目に映るものだけがすべてじゃない。
少女の中には、死ぬという言葉だけが脳裏に過ぎていた。
ヒルアは、この青年に殺され、18年目の生涯を終える。きっとそうだと思っていた。なのに、話が違うではないか。ヒルアは、全く知らない場所に連れ込まれ、
女性にお茶まで出された。まるで彼女は、客人のようだ。
ヒルアは、一応、会釈は、したが、警戒を解いた訳では、ない。何がなんでも
怪しいのでは、ないか? でも目の前の女性は、ヒルアに物凄く、微笑んでいた。もうどうしていいか分からないヒルアは、思考を停止していた。
つまり、考える事をやめたのだ。
「可愛い女の子連れてきたわね。お茶、遠慮しないで飲んでね、ユージン!早く、資料!!」
彼女にニコリと会釈をされ、ヒルアは、苦笑いを浮かべた。不意に視線を動かすとホールの看板に『ワールドプロジェクトギルド』と書かれていた。
ここは、一体何なのだろうとヒルアは、考えを巡らしていた。
「持ってきたぜ 俺は、ユージン、君は?」
彼は、テーブルに紙の束を置き、彼女の顔を伺った。
「あたしは、ヒルアよ...それより今、この状況を説明してほしい。ここは、国際
ギルド局じゃないの?」 ユージンは、怪訝な顔をして、にやけ始めていた。
「騙されてるな。俺は、局員じゃない..。君にとって敵ではない。どちらかというと味方だ」
「騙したの?」とヒルアが聞くと、ユージンは、首を振っていた。
「騙したんじゃないんだ。嘘でも言わないと君は、連れ出せないと思ったから...
すまないね」
ヒルアにとって彼のその言葉は、紛らわしいとしか思えないものだった。
「それに局員なら、千武族の力なんてみたら、その場で殺すに決まってるだろ?」
「それもそうだね。で、貴方は、何が目的なの?」
ヒルアは、腕を組んで、ユージンを睨みつけるが目を逸らされてしまった。
「千武族の保護という名目でここで働いてもらう」
「そう、自殺行為ね。あたしは、顔を知られちゃいけないの」
ヒルアは、即座に断り、ギルドのドアを開けようとしていた。ユージンは、
あからさまに険しい顔をして、帰ろうとするヒルアの腕を掴んだ。
「じゃあなんでここに暮らしてる、君にとって危険な国だろ」
「何が言いたいの」とユージンを挑発するような瞳で睨みちらしたが大柄な男が
近くまでやって来て、顎を持ち上げられた。
「君は、世紀の大虐殺犯 ヒルア·ダルクだな。千武族の村を業火で燃やし尽くし、挙句の果て村人ものとも、皆殺したんだよな?そりゃ世界中に指名手配されるよな」
「同一人物とでも言いたいの?ヒルアっていう名前は、いくらだってあるわ」
ヒルアは、平然を装うが心臓の音は、止まず、今度こそ、殺されるのでは、
ないかと思っていた。
「それもそうだが、犯人の特徴は、金髪と青い瞳だったよな。どんだけ似ているんだ?」
彼に威圧的な態度でそう言われた。その言葉に乗せられてイエスなんて言って
しまうかもしれない。
でもそれだけは、絶対にだめだ。バーンと銃声が鳴り響いていた。
ヒルアのそばに居た大柄な男が拍手までしていた。全く意味が分からず、
ヒルアは、目を疑った。
「嘘よ、知っているわよ。だから、貴方が犯人じゃない事も分かってる。当時8歳
の子供にそんなこと出来ないわ」
水色のロングヘアの女性が合図すると、周囲にいた千武族達は、木の棒を投げ
始め次々と剣や銃に変わっていた。ユージンだけがヒルアを見つめた。
「これで分かっただろ?」
「──分かったって何が?千武族が数人にいる事位しか分からないよ。あたしは、冤罪をかけられてるだよ。そんな奴の味方になって、あなた達になんのメリットがあるの?」
ヒルアを味方にして彼らに利益なんてない。余計に追われるだけだ。
彼らにとってそれは、死にたいと言ってるみたいな物だ。
この国、世界に逆らうとただの肉片となる。
痛いほど、ヒルアは、それを分かっていた。でも彼らの瞳は、輝いていた。
ユージンの横にいた女性は、ヒルアの肩に手を掛ける。
「世界にあるのは、絶望だけじゃない。願いを捨てなければ、必ず、光は、見える...共存と平和、独裁政治破滅を目指し、世界を変える計画、ワールドプロジェクト。ここのギルドの名前だよ」
「つまり、反逆者の集まりってこと?」
「まぁそういうことになるわね。あたしは、パトラよ。宜しくね」
紫色の髪を靡かせ、手を握られる。
「何も気を負うことは、無いんだよ、ヒルアちゃん」
いきなり、横から抱きしめられたが、彼女は、何が何だか分からなかったが、
すごく暖かく感じた。
「やめなさい。ユミン、ごめんなさいね。びっくりさせてしまって...」
パトラにユミンは、引き剥がされ、ヒルアは、首を横に振った。先程の大柄の
男性は、周りにマスターと呼ばれていた。
「強引ですまんかったな、でも決めるのは、君だ。俺達に保護されなければ、逃亡生活か。ここだったら身を隠せるし生活面も保証されている。なによりここは、
国にバレていない。」
「嫌よ、あたしにだって守りたい人だっている。逃亡生活だっていい。その人の傍に居られたらそれでいい。そういう事だからじゃあね」
答えは、ヒルアの中で既に決まっていた。
これからの歩む道が過酷だっていい、彼女には、帰る場所があるのだから···。
********
ワールドプロジェクトのギルドの中は、いい匂いが立ち込めて、その場にいるだけで空腹感が浮き彫りになる。
テーブルには、美味しそうな料理が並べられていた。
「逃がして良かったのか?追えばよかったのに。監視カメラには、絶対に映ってるぞ。
いずれにしても捕まるぞ」
皿に残ってる最後の肉を食べようとユージンは、思ったが、誰かの手によって
取られてしまった。
「ユージン、10年も逃げきれた女よ、国全体が動かないと捕まえられないわ」
パトラは、そう言いながら、肉を美味しそうに頬張り、ユージンに見せつけていた。
「パトラ!人が取ろうとした肉、取るなよ」
「トロイのよ、ユミン、肉ないの?」
「野菜ならあるけど?」
ザルに乗った新鮮な野菜達を目にしてもパトラは、「いらない」と手を振って
いた。
「ほんと嫌いだよな、ユミン、キャベツのバター炒めにしてくれない?」
「OK、食欲旺盛でいい事ね」ユミンは、ザルに乗った野菜達を厨房の大きいフライパンでキャベツを炒めていた。
「まぁな。腹減って戦は、できないからな」
「何を一丁前に言ってるのよ!魔法も使えない癖に。剣しか使えない奴が何を言ってるの?」
「簡単なヤツだったらいけるからな!それに俺の剣術は、英雄の直伝なんだぞ」
「何かの間違いじゃないの?ほら出来たよ。 ユミンは、そう言いながら食卓に茹で上がった野菜とキャベツのバター炒めを置いた。パトラは、首を傾げ、ユージンを疑いの目で睨んだ。
「ユージン君のおじいちゃんって勇者の祖先だったんでしょ」
ユミンの料理を食べながら話を聞いているが、ユージンは、けなされてる気が
しかしなかった。
「それ、本当なの?ユミン。」
「さぁね。ユージン君の自慢話を聞いただけだから何ともね」
「ユミン。お前もかよ!いつか証明してやるからな!」2人を指差すと、笑い転げられ、ユージンの顔がみるみると赤くなっていた。
女性二人に「楽しみにしておく」とだけ言われた。
ユージンの事を完全にからかっているのだろう。彼がは、ふと思い出したのは、目に映るものだけがすべてじゃない。マスターがユージンに言った最初の言葉だ。彼女が目にした世界を知らない。
冤罪をなぜかけられたのか。何をしてそうなったのか。 何も知らない。
ただ千武族だと言うだけが真実だ。
次回に続く。