千本の剣(つるぎ)
ヒルアには、アクアの気持ちなどきっと、分からないだろう。彼女は、ずっとそう思っていた。地獄から救われたと思ったのに手を取った先は、テロ組織のボスだった。でも、もうそれしか、道が無かった。
「貴方に何を言われようが引き返すつもりは、ないの」そう言っていたアクアの手は、震えた。ヒルアは、威圧が混じった怒鳴り声で叫び散らすが、何も聞こえない。「そんなのあってもなくても、変わらない。貴方達がしてることは、魔法族と一緒だよ!あんなに憎んでる奴らの一緒の道を歩いてるだよ」
アクアは、彼女にそんな事を今更言われたって何も響かない。そう、分かっているからだ。ボスは、彼女を払いのけ、向こう側にいたヒルアに苛立ちが混じった眼光が放たれる。「やっぱり裏切ったか!アクア、そんな小娘殺してやれ!魔法族と俺達がやっている事が一緒のはずがないだろ」
アームズの彼らは、逃げる為に外に出たのに、こんな目に遭うとは、思ってもみなかった。ゆらり、フンワリとアクアは、うごめいて、彼女は、人なんて殺し慣れてるはずなのに。目の前のヒルアを斬るとなると揺らんでしまう。
「震えた手で剣を握るな。揺るがない信念と覚悟で振るうならばそれは、奴らの心臓に刺さるだろう。これは、千武族に代々伝わる心得だよ。今のあなたにそれがなってない。」ヒルアが指を鳴らすと千本の剣は、アクアの周囲に飛び交った。
こんなの当たったら滅多刺しに決まってる。アクアは、そう思い、後ずさった。
「何を言ってるの!あたしは、ボスに助けられた。だから今があるの。何も知らない他人のあなたにとやかく言われる筋合いは、ないの!」
アクアは、激しく激昂したが、ヒルアは、真っ直ぐに彼女に視線を注いだ。
「ヒルア、これ以上の説得は無意味ですよ。ボス、貴方に聞きます。全ての魔法族を殺してどうするおつもりですか?」
ジスタは、軽く、ヒルアを払い除け、ボスにそう問いかけた。
「そんなの決まってるだろ。憎きものを殺して、千武族だけの世界を作る。」
この男の言うことに嘘、偽りなどない。きっと魔法族全てを殺すつもりだ。
ジスタのその考えは、推測でしかないがそれは、確かなものだった。
「それは、無謀な夢を掲げているんですね。巨大な組織でもないのに、全世界の魔法族をやろうだなんて、馬鹿ですか?」アクア達とってジスタの言葉は、耳を疑う程の物だった。アクア達を嘲笑い、悪魔みたいな魔法族と一緒だ。
「お前、舐めてるのか?千武族は、武器を自由自在に使いこなして、魔法さえ超越した存在だ──」ジスタは、呆れ果てたのか、ため息を吐き捨てる。
「強さがどうとか言ってるじゃありません。技術、経済、ここまで世界が発展したのは、間違いなく白魔王のおかげです。魔法が絶対的な世界じゃ貴方達は、無力過ぎる」ボスは、ゆっくりと歩み寄って、ジスタの襟元を掴んだ。そして、こう言った。「お前らがそうしたんだろ!!千武族を居場所を排除したんだよ!」「だからって罪もない魔法族を殺さなくたっていいでしょ!!貴方達がやるべきなのは、国民ではなく政府側の魔法使いでしょ!どうせ無理でしょうけど白魔王護衛魔法騎士団は、世界中から最強のエリート集団です。勿論、国際ギルドよりも遥かに。世界を敵に回されるのでしたら、相手にしなきゃいけないのは、そのヤツらですよ」
「そんなの知らねぇよ。今更戻れやしないんだ。野望が果たされるまで、戦いは、止めない」ボスは、大剣を振り回し、ジロンが用意してくれた召喚獣は、切り裂かれ、全匹、消滅してしまった。
「殺られてしまいましたね、ヒルア。こいつらを仲間にする気なんてありませんよ。マスターも許さないでしょう」
ジスタのその言葉を聞くなり、彼女は、冗談交じりに笑って見せた。
「あたしは、そんな気なんてないよ、アクアさん。あたしを殺してみせてよ」
ヒルアは、カツンと靴を鳴らし、アクアとの距離をゆっくりと縮めた。
「貴方は、何がしたいのよ。殺されたいの?」
「千剣の咆哮!!」とヒルアは、そう唱えた。突如、千の剣の雨を降り注いで、地面に刺さった。彼女の追撃は、自分の仲間さえも巻き添えにしていた。
アクアには、ヒルアは、どういうつもりでこの行為に至ったのか、全く分からなかった。「あたしは、逃げ惑う貴方達を高みの見物をしてた。間抜けで醜いかったわ、本当は、楽しかったんじゃないの?迷いが生じてるうちは、まともな人間で居れる。魔法族を殺してる自分は、汚らわしくて嫌い。さっき言った言葉は、そういう意味だよ。家族を殺した、仲間を殺した魔法族全てが憎しみにすり変わっている。アクアさん、引き返せない状況は、作ったのは、貴方だよ。誰かの救いばかりを求めるだけじゃ何もかも変わらないよ」
彼女は、そう、冷たく言い放った。そして、誰かがアクアの目を塞いだ。
そこから彼女の記憶は、無い。
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燃え盛る炎は、村人を襲い、焼死して逝った。目の前で両親を殺された彼女は、そこで立ちすくむしかなかった。これは、10年前の出来事でアクアの中で起きた。
彼女の人生を変えた1つのきっかけに過ぎない。魔法使いは、そこら中にいて、アクアが殺されるのも時間の問題だった。でも彼女は、ある男に手を引かれ、村から逃げたのだ。それがボスとの出会いだった。連れていかれた先は、隠れ家でそこに今の仲間がいた。助けたのは、彼女だけじゃなく数人位いた。子供だったから何もわからなかったけど、救ってくれたこの人は、良い人だと決めつけしまった。
あの絶望から光をくれたんだから、恩返しをしなきゃいけない。アクアは、ずっとその思いを巡らせていた。
───その先の道がどんなものか知らない彼女は、闇へと足を踏み入れた。
初めは、彼女は、人を殺すのが嫌だった。でもボスにアクアは、こう言われた。
「お前の両親を殺した魔法使いと一緒だ」と言われると感情を赴くままに爆弾を落とし自らの手を血で染めた。彼女は、走り抜いたが、腐敗した足は、ゆっくりとして迷いを生じさせた。彼女は、あいつらと同じ過ちをしてる事に気づいたがもう、引き返せない事を知っていた。
だからヒルアが言う言葉に彼女は、心が揺らいだのだ。こんな自分を誰も救ってくれない。アクアは、そう考えていた。きっと殺されるだけだろう。彼女が生き残る方法は、もっともっと汚れて、手をまっ赤な血で染める事でしか、道を歩めない。それは、彼女が思ってるより、涙が気づかないうちに流れるように辛い。
次回に続く。




