物だね。」
ユージンは、コクリと頷いた。
「ヒルア、ありがとうな。機転を聞かしてくれなかったら、俺は、大怪我を負ってたのかもしれない。」
「それは、あたしもだよ。ユージンが途絶えることも無く打撃を与えてくれたから良かったけど、あの魔物に殺されていたかもしれない。」
ユージンの言葉に覆い被さるように穏やかなな声でゆっくりと話していた。
「高速移動とかされてたら、命は、なかったかもな。でも、ヒルアが居て良かった。励まされたし、魔法が出来ないことを責めなかった。」
「あたしもね、似たようなことがあったの...千武族にとって言霊術は、魔法みたいな物だから、思うように出来なかったの。村の子供に馬鹿にされたけど、おばあちゃんが根気強く教えてくれたから出来るようになったの」
ヒルアの手には、小さい明かりが灯されていた。
「凄いな。これも言霊術か」
「うん。灯火って言うの...人には、絶対に出来ないことがある。それを責めるよりも出来ることを突き詰めて、努力する方が自分にとっては、いいかもしれない。
ユージンには、魔法が例え使えなくても、剣の腕は、凄いし責めるのは、違うよ。誰が何に言われようと囚われては、見失うよ」
ヒルアの声は、優しく語りかけるようだった。ユージンは、心を強く持たなければ、彼女の言葉に泣いてる所だった。
「そうだな。自分を見失うよな...英雄一族にとって、魔法が使えないのは、呪い
みたいなもんだ。俺もやっと弱い奴なら使えるようになったけど、時々考えるんだ。なんで英雄一族なのに魔法が使えないようにされてるだろう」
「どういう事...。」
ヒルアは、顔を険しくさせ、ユージンに尋ねた。
「神様が居たらの話だけどな爺ちゃんが言ってたんだ。本当に神様がいるのなら、千武族や英雄一族にこんな不幸な目に遭わせたりしないだろうって...」
「神様か...居てもいなくても変わらないよ。あの人が存在しているこの世界では、絶対的な存在だし、誰も逆らえない。」
「そうかもな。俺達ももっと声を上げれなきゃな。まずは、ブルーメンヘッドを救ってやるぞ」
「そうだね。目標は、おおきくなくちゃね」
ユージンは、立ち上がり、ヒルアは、それを見上げながら、微笑んでいた。
この穏やか時を続くことを彼らは、密かに望んでいただが、その願いは、叶えられなかった。このブルーメンヘッドでは、欲望や悪意が潜められていた。
彼らは、今日の出来事により、闇に踏み入れてしまったのだ。
そう簡単には、逃れられない。
次回に続く。




