魔法が使えない少年の話。
あの男は、ヒルア達を知っていると言っていたが全くの初対面で心当たりがなかった。だがヒルアを知っているのは、世界中に指名手配紙が貼られているから分かるが、ユージンの正体まで知っているのだ。
「奴は、何者なんだ?」そう零しても、答えを得られない事は、分かっていたが、言わずには、いられなかった。
「ユージン、それは、あたしも知りたいけど、それ所じゃないよ」
ヒルアは、険しい顔を浮かべ、崖の下を見下ろしていた。
「どういう事だ?」とユージンが見下ろすと聞き覚えのある声がしていた。
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ヨダレを垂らし、雄叫びに似た叫び声...。
これは、実験の成功の印だ。
「まさか、ビーストとスモークを組み合わせたら、こんな化け物になるなんて、
素敵ね」アイラという女は、頬に手を当て、狂うような笑みが零れていた。
「君は、これを素敵だと言うのか?中々に狂っているな。」
博士とアイラは、親しそうに話していた。
「まぁね、ブルーメンヘッドも災難ね。でも、白魔王様の前で優柔不断は、ダメよ。」「まぁそうだな。今度こそ失敗は、許されない。ブルーメンヘッドを同盟の道に引き戻すまで脅しは、やめない」博士に強い意志が感じられた。
手に持っていた資料は、ブルーメンヘッド国の世界遺産名簿だった。
どうやら、徹底的にやるつもりみたいだ。
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ユージン達は、望遠鏡を片手にアイラ達の様子を伺っていた。
「呆れたものだね。白魔王は、まだ彼らを見限っていなかったんだね。」
ヒルアは、怒りのままに言葉を走らせた。
「見限る訳がない。あの女王様は、死ぬまで人を利用する。そういう奴だ。」
ユージンは、知っていた。白魔王という女性がどれほど冷酷で残忍だったのか...。
「うん。どうするの?ユージン、このまま放っておいたら、いずれにしても大事になるよ」彼は、頷き、崖から飛び降りようとしていた。
「何をするつもりなの?ユージン」
「突き止めに行く。アイラ達とは、顔見知りだし、大丈夫だ。」
ヒルアに肩を触れられ、優しく振り払った。
「そういう問題じゃない。あの凶暴な化け物だっている。勝算は、あるの?」
「あると言ったら嘘になるけど、ヒルアは、待ってくれ、アイツらに言いたいことがある」彼の覚悟を持った瞳に魅了されそうになるがヒルアは、固唾を飲んだ。
「ユージンの事は、信じてるよ。どれだけ心を揺すぶられても自分だけは、見失わないで...」「うん...分かってるさ」
それだけの言葉を残し、ユージンは、崖から颯爽と降りっていた。
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「貴方は、何故魔法が使えないの?」
その言葉は、何度もユージンに襲い掛かり、劣等感を覚えた。
でも、叔父が言っていた。
「そんな事は、気にしなくいい。ユージンは、好きな道を歩みなさい。人が出来て、自分が出来ないことを恥じなくいい。きっといつか、ユージンだけにしか出来ないことがある。だから大丈夫だ。」
そう言って叔父は、ユージンを度々、励ましていた。
今でも思い出すと涙が出そうになる。その言葉で何度、救われたのだろう。
叔父は、ある言葉だけを残し、ユージンを置いていった。
「白魔王は、偽りの栄光を振りかざし、王座に座っている。あれだけの人を殺し、苦しめておいて、ユージンが知っているのは、偽りの真実だ。それを武器にして、ワシの父だった英雄クレスの悲願だった野望を果たしてくれ。」
叔父は、掠り声でそう言って、ユージンの手を握った。「野望ってなんだよ」
そう零すユージンに叔父は、耳元で囁いた。
「...........。」発された言葉は、掠れ、叔父は、英雄の剣だけを渡し、命を落とした。
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雪を踏みしめる音は、強く、時に早く、こちらに威圧を感じ取らせた。
「久しぶりね。ユージン?貴方がなんでここにいるのかしら...」
アイラは、仁王立ちしてユージンを睨んだ。「お前らの野望を止める為だ。」
彼の言葉に笑い、アイラは、腹を抱えた。
「笑わせてくれるじゃない!白魔王様を裏切ったあなたに何が出来るの?存在ごと消されるだけよ」
「裏切ってなんか居ない。元から信頼した関係でもなかった。」
アイラは、ユージンの襟首を強く掴んだ。
「良くも言ってくれたわね。魔法が出来ない貴方を救おうとしたのは、白魔王様よ。それを貴方は、差し伸べたられた手を振り払った。」
「俺が偽りの真実を知っている。その言葉を言っただけだ。ほかは、何もしていない。白魔王は、その後、俺に退学処分を下した。理不尽なことしかされていないのに、手下になれとかおかしくないか?」
「それは、白魔王様の慈悲よ!救いの道に導いてくれたのよ。あなたには、それが分からないの?貴方の祖先は、白魔王様の共に戦った英雄でしょ!」
アイラは、ユージンの肩を揺らすが、虚ろな目でこう言った。
「魔法族は、本当に偽りの歴史が大好きだな。白魔王様が嘘をつくなんて思えない。思いたくもない。それが世界の声だ。あの女王様が歩んできた道は、血で塗りたくわれた死体の山だ。」
ユージンの目は、冷酷でいつもの優しさなど感じられなかった。
次回に続く。




