敵の実力。
薄暗く、鉄臭く、血に似た匂いを漂わせていた。ここは、彼等のアジトだ。ヒルアは、アクアと一緒の部屋だった。彼女は、ベッドに座り込んでいた。目の前にいたアクアは、気まずそうにヒルアを見つめた。「どうしたの?アクアさん」ヒルアは、首を傾げ、そう尋ねた。
「あなたは、見捨てられたのよ。悲しくないの?」
アクアの問いかけにヒルアは、眉1つさえも動かさなかった。
「そういう訳じゃないから何ともないよ」ヒルアは、少し微笑んでみせた。
「そう、お気楽なのね。逃げるなら、いまのうちだよ」
「逃げないよ。あたしは、もうそう決めたから···。」
アクアに言われた事に対して、ヒルアは、怒ることも無く、ただ真剣な目で見つめた。「あなたは、汚れてもいいの?」アクアにとって、この場所に居ることが汚れる事だった。 ほぼ毎日、テロを起こして、魔法族を殺していたからだ。罪悪感を感じない方が難しいだろう。
「なんで、他人にそんな事が言えるの?」
ヒルアの言葉に悪気など感じられなかったが、アクアには、反論出来るほどの強さもこのやり方に誇りさえ持っていない。だから、ヒルアに怒鳴り散らすしかなった。「うるさいわね!言ってみただけよ」どうやら、ヒルアは、アクアを怒らしたらしい。彼女は、まったく気にしては、いなかったが仲良くは、した方がいいとは、思っていたのだ。
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ワールドプロジェクト に戻り、ジスタは、疲れたのか、座り込んでいた。
「お疲れ様ね。ジスタ」ラブリーは、テーブルにコーヒーを傍に置いた。
「ラブリー、ありがとうございます。ほんと疲れますよ」ジスタは、溜息を吐きながら、コーヒーを飲み干していた。「ヒルアちゃんが快く引き受けてくれて良かったよね。とりあえず、情報は、引き出せるね」ラブリーは、ジスタの真正面の席に座り、安堵した様子で微笑んでいた。
「そうですね。早速、ヒルアには、明日からにでも動き出してもらいますね」
ジスタは、眼鏡を少し上げ、資料をまとめていた。
「そうだね。ヒルアの身の危険を考えたら、急いだ方がいいかもね」ラブリーは、心配そうに俯いていた。「そうだな。ジスタ、長期戦になりそうか?」
いつの間にか、背後には、大柄な男が立っていた。
「そうですね。マスター」 ジスタは、振り返って、頷いた。
「まぁ覚悟は、していたさ。俺は、お前の策に乗ったんだ。最後まで信じるよ」
マスターは、穏やかに笑っていたが、ジスタは、この男に言ってないことがあった。「それは、ありがとうございます。言うの忘れてたんですけど、ノアールさんの許可を取るの忘れてました」マスターの顔は、どんどん青ざめ、ため息を吐き捨てた。「まぁいい。そ、それは、俺が何とかするさ。ノアールだって話しが分からない奴じゃない」
マスターは、そう言ってるが声が震え、動揺が隠せていない。
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「なんだって!!!」と電話越しにヒルアの叔母に怒鳴られ、マスターは、鼓膜が割れるかと思い、耳を押さえていた。「落ち着け!ノアール」
マスターは、そう言うが叔母の怒鳴り声は、止むことを知らず、近くにいたジスタ達にも丸聞こえだ。
「何をやっているんだい?ヒルアの身の安全は、保証されているのかい?」
声だけでもわかるようにノアールは、威圧的だったが淡々としていた。
「一応、脅しは、かけたんだ。しばらくは、大丈夫だろう」マスターの言葉を聞いた瞬間、おさまっていた怒号は、再び、呼び起こされた。
「あんたは、ほんと呑気だね!!」
「──ノアール!そういう訳じゃ...」マスターの言葉も聞かずに叔母の勢いは、
止まらない。
「そいつは、脅しが通じる相手なのかい?ヒルアは、強い子だ。簡単に殺せは、しない。あたしが育ってたからね」
「じゃあ、心配する必要ないだろ」
流石のマスターでも、押されに押され、傍にいたジスタ達が心配する程だった。
「白魔王に目をつけられるような真似を奴らがしようものならあたしが殺るよ。それでもいいのかい?」
「それは、もう手を打ってある。ノアール、だから安心しろ」叔母は、呆れたように「分かった」と呟き、電話はプツンと切れた。ため息を吐き捨て、マスターは、自分の企み通り行くか、少し不安だった。 奴らが大人しく騙される程、馬鹿だと安心なんだがどうだか...。
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敵のアジトで 迎える初めての朝は、憂鬱でアクアは、既に起きていた。
「随分遅いのね。今日は、朝から会合よ」アクアは、もう先に身支度を済ませ、優雅に新聞に目を通していた。「3人だけで小規模なのね」
ヒルアは、気ダルそうに目をこすっていた。
「あなたも入れて4人でしょ。他の奴らは、騒ぎを起こして、いないから」
アクアは、ヒルアにキッパリと言った。味方とは、言えど、昨日まで敵だった相手にそんな大事な情報を吐けるのか。ヒルアは、驚いていたが、決して顔には、出さなかった。「そうなんだ。じゃあ早く準備、済ませなきゃね」
ヒルアは、微笑んでみせた。そして、身支度を始めた。
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ヒルアが聞いたアクアの話によると他にもメンバーがいるみたいだ。人数と実力さえ分かれば完璧はのだが深く問い詰めるのも不自然だろう。じきを待つしかないか。彼女は、ボスの所に向かった。
「おはようございます。ボス、ジスタから連絡が来ました」ヒルアは、少し頭を下げると腕時計型の端末に電源を入れた。
「何だ?早速場所の提示か?」ヒルアは、ボスの問いかけにコクリと頷いた。
端末のスイッチを押した瞬間に映像が現れ、場所の名前が表示された。
「今日は、ここで魔物退治イベント行われます。より多く倒したやつらが大金を手に出来ますので参加者が大勢いるんですよ」ヒルアは、映像をスクロールをして、依頼の詳細をこと細やかに説明していた。「規模は、どれくらいだ」
「500人程度ですね。まぁ十分でしょ」ヒルアは、ボスに微笑んでみせた。それを答えるかのようにこの男も口角が上がっていた。
「そこでテロを起こすのかいいじゃねぇか。やろうぜ。アクア、ハンネス、ヒルア?お前の実力、見せてもらうおうか」ボスの目は、笑っていなく、彼女の武器である拳銃を見つめていた。
「それは、嬉しいですね」ヒルアは、素晴らしいぐらいの愛想笑い見せたが目の前の極悪人に寒気を覚えていた。
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昨日、ジスタがヒルアに送った。チャット式のメールだ。
ジスタ(魔物退治って言うのは、ほんとですよ。だってうちにきた依頼ですもん)
ヒルア(それをアイツらにやらせるの?)
ジスタ(簡単に言えばそうですね。偽のイベントをほのめかし、まぁ適当に合成写真とか見せましょう。その森は、村の近くですし村人が魔物が多くて困ってるので彼らには、善行をしてもらいましょう)
ヒルア(でも、参加者が居ないと不自然じゃない?)
ジスタ(そうですね。適当にケンとパトラをそちらに行かせますね)
ヒルア(顔とかもう分かってるから、あれなら変装した方がいいかもね)
ジスタ(それならあの二人なら大丈夫ですよ。今回の任務は、あくまで彼らの実力を図る為です。後、出来れば、仲間がいるかどうかの確認ですね。)
ヒルア(アクアに聞いたら、ほかの所で騒ぎを起こしてるから、今は、居ないみたい。)ジスタ(分かりました。各地に監視虫を張り巡らせて警戒しときますね。ヒルアさん、危なかったらいつでも逃げてください。それを合図に潰しますから)
ヒルア(そうには、ならないと思う。あたしも強いから、その時になったら戦うよ
ジスタ(それは、頼もしいですね。じゃあ、明日はお願いしますね。おやすみなさい( ˘-˘ ))ここでメールは、途絶えた。ヒルアは、わかっていた。ジスタだってあたしを好きで差し出す訳じゃない。
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「すっげーな、看板まであるぞ!巨大な魔物を殺すほど、金を貰えるだってさ」
巨大な看板が掲げられ、イベントの詳細がざっくりと書かれていた。
「よっぽど欲しいのね」アクアは、周りを見渡して、何か、警戒してるみたいだ。
「お金は、大事ですからね。参加者は、奥にいるみたいですね」
ヒルアは、笑ってみせるが、横にいたハンネスに気味悪そうにされた。
「敬語やめろよ。気持ちわりい」
「じゃあ辞めるね。早速行こうよ!いっぱい殺すでしょ。楽しみだね」
ヒルアは、不気味にわざと微笑んだ。殺すのは、まぁ人じゃなくて魔物なんだけどねとヒルアは、心の中でそう呟いていた。
次回に続く。