作戦会議
「やっぱりって感じですね」
ジスタは、通信機の音声を切り、呆れた声でそう言っていた。
ここは、ギルドで作戦会議が開かれていた。テーブルの上には
音声録音機が置かれていて、それを囲むように皆が立っていていた。
「──派手な事やってたら、組織ごと炙り出されて殺られるよ」
ラブリーは、テレビを見ながらそう言っていた。彼等が見ているニュースでは、連日、に何者かによってテロが相次いでいると報じられていた。
「そうですね。ラブリーの言う通りです。俺達が手を出す程でもなさそうです
けどそういう訳にもいきませんね」ジスタは、ため息交じりに呟いていた。
「俺達の共存という夢に支障を来す。絶対に俺達の手で止めるんだ」
マスターは、険しい表情で軽くテーブルを叩いた。その怒鳴り声だけが
ギルド中に響き渡る。
「まぁそうだよね 。ねぇ、ジスタ、どうするの?アジトは、分かったんでしょ」
ラブリーは、テーブルに出された地図のある場所を指ざしていた。
「彼らが動き出す前にやらなければ大事になるぞ」
マスターの顔がみるみると険しくなり、彼等が起こしたテロ事件の資料を
読んでいた。
「大事にならせなきゃいいですよ。マスターは、嫌かもしれませんが、彼らの味方になるフリをしませんか?」
ジスタは、作戦の内容を書いた書類をマスターに渡していた。
「テロ組織の味方になれって言うのか?」
マスターから、威圧的な声が発される。
「フリでしょ、そんなに固くならなくてもいいんじゃないの?」
パトラがマスターを宥めるが、依然として変わらず、険しい顔をしていた。
「そうは、言っても、反する奴らがそれを受け入れるのか?」
マスターは、首を傾げ、そう漏らしていた。
「それは、分かりません。今、知りたいのは、彼らの情報です。組織ごと潰す
には少なすぎる。せめて、人数さえ分かればいいのですが──」
ジスタは、音声録音機を何度も聞くが数人の声しか聞こえない。
「ふーん。GPS搭載の監視虫が仕掛けてるなら、じきに出るだろ」
ケンは、だるそうにそう言いながら、欠伸をしていた。
「今のところ、3人の音声しか聞いていませんよ。ケン」
ジスタは椅子に座り、頭を抱え込んでいた。
「もしかしたら、あれかもね。ほかの人たちは、どっかで事件起こして、アジトにいない可能性もあるかもしれないね」
ユミンは、3人以上と睨んでいた。彼等が絡んでるテロ事件は、各地で相次いでいる。とても3人で起こしたとは、皆は、思えなかった。
「ボスも動きだしそうだし、このままじゃ大虐殺が起きるかもね。ラブリー
怖い。」
ラブリーはジスタに抱きつき目がうるうるとさせ怯えてるフリをしてみせた。
ギルドの鐘が鳴り響き、ドアが開いた。
「さすがにそこまでは、しないでしょ」
ユージンとヒルアが一緒に任務から帰ってきていた。
「だって、そう言ってたもん。まだ聞いてないから、分からないか」
ラブリーが通信機のスイッチを押すと、音声が発せられた。彼女の言う通りで
確かに魔法族を全てを殺すと言っていた。
「彼等がこんなにも復讐心を駆り立てるのは、理由がきっとあるはずだ」とマスターがそう言っていた。
「止めなきゃ、どんどん殺されちゃうよ」
ラブリーにそう言われ、ヒルアは、血だらけの住人達を想像してしまい
口を手で覆った。
「やるしかないか」とマスターは、そう零し、考え込んでいたが何も思いつかないみたいだ。
「もし、味方のフリをするにしても彼らにはメリットだけを提示しましょう。
共存は奴らには、デメリットです。意を示せば交渉決裂ですよ」
ジスタの表情は、ガラリと変わり、冷徹な策士の片鱗を見せていた。
「そうなったらどうなるんだ?」ユージンは首を傾げ、ジスタをそう尋ねた。
「ユージン、それは、俺達も敵とみなされて、バン」
ジスタは、ユージンの方を指ざして、そう言っていた。
「その場で殺されちゃうよ、遺体は、焼かれて、海に捨てられるかもね」
ラブリーのその言葉を聞いて、ヒルアは、あの出来事を思い出してしまう。
自分達もあんな風に処刑されるだろうか...。
「そんな最期、嫌だよな?パトラ」ケンとパトラは、互いに頷いていた。周りから見ると仲が良過ぎないか?と思われていた。
「吐き気がするわ。まぁ、まずは場所が分かってるだし、交渉には行きましょうよ」パトラは、気味悪そうにそう零した。
「失敗したらどうしますか?」
ジスタは、そう不安そうに呟くが、パトラは、何故かニヤリと笑っていた。
「そりゃ君の機転で切り抜けるのよ。それにやる前から失敗を想像するなんて
案外、臆病者なのね。ジスタ」
「随分、舐めたことを言いますね、分かりました。じゃあやりましょうよ」
ジスタは、眼鏡を上にあげ、不気味に微笑んでいた。
「お前、わざと挑発したろ」ケンは、パトラの肩を叩き、怒鳴り散らしていた。
「ケン!だって、長々と話しても進まないでしょ。そんなの退屈よ」
パトラは、ため息混じりにそう呟いた。
「これは、面倒い事になるぞ。パトラお前が油を撒いたんだ。火消しは任したぜ」ケンは、今度は、軽めにパトラの肩を置くが当の本人には鬱陶しいがられた。
「えぇー、なんであたしが炎上の処理をしなきゃいけないのよ」
パトラは、唇を尖らせ、不服そうな表情をしていた。
************
数日後。彼女は、ずっと、嫌だった、でも逃げないのは自分が
臆病者だと知っていた。アクアという人間にはそんな言葉が似合うかもしれない。
──────バンンンンン!!ドアが蹴られ、皆がそちらに視線を寄せていた。
「こんな廃墟がアジトか。随分、しょぼいだな」
強面の男が大剣を背負って、こちらを睨んでいた。
「物騒な入り方しましたね、ケン」
どっかで見た事があると思ったらあの時の悪魔だとアクアは、そう思った。
「開かなかったら壊したんだよ。セキュリティなんだの、面倒くせぇな」
ケンは、舌打ちをしながら、周囲を見渡していた。
「指紋認識なら簡単に行けますよ。アクアさんの取ってますし──」
ジスタは、彼女の顔を睨んで、そう言っていた。アクアは彼らに歩み寄り、
こう言った。
「何なの?貴方達...。」
「抜かりがないね、ジスタ」
ラブリーという女性はアクアの問い掛けを無視して隣の彼に視線を向けていた。
アクアはずっとこの3人は、何故ここに来たのか、考えいたがわからない。
「あなた達2人とは、会ったことあるけど、ここになんの用できたの?」
「アクアさん、それはねぇ交渉しにきたの。あなた達の味方になろうと思ってだめかな?」
ラブリーは、ハンネスに近づき、胸もとを見せていた。
「色仕掛けになんか乗らないぞ。なんのつもりだ?お前らは、共存だろ思想が
合わないじゃないか」
ハンネスは、ラブリーの色仕掛けに動じず、むしろ機嫌悪そうに怒っていた。
「気づいちゃった!?めんどくさいな!他の魔法族を殺すのもいいかなって思ったの。あたし達は、対象外って事でいいかな」
ラブリーの話を真に受けるとしたらアクア達にはメリットしかないと思うが
それは、ボスが決める事だと彼女は、そう思っていた。
「ボスは、悪いが不在だ。俺達が勝手に決めるわけにも行かない。だから、帰ってくれないか?」
ハンネスは、アジトのドアを開けた。つまり、今すぐ出ていけという事だ。
ジスタは、そう感じて、彼らに挑発的な目を向けた。
「このまま、引き下がれって言うんですか?」
「そうだ、帰ってくれ」ジスタを睨み返すように頷いた。
「そのボスが帰って来るまでここにいますよ。そんなに帰らせたかったら力づくでどうですか?」
ジスタは杖を振り回してハンネスに差し出した。
「ムカつくやつだな。死にたいのか?武器を舐めんなよ。 魔法なんか糞くらいだ!」
ハンネスの声が荒く、今すぐにでも武器を出そうとしていたがアクアは手を
握って遮るがすぐに振り払われた。
「その人達は、武器を封じる方法を知ってる。戦うのは、良くない!」
「うるせぇ!それは、お前だからだろ」
アクアの忠告を聞き受けず、ハンネスは、怒鳴り散らした。
「仲間の忠告は無視ですか?良くないですね。ラブリー、ケン、手出しは、無用
ですよ。彼なら肩慣らし位にはなるでしょ」
ジスタは、見下した目で微笑んでいた。
アクアの目には、こう映っていた。
まるであの悪魔達と同じだ。ジスタは、魔法書を開いた。
それできっとあたし達を殺すんだ。
アクアはそう思い、手が震えたが逃げ場がない。
次回に続く