雷鳴
アクアは、星空を見ながら、こう思っていた。誰かが言っていた。見る人に
よって世界は違う...。
ある人には、この景色が綺麗にみれるだろうか窓からは、小さな星が見えて
明かりとなっていた。
「アクア、昨日のテレビ見たよな?」
巨大な椅子にボスは座って彼女を見下ろしていた。アクアが頷くとボスから
指名手配の紙を渡された。そこには、金髪の少女、ヒルア·ダルクと書かれて
いた。
「この人がどうしたんですか?もしかして、捕まえるなんていいませんよね」
「そうだ。拷問して、白魔王をどうやって窮地に追い込んだか、聞くんだよ」
アクアの問いかけに頷いた。
「そんな事をしてどうするですか?」アクアは、淡々と聞き返すが、ボスの顔が
どうも険しい。
「白魔王を殺す為だ。どんな事でも利用する。それが俺だ。」
ボスは、そう言った瞬間に強く眼光を放ち、アクアを威圧した。
「その後、彼女をどうするですか?仲間にするんですか」
アクアは、威圧され、声が震えてしまう。
「 な訳ないだろ。俺を超える存在なんて居ちゃいけない。目的を果たしたら
抹殺だ」
ボスは、怒鳴り上げ、アクアを指ざした。
「そうですか。見つけ次第、捕まえますね」
彼女の肩がビクッとなり、生唾を飲み込んだ。
「おう。よろしくな、アクア」とボスに肩を置かれ、重圧に彼女は、押されて
しまいそうになっていた。
──── 鏡に映る彼女は、どんどん目が虚ろになっていく。可笑しいすぎて
笑っていた。
こんな私は、汚らわしいと彼女はそう思った。そして「こんな自分が嫌い」と
言い捨て彼女は、ふらつくようにベッドに寝込んだ。
翌朝。彼女は、ボスに言われた通り、ヒルアを町中、探し回っていたが
見つからず、近くの公園のベンチに座っていた。
指名手配されてる位だから易々と現れる訳ないかと彼女は、溜息を吐いていた。
「──あたしを探しているの?」と金髪が綺麗な少女が顔を覗かせた。
彼女は、びっくりし過ぎて、手が震えていた。持ってる指名手配の紙が
くしゃくしゃになりそうだ。
「これがヒルア·ダルク」
彼女は、不意にそう呟き、咄嗟にナイフを取り出した。
「殺す気なの?あたしを何の目的で?」
ヒルアは、アクアを睨んで、ナイフなどに怯えもしない。
「あたしに声をかけなければ、殺されずにすんだのよ」
そんなヒルアに負けじと、強い口調でそう言った。
「ふーん。そっか。じゃあ、殺しなよ」
アクアは、ヒルアに背後を回り込まれ、腹を蹴られ、倒れ込んだ。
「震える手でナイフを握っても刺さらないよ。アクアさん」
ヒルアは、そう冷たく言い捨てた。なんであたしの名前を知っているの?
名乗ってすらいないのに。
****
「ヒルアちゃん。久しぶり、よく来てくれたね。昨日の爆破事件知ってる?」
ラブリーの手招きに気づき、ギルドのテーブルに座った。
「嫌、知らない」ヒルアは、首を横に振った。彼女が周りを見渡すとギルドの
テーブルにメンバー全員が座っていた。
「まぁ、当然ですよね、ニュースにも報じられていませんから」
ジスタは、ヒルアの目の前に座っていた。
「千武族の過激テロ組織が起こした事件なんだけど、大勢、人が死んだの」
ラブリーは、ヒルアの横に座っていた。彼女の顔が険しくどこか悲しそうだ。
「ラブリーと俺が偶然、居合わせたんです。何とか無事でしたが、危なかった
です。そんな事は、どうでもいいのですが...」
ジスタは、俯き加減にそう言っていた。
「良くないだけど、殺されかけたし。その犯人と接触した時に虫を仕掛けておいたから」
ヒルアは、「虫?」と首を傾げ、ラブリーを見つめた。
「監視カメラが内蔵されてるの。盗聴も盗撮も出来るやつだよ」
ラブリーは、ヒルアに実際に見せて小さい液晶画面にはヒルアの顔が映って
いた。
「それって犯罪じゃ──」ヒルアがそう言うとラブリーは、同調するように
微笑んだ。
「それであたしは、どうすればいいの?」ヒルアは、ラブリーにそう問いかけた。
「もう、監視虫は、戻ってきたから。この音声を聞いてくれる?」
彼女は、頷き、監視虫に聞き耳を立てていた。
「ヒルアは、奴らにも世界にも狙われてます。今回は、囮になってもらいます。
そしてこいつを捕まえてください」 ジスタがボタンを押すと監視虫の口から写真が出てきた。
「アクアという女を捕まえ来てほしいの。テロ組織の事を吐いてもらう予定
だから」
ラブリーが持っていた写真には、アクアという女性が写りこんでいた。
「分かった。じゃあ行くね」とヒルアが立ち上がるとドアの前には、マスターが
いた。
「ヒルア、ごめんな。昔の因縁のせいで巻き込んでしまって──」
マスターは、申し訳なそうにヒルアに謝っていた。
「分かってて、逃げただけだから。今もあの時のことは、忘れたままだけど
おばあちゃんが未来のために戦ってくれたように、あたしもそうするだけだよ」
ヒルアは、覚悟を決めた瞳をしていた。
「そうか。ありがとうな」マスターは、それに安堵したのか、微笑んでいた。
「はいはい。湿っぽいのは、終わりにしようぜ!マスター」
ユージンがマスターの肩にに手を置いていた。
「そうだな。ヒルア、頼むぞ」彼女は、マスターの問いかけに頷き、ギルドを後にした。
******
ヒルアは、アクアに向けて、妖艶な笑みを浮かべた。
「なんか、拍子抜けしちゃった」
「舐めないで!!あたしは!」とアクアがバック転して、顔面を蹴ろうとしたが
ヒルアに避けられてしまう。彼女は、すぐさま、ナイフを投げ、拳銃に変えた。
弾は、止む暇もなく、とめどなく打った。
ヒルアに反撃をされないようにアクアは、必死だった。
「普通の弾じゃん舐めてる?それは、こっちのセリフだよ。指名手配されてる奴が弱いと思ったの?」ヒルアは、気迫が違う。武器すら持っていないのになんで
こんなにも恐ろしいのだろう。
彼女は、そう考えを巡らせた。ヒルアは、巧みに銃弾を避けたが手からは
透明な網が見えたが、アクアは、正体が分からなかった。
「雷綱」とヒルアは、隠し持っていた透明な網で覆いかぶされ、猛烈な電流に
体は、蝕まわれ、気を失った。アクアは、目が覚めると、ベッドに上にいた。
それは、殺されているはずの自分がこんな所にいるのか。彼女にとってそれが
分からなかった。
「どういう事?」とアクアが呟き、周りを見渡すと金髪の少女ヒルアがいた。
「起きたみたいだね、アクアさん」
彼女は、ヒルアに隠し持っていたナイフを突きつけるが怯える様子すらない···。
「殺す気なんてないよ。事情を聞くだけ終わったら帰っていいよ」
ヒルアは、冷静に淡々とそう言っていた。
「なんで、殺さないの?ここは、どこなの?」
アクアは、訳も分からず、声が震えてしまう。
「意味がないから。殺すような攻撃してこなかったし、チャラにするよ。
そして、ここはアタシ達のアジトみたいな所──」
そんなアクアに動じず、ヒルアは、ずっと平然を保っていた。
「そう。優しいのね。あたしは、あなたを気を失わせて拷問にかけようとした
のに...」アクアがそう言うとヒルアが冗談ぽっく笑っていた。
「それは、聞かなかったことにするわ。これは、忠告ね、武器だけじゃ魔法族は
殺せないよ」
彼女は、冷めた目で言い放ち、医務室を立ち去った。
───きっとは、ヒルアは、彼女が言霊術をつかえない事を見抜いていたのだ。
あの戦いの中で...アクアには、考える余裕すらなかったのだ。
ヒルアを捕まえる事しか、頭にはなかった。彼女はしばらくアジトには
戻れないだろう。
「これからどうなるだろうか」と彼女は、そう漏らしていた。
次回に続く。