どんな正義だってあたしの前では、無力。
彼らがゾンビ化したオーク達を何度切っても、血さえも出てこなかった。ただ、傷として、刻み込まれるだけでダメージなど与えてないに近いだろう。
「ケン、効いてないんじゃないの!」
パトラに言われなくたってわかっているが、ケンだって、未知の相手にどうやって倒せばいいか分からない。パトラは、ゾンビに怯え、援護どころでは、ない。
彼、1人で切り抜けるしかない。ケンは、抜け道を目線で探すが、見つからず、ため息を吐いた。
「あっもう...気持ち悪い!毒針!!」
ゾンビの背後から透明な針が見えた。次々と刺され、毒に蝕まわれ、蹲っていた。「お前、大丈夫なのかよ」
「あんなの長時間、見てる方が苦痛よ!中に仲間がいるはず...罠を仕掛けた方が得策ね」パトラは、調子が戻ったのか、怯えてる様子すらもなかった。
「そうだな。毒針網でも、仕込もうぜ」ドクドク、ドクンと突然、液体が吹き出したような音がした。主は、さっきまで、蹲っていたゾンビだ。
「き、キモイ...これヌルヌルしてない?スライム化してるじゃない!!」
ゾンビからは、煙が吹き出し、溶けだしていた。すると地面は、激しく割れ、液体が消えていった。極めて小規模だが一人だからなんだろうか。
もし、大人数でこれ(ゾンビ)に襲撃されたら、人溜まりもないだろう。そう考えると恐ろしくて、ケンは、逃げる事しか、考えられなかった。
「パトラ、ここにゾンビをおびき寄せて、毒針網に嵌めてそのまま逃げようぜ!じゃないと俺達は、死ぬ...」
「そうね。でもオークがゾンビなったって事は、何かあるじゃないの?それを調べないと何も分からないわ」
「それもそうだが、今は、策がこれしかない。後でもいいだろ」パトラは、ケンの意見には、乗らず、ここを逃げる事を頑なに嫌がった。
「後じゃ、液体は、すぐに消えてしまうのよ?それじゃ成分分析は、出来ない。謎は、闇に落ちるわ」「もう、うるせぇな!!地面が割れて、洞窟ごとおさらばになるだよ!」ケンは、割れた地盤を指さすが、パトラは、声を張り上げた。
「対策も無いんだから、どうしようもないじゃない。何も持って帰れなかったら、全て、謎のままなのよ」
「じゃあお前は、死にたいのかよ!」ケンは、火に油を注ぐようにそう言うと、パトラは、怒りに任せ、声が荒くなっていた。
「誰もそんな事言ってないでしょ!」
「···はぁ、痴話喧嘩なら、よそでやってくださいよ。パトラ、ケン」2人の間に割って入るようにジスタが、現れた。「ジスタ!なんでいるのよ」
「色々と怪しいからってマスター行けって言われたんですよ。二人とも、事情を聞かせて貰っても大丈夫ですか?」パトラとケンは、互いにコクリと頷き事の顛末を語った。「策ですか?ワープすりゃ済みますよ。後は、罠に掛かるのを待つしかないでしょ」ジスタは、淡々と落ち着いた様子でそう言っていた。「それもそうだな。なぁ、ジスタ?オークってゾンビになるって事は、あるのか?」
ケンは、ジスタにそう尋ねるが、首を横に振られた。
「ないですね。何者かが薬品をばらまいた事しか分からないです。こういうのは、俺より、ヒルアの方が詳しいでしょ」
「そうか。じゃあ早速、仕掛けるか」パトラとケンは、互いに頷き、毒針網を地面に張り巡らした。
───────数日後───
液体を採取する事に成功し、ヒルアの成分分析も結果が出たそうだ。ギルドの
テーブルの椅子に座り、話をしていた。
「スモークウィルスだね、煙が吹き出してなかった?」ヒルアは、液体化した例の代物をフラスコに入れていた。
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「ケン、人間には、害のないウィルスだけど、魔物と動物は例外だよ。こんなの兵器以外の何物でもないよ。それに自然災害だって起きる」
ケンがそう尋ねると、ヒルアは、吐息混じりに頭を抱えていた。
「感染率は、どれくらいですか?」ジスタは、ヒルアにそう聞くと、言葉を耳に入れた瞬間には、驚きすぎて、何も言えなかった。
「100%だよ。煙をばらまけば、いいんだから、簡単だね。しかも微細だから周りにも気づかれにくい。まぁ消滅する時だけ、濃いけどね。でもこのウィルスの出処が分からないと止めようがないよ」
彼らが聞いたヒルアの話によると、感染を防ぐ方法は、今の所は、無い。僅かな隙間があれば入っていき、体内が侵され、どんな魔物でも、数時間すれば、ゾンビになる。「これから、もしそいつらに出会ったら、どうしたらいいですか?」
「逃げるのが得策だけど、毒撃てば、死ぬけど、危険だよ」
「それじゃ対策の立てようがないですね」ジスタは、ため息を吐き、部屋から出て行った。「なぁヒルア、最近、この手の事件が多くないか?」
この部屋には、ビーストやスモークの資料が所狭しと置かれていた。
「そうだね、何かあるのかもね。でも近いうちに大きな事件が起きるよ。こんだけ薬品やらウィルスがばらまかれてるんだよ。なにか起きない方が、おかしいよ」
プルデゥゥゥン!とギルド内の警報音が鳴り響き、事件の知らせだ。
「ヒルア、予感が当たったな」
「まだ分かんないよ。話を聞かないと····」
皆がいるホールに集まり、テレビのチャンネルは、事件一色だった。
「皆、集まったな、早速、説明するが、国境の間にある大門が今、ゾンビに囲まれてる」マスターとユミンが1番前に立ち、皆は、テーブルに座っていた。
「これは、国境の近くにある森ですよね」
ジスタは、目を凝らして見るが、大量のゾンビに門番である兵士は、苦戦している様子だった。「そうだ、別名ホワイト森林だ。大門には、魔法兵士がいるがやられるのも、時間の問題だ」
マスターが言うには、ゾンビは、数百単位だ。話によれば、報道は、マスコミが独断で行っている。たまたま、居合わせたのだろう。それで情報が流れ出されていた。「そういう訳ね。普段、あんだけ報道規制してるのに、災難ね。さすがになんとか、するでしょ」パトラの言う通り、森の周辺には、マスコミが野次馬の如く、集まっていた。
「パトラ、それは、どうですかね?とりあえず、ジロンに連絡取ってみますね」
ジスタは、腕時計型の端末でジロンに連絡を取っていた。
「よろしくな、それでだ···。 」
マスターの話を遮るかのように画面の向こう側では、大門が押し切らえ、ボロボロに砕け散った。魔法兵士が壊れた大門をバリアゲートで塞いでいた。その瞬間をマスコミのカメラが捉えていた。「おい、マスター。やばくねぇか?しかも、あれオークじゃねぇかよ。まるで化け物じゃねぇか」ケンの言葉通り、ゾンビは、目をひん剥き、ヨダレを垂らしていた。
「両方、ばらまいたって事?ウィルスもビーストも唯一の弱点である毒が効くか、どうかだよ」ヒルアは、そう言っていたが、魔法兵士達は、毒が弱点って、知っているのか?それだけが皆の気がかりだった。
「ヒルア、毒が効かなかったら、勝ち目は、あるのか?」ケンにそう聞かれ、
「無理だ」とヒルアは、呟いた。
「武器も魔法も傷を与えるだけでら致命傷には、ならない。彼らは、不死身に近いよ。あたしの知識だけだと、よっぽどの強力な魔法か威力の強い言霊術じゃないと勝ち目は、ないね。だってこんな化け物見たことがない」そう、もうオークなんかじゃない。だって、角が生え、鋭い牙が光り輝いていた。まるで化け物だ。目は、赤く、斧を振り下ろすだけで真っ二つに割れてしまいそうだ。バリアゲートもそんなに長くは、持たないしだろう。いつ、ここを突破されてもおかしくは、ない。
それは、画面の向こう側の彼らでもすぐに分かった。
「ねぇ、皆見てよ。白魔王が来てるよ」
──────大門周辺にいたマスコミや魔法兵士は、騒然としていた。
「なんですか?この騒ぎは、ゾンビ!消えなさい、サンフォース!!」白魔王が放った光の放物線が周囲のゾンビを消滅させ、全てが消えていった。
「これは、どういう事なんですか?白魔王様!!説明をお願いします」
マスコミは、白魔王に一気に詰め寄るが、氷のようなオーラを彼女は、漂わせていた。「あなた達、報道許可は、取ったの?見覚えがないんだけど、正義の真似事でもしているつもりなのかしら?」白魔王は、威圧感のある声で言葉を遮った。
それでも諦めきれなかったのか、記者は、さらに食い下がり、白魔王の手を掴んだ。「偶然居合わせたんです!ゾンビがなぜ、あんなに大量に...国民の命が危ぶまれるですよ。白魔王の正義は、多くの人を救う事じゃないですか。白黒戦争の歴史にはそう書かれてあるじゃないですか」
「勝手に語らないでくれるかしら?その脅威は、今、消えたわ。これが貴方達の正義なら今すぐ消えてもらうわ」白魔王は、掴まれた手を振り払った。
「なんですか?報道規制は、表向きは、ないはずじゃ···」記者は、目を丸くさせるが、白魔王は、それを見て、嘲笑っていた。
「そんなの知らない。だってあたしの前じゃ、どんな正義だって無力なのよ。楽しみにしておきなさい。潰される事を···」
白魔王のその言葉に記者は、崩れ落ち、周囲を唖然とさせていた。テレビは、消え、事態は、終息を迎えると思われていた。でも世界は、そこまで甘くなかった。
彼らは、後でそれを思い知らされた。
次回に続く。




