立ち向かう勇気と葛藤
ヒルアは、街を歩く時は、フードを被って、魔法使いのフリをしていた。
少女の目には、見渡す限り、手配書が張り巡らされていた。
その主は、ヒルア·ダルク。そう、彼女の名だ。
── ヒルアには、この世界が息苦しくて10年も耐えていた。でもこの苦しみは、終わりなどなく出口がない。冤罪が晴れさえすれば、あの日の真実が分かって貰えたら鎖は解放されるのだ。でも一つだけ、分からないことがある。
ヒルアは、10年前のあの日、両親が何者かに目の前で殺された。千武族の力を暴走した事だった。
それ以降の記憶が全くなく、覚えていないのだ。ヒルアは、考えを巡らした。
確か、両親を殺したやつの動きを止めたんだ。
それから、ヒルアはどうしたのだろう。必死に思い出すが途中で途絶えて
しまう。あの時のことは、10年経った今でも思い出せない。
それに彼女が同族である仲間を殺すはずがない。
なぜ、冤罪をかけられたのかは、分からない...。
───バシッ!よりにも寄って、本の角で殴られた。ヒルアが痛そうにすると、叔母は、しかめっ面でため息を吐いていた。
「ヒルア。何、ボッーとしてるの」
ヒルアが不服そうな顔をすると叔母は、レジへと戻った。
彼女は、叔母が経営してる薬剤局でお手伝いをいた。
「ねぇおばあちゃん、魔法がある時代に薬なんているの?」
ヒルアは、出来上がった薬品を棚に陳列していた。
「それは、万能なのかい?確かに魔法で大体の怪我は、治せるだが魔力がある限りだ。それに回復魔法は、多くの魔力を消費させる。一方、薬は、魔法を使わず、
魔力を消費せず、怪我を治すことが出来る。便利だと思わないか?」
叔母は、頬杖を着きながら、そう言っていた。
「そうだけど、回復薬だけじゃないよね?劇薬もあるし、爆薬まで···」
「それは秘密」と叔母にそう呟かれ、口を塞がれた。
「ほら、お客さんだよ?いっらっしゃい。何の用だい?」
来客の鐘が鳴り、目の前には男が立っている。ユージンと確かそう言っていた。
昨日の男がなんでここにいるのだろうとヒルアは、目を丸くしていた。
「嫌、薬じゃなくて、娘さんに用があって来ました」
叔母は、にこやかにユージンの背中を押して、調剤室へと足を運ばせる。
二人きりは、不味いと思い、ヒルアは、引き留めたが何故か怪訝な顔をされる。
「叔母ちゃん!そんなのじゃないから行かないで!」
さっきまでふざけていた叔母の顔がみるみると険しくなっていく...。
「隠さなくていいのよ。あんた、魔法使いね?ヒルアをどういう訳で狙ってるかは、分からないけどね。孫にどういう要件で来たんだい?」
「おれ、もしかして警戒されてる?」
───カラーンと鐘の音が鳴り響いた。1人の女性が入って来た。
「そうね、客のフリしとけって言ったでしょ」
「パトラ。でも俺、薬のこと、分かんないし···」
2人で何だか、小声で呟いているが何を言ってるかは、聞こえない。
「叔母ちゃん。これは、一体」
「うるさいね!!!あたしの孫に何の用だい?あたしが10を数えてる間に言わないと毒粉、ぶちまけるよ」
叔母は、凄い剣幕で毒が入った袋を持っていた。
「いきなり物騒だな」
「───1、2、3」叔母は、毒が入った袋に手を入れ、ばら撒く気だ。
「分かった。言うから!君を保護しに来た。ここにいても安全の保証がない」
「余計なお世話だね。だいたい、君達は、何者なんだい?」
紫髪の女性は、凛とした表情でこちらに歩み寄った。
「千武族の保護団体です。いつかは、魔法と共存する世界を...」
紫髪の女性は、叔母の手を握っていた。
「綺麗事だ。奴らと共に生きるなんて笑わせる。孫は、魔法世界に人生をめちゃくちゃにされたんだ!身に覚えもない冤罪をかけられ今も辛い思いをしてる。
それを耐えろと?」
すぐさま、叔母は、握られた手を振り払った。
「それは、違います!マスターは、ただ争うではなく...」
「マスター?ギルドでもやっているのかい?」
叔母は、険しい顔でパトラにそう尋ねた。
「そうです。治安の維持と魔物の退治。それと千武族の保護」
パトラは、怯え気味にそう答えるが、叔母は、難しい顔をしていた。
「それはさっき聞いたよ孫はあたしが守る。だからあんたらの力などいらない」
「お言葉ですが、あなたはご高齢に見られます。それでもお孫さんを御守りになると?」
「叔母ちゃんにそんな事を言わないであたしだって自分の事位、守れる。
ここにいるのは、あいつらに逃げる。自分が嫌だから」
ヒルアは、叔母を庇うようにパトラの目の前に立っていた。
「そう、分かったわ。あなたは10年も逃げきれた。でもそれは運が良かったから
そのうち見つかるわ。だってあなたを血眼になって探しているだもの
ヒルア·ダルクの事を...」
********
ヒルアの家から追い出され、ギルドへと帰っていく所だった。
「失敗したじゃねぇか。お前があんな事を言うから、追い出されただろ」
オマケに因縁を付けられ結局、毒粉ではないがユージン達はヒルアの叔母に塩を投げられた。 散々な目に遭わされ服は、塩だらけだ。
「そうね、でも印象づけることは出来たでしょ。それだけでいいのよ」
怪訝な顔をするとパトラに呆れた顔をされた。
「あんたは、バカなの?あの人達は、何なの?始まりはそれでいいのよ!
それに彼女は、誰にも助けを求めていない。今、そんな事をしたら鉄の壁の叔母が突っかかって来るわ。余計なお世話ってね」
「どうするだよ。もう警戒されてるし、結構な鉄の壁だぞ」
「彼女の存在が知れたわ。本当は、保護目的だけど守る事が出来る。
それしか無いわね」
「それじゃ意味無いだろ」
「大丈夫よ。あいつらだっていつまでも黙ってないわ。彼女のことをきっと
探してるわ」
「···根拠は?」ユージンがそう言うと「さぁね」とあっさり返され、睨み返すが
パトラは、相手にもしなかった。
*****
森に密かにそびえ立つ城には、綺麗な女性が居るという噂だ。
「いつまで、ヒルア·ダルクの居場所を掴めないのよ。役立たずね」
ここには、大量にコンピュータが置かれていた。
監視室には、監視カメラが仕掛けられている街や村の映像が映し出されて
いた。
「今、探しているので、もう少し待ってください」
部下は申し訳なさそうに謝っていたが上司である女性は不服そうだ。
「それ、あたしの前で何回、言ったの?今、使ってる最新位置情報機器でも
探せないのかしら」
「──やめなさい」と静かに階段を降りてきた。彼女は、その女性を見た瞬間に
頭を下げた。
きらびやか白い髪と容姿端麗な淑女は、突如、威圧的な態度を見せた。
「彼らを責めることは、ないわ。こんな最新機器を使いこなせない人達に任せた
あたしが馬鹿だった。それでいいわ」
「でも、それじゃあなたが、悪いみたいでは?」
「いいのよ。これ以上、あたしに恥をかかしたくなかったら、ヒルアを這いづいてでも探しなさい」
先程の淑女に耳元で威圧的な声で言われただけなのに手が震え、頷くしか
できない。
「よし!アイラ、あたしは、忙しいからお願いするわ」
「はい、全ては、シロ様の理想通り」
アイラは、不敵に笑みを浮かべていた。先程の淑女は白魔王でこの国の女王様だ。白魔王は、穏やかに微笑むとすぐさま、去っていた。
次回に続く。
1ヶ月位、遅れました
すみません、私生活がバタバタしていて
やっと落ち着いて、今日、更新出来ました
これからもご愛読宜しくお願いします((*_ _)