絶望。
プルヴヴヴン!と周囲に電話音が鳴り響いた。
「戦いは、一旦休憩していいですよ。もしかしたら、愛しのボスかもしれませんし···」ジスタが手を叩いた途端に皆は、武器を納めた。
「俺が取るから、今のうちにささっとやれ!悪あがきでもなんでもいいから、ボスの野望を果たすんだ!」ハンネスは、携帯の通話ボタンを押した。
「ここまで忠実だとなんか惨めね。ジスタ!ユージンからの連絡は?」
パトラは、ジスタにそう尋ねるが、首を横に振られた。
「嫌、まだ無いですよ。もうすぐだとは、思うのですが。パトラ、軽く攻撃は、避けてくださいね」
ジスタにそう言われ、不意に振り向いた。すると、双子は、パトラを電動ノコギリで切り裂く気だ。すぐさま、彼女は、「粉砕」と唱え、電動ノコギリが粉々に砕け散った。「お姉さんは、乱暴だね。そんなじゃモテないよ」
ガイラは、パトラを舐め回すような目で見ていた。
「坊や、それは、余計なお世話よ。ケン、あの双子から目を離せないでよ。命が危ぶまれたじゃない!」
彼女は、唾を飛ばしながら、怒鳴り散らした。
「パトラが隙を見せるからだろう?俺は、悪くねぇよ」ケンも負けじと言い返すが、一向に喧嘩は、終わらない。
「はいはい、痴話喧嘩は、辞めてくださいよ。今からあなた方の動きを止めます。ヒルア!お願いします」
ジスタは、パトラとケンの間に入り、2人にデコピンした。
「大人しく、ボスの言う事を聞こうね。雷綱!!」
ヒルアにアームズの皆は、強力な綱で締められ、電流を流し込まれた。
「魔法使いの言いなりね!これじゃ共存なんて程遠い!」
彼女は、苦しみながらも、声を絞り出した。
「アクアさん、貴方が迷って、泣いて信じた人は、こんな人だよ」ヒルアがそう言うと、ハンネスの携帯から、やっと、ボスの声が聞こえた。
「た、た、助けてくれ。お、俺は、アームズのアジトにいる。国際ギルド局の奴に捕まった。色々と吐かされたが、お前らの事は、喋ってない。奴は、アジト中を探っているから、俺のそばには、居ない。」
「ボス!傷だらけじゃないですか。今から助けに行くから待ってください!どうか耐えて...」ハンネスは、不安そうに息を漏らすが、背後から、「クスッ」という
笑い声が聞こえた。
「ハンネスさん、行かない方が身のためですよ。国際ギルド局の誰かは、知りませんが、虐殺されるだけですよ」
「何を言ってるんだ!ボスは、黙ってるだけで魔法使いなんて雑魚に近い。」
ハンネスの言葉にジスタは、呆れて、ため息も出なかった。
「···はぁ、貴方は、何を言ってるですか?国際ギルド局の魔法使いは、誰もがエリートです。そして、拷問や殺しのエキスパートです。政府に逆らう者を何百人も殺して来ましたから、ホントかどうかは、知りませんけどね。」
「ジスタ君、口がすぎるよ。行くんだったら、行けばいいじゃん。どんな目に遭おうが、自己責任だからね。ヒルア、解いてあげよっか」
ラブリーは、彼女の指先に触れた。
「いいの、ラブリー?もしかしたら...」ヒルアの問いかけに彼女は、頷き、雷綱を解いた。「後悔するより、ずっといいよ」ハンネス達は、一斉にボスの元へと向かった。「ラブリー、あんたって残酷なんだか優しいだか、分からないわよ」
パトラは、呆れたようにそう言うと、ラブリーは、複雑そうな表情をしていた。
「さぁね。あたしも分かんないや、パトラ」
「彼らの紐を解いたのは、あたしだから。ハンネスの言う通りだよ。悪あがきでもなんでも、どんな人でも救いたいんだよ。大事な物を...。」
「ヒルアさん、貴方は、甘いですよ。どうせ、彼らは、消えていくのが、決まってたんです。それが遅かったか、早いだけ。皆さんは、退散して下さい。ラブリーは、俺と行きましょう」
「どこに行く気なの?ジスタ」
彼に手を引かれたが、行先が分からず、ラブリーは、尋ねた。
「彼らの所ですよ。ボスの最強説を確かめに行くんですよ」
ジスタは、にこやかにそう言っていたが、この男、本気で言ってるのかと、ラブリーは、眉間に皺を寄せながら、そう思った。
「何、馬鹿な事を言ってるの。あれは、洗脳じゃなかったの?」
「じゃあ、なんで、あんなに彼らは、ボスの事を信じてたんですか?」
「助けくれたからだろ、今更どうするだよ。あいつらは、俺らの手じゃ救えない」
森の木に佇み、ケンは、ジスタを睨んだ。
「救おうなんて思ってませんよ。同族をいっぱい、殺されてるんです。そうは、思えない。でもあなた方は、死なせたくないと思ってるじゃないですか?」
「あのね。ジスタ、人殺しに情けなんて要らないわ。同族でもよ。族の存続の為には、生かした方がいいかもしれない。でも、あたしは、許せない。あの時と似たような事を何度も起こすなんて、正常じゃないわ」
パトラは、強く眼光を放って、その声に威圧が感じられた。
「そうだよね。あたしもパトラと同意見だよ。でも、ちょっと嫌かもしれない」
ヒルアは、複雑そうな表情を浮かべていた。
「ジスタ、そのボスの最強説、確かめてきなよ。 あたし達は、帰るわ。後は、頼むわよ」パトラとケンとヒルアは、ジスタ達に手を振り、去っていた。
「はいはい、分かりましたよ。ラブリー、行きましょうか···」
ラブリーは、「仕方ないな」と頷いた。
────草や木も生えっぱなしで道は、険しく、そこには、ひっそりとアジトが建ていた。
「ラブリー、彼らに昔の自分の姿を重ねているのなら、大間違いですよ。彼らは、許されない事をしたんです。罪を償うのは、当然の報いですよ」
「それがどんな形でも?何でも死んだらチャラには、ならないよ。あたしは、やだよ?ちゃんと生きて償って欲しい」2人は、歩きながら、喋っており、アジトの中に入って行った。
「そうさせてくれたらいいですけどね」アジトの中に入り、ドアから覗き込んだ。
「なんでお前ら、居るんだよ!」ラブリーとジスタは、ちらっと覗き込んだつもりなんだが、バレてしまった。
「ジロン、久しぶりだね!まさか1人?」
ラブリーは、陽気に手を振るが、彼に睨まれた。
「そうだよ。ラブリー、質問に答えろ。なんでここに居るんだ?」
「ラブリー、何言ってるか分かんない」
ジロンの顎を持ち上げ、あからさまに顔を赤く染めていた。
「はいはい、茶番は、終わりですよ!ジロン、彼らをどうする気ですか?」
ジスタは、下を見たが、アームズの皆は、床に横たわっていた。
「それは、俺が知りたいよ。俺に任せるってさ。数人位の規模だし、大したこと無い案件だろうから、俺一人で受けたんだよ」
ジロンは、ため息混じりに肩を回していた。
「それは、朗報ですね!ラブリーの希望通りに出来るかもしれませんよ」
ジスタは、ラブリーの肩を揺するが、鬱陶しいそうな顔をされた。
「ジスタ君、悪い顔してるよ。ジロン、全員生きてるだよね?」
ラブリーの問いかけに彼は、頷き、「息は、している」と言っていた。
「そうだが、まぁ処刑した事にして秘密裏に牢獄島にぶち込んでもいいけどな」
牢獄島とは、凶悪犯やテロ集団や筋金入りの犯罪者の牢獄の島がある。周囲は、高い壁に囲まれ脱獄不可能と言われている。彼らをそこに入れるべきか、ジスタは、悩んでいた。
「そうしてよ!ジロン!お願いだからね??」
ラブリーは、彼の手を握り、胸に当てそうになる。
「ラブリー、それは、辞めた方がいいですよ。ジロンは、年の割にウブですから、本気になちゃいますよ」肩に置き、ジロンに不敵な笑みを向けてみせた。
「うるせぇな!!ウブじゃねぇわ!お前と5歳しか変わんないだろうが、その件は、別にいいが良いのか?結構な殺したぞ」
ジロンは、ラブリーの手を軽く振り払った。
「いいですよ。死なれたら罪を償えないでしょ」
ジスタの言葉を聞いたジロンは、頷いた。彼は、アームズの奴らを空挺車に乗せ、牢獄島の方向へと向かっていた。
「これで良かったですか?ラブリー」
ジスタ達は、空を見上げ、ラブリーの顔を伺った。「そうだね。とりあえずは、解決したんだから、帰ろっか···。」
「そうですね。ジロンは、相変わらず、ラブリーの事、大好きですね」
ジスタは、冗談交じりにそう言うと、彼女に笑顔で返された。
「そうだね、いい事に使えそうだね」
「ラブリーは、悪いお人だ」
「ジスタ君には、負けるよ」二人とも素晴らしい程の悪意のある笑い声が森中に
響いていた。
次回につづく。




