約束を守る為に...
大切な物を失う時はいつも嫌な予感がして吐き気がした。幸せは彼女の手から砂のように零れ落ちた。
永遠なんて願わないからもっと幸福に浸りたかった。
だがそれは叶なわなかった。
得られた大切な物の分だけ失っていき、彼女は自暴自棄になり孫娘を縛り付け
世界から遠ざけた。
彼女の狙いとは違い、孫娘は様々な出会いを経て背中には翼が生え
世界を知って"革命"を掲げた。
また大切な物を失う音が忍び寄るように聞こえる。
手が震え彼女は口にした。
「革命に狂わされ呪われる。ホント嫌気が刺すよ」
「ノアール、マシーンアイランドに着いたぞ」
ヘリコプターがマシーンアイランドに着陸してドアを開けられた。
「コク、分かったよ」
ノアールはゆっくりと立ち上がりヘリコプターから降りた。
「ヒルアを止めるのか?」
「止めても無駄だよ。あの子は決めたら誰の言うことも聞かない。誰に似たんだか...」
「ノアール、これだけは約束する。ヒルアを絶対に死なせない」
コクはノアールの手を掴んだ。
「この世に絶対なんてないよ。ただあたしは革命に狂わされたくないだけだよ。
あの子にもあんたにも」
ノアールは握られた手を振り払い、コクの前から去っていた。
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朝を迎えて窓を開けた。
上空にはヘリコプターが飛んでいてこちらに着陸するようだ。
「誰だろう...」
見えたのは一瞬だけだったが武器は搭載されないようだ。
敵機である可能性は低い。
「ヒルア!起きてるか?」
部屋のドアの向こうからユージンの声が聞こえた。
「起きてるけど...」
「ノアールさんがこっちに来たみたいだ。ヒルアに話があるって」
「叔母ちゃんが...」
開けっ放しの窓から風が吹き荒れ髪が激しく靡いた。
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ヒルアはユージンに連れられ首相官邸の応接室に入った。
「ヒルア、久しぶりだね。」
ノアールはソファに座り佇んでいた。
「そうだね。叔母ちゃん、ここは危険だよ。あたしは叔母ちゃんに...」
「それはあんたも同じだろう。」
ノアールに睨めを効かされヒルアは萎縮してしまう。
「そうだけどあたしは覚悟しているから。決めたの
みんなの為に世界を変えるって...」
ヒルアは自分の手を握り、震えていた。
「あたしは覚悟が出来ていないっていうのかい?」
「そうは言ってないよ。あたしは叔母ちゃんを失いたくないだけだよ」
「あたしもあんたを失いたくない。誰に影響されたか知らないけど
生半可な気持ちで革命なんて馬鹿な真似はやめた方がいい」
ヒルアはノアールの横に座り、彼女の手を掴んだ。
「誰にも影響されてない。あたしが決めたの。
生半可な気持ちで革命を掲げてない。あたしは世界を変えるよ」
ノアールはヒルアの目をじっと見つめた。
混じり気がなくて穢れの知らない瞳。いつまでも変わらない。
あの人と同じ目をしている。ヒルアとあの人との影が重なる。
「ハハハッ!ほんとあの人と一緒だね。あんたは黒魔王の息子の孫だよ。
あんたが産まれる前にあの人は革命を掲げて白魔王に殺された。」
「ここの村長の人にそれは聞いたよ。お爺ちゃんがどんな人か知らないけどきっと強い人なんだと思う。
お爺ちゃんがいなかったら千武族はもっと酷い目に遭ってた。」
「もう充分だよ。あんたもあたしもみんなも...ヒルアあんたが
この呪いの連鎖を終わらせられるのなら世界はきっと変えられるよ。
信じてるよヒルア」
「叔母ちゃん、ありがとう」
ヒルアの瞳に一筋の涙が流れた。
叔母ちゃんは幾度、大切な人を失ってきたんだろう。
お爺ちゃんも母さんも父さんも仲間も...。
叔母ちゃんにこれ以上悲しい思いは絶対にさせない。
そう決心してヒルアはノアールを優しく抱きしめた。
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ここに来たのは何年ぶりになるのだろう。
かつて暮らしていた家は色褪せてはおらず当時のままだった。
ジスタは実家のドアに手をかけた。
「なんのつもりだ。ジスタ」
彼の背後から声をかけられ振り返った。
「父上、久しぶりですね」
ジスタはゆっくりと歩み寄って握手を交わそうとしたが振り払われた。
「裏切り者が何しに来た。せっかく鍛えてやったのに
騎士団にも入らず国際ギルドに入ったがいいが数年したら辞めて、半端者が
何のつもりだ」
「相変わらずですね父上は...」
「何しに来た?答え次第ではお前を殺すのもやぶさかではない」
ジタン騎士長は剣を引いてジスタに向けた。
「ほんと話にならないですね。いい話を持ってきたのに...」
「どういうつもりだ。お前は何を考えているんだ。」
「ブルーメンヘッドとマシーンアイランドの情報を持ってきたんですよ。
貴方は喉から手が出る程欲しいはずです。白魔王様に勝利を授けるため...」
ジスタは淡々と穏やかに語った。
「なんのつもりが知らないが帝国に2つの国が力合わせたとしても
勝ってはしない。情報などいらん」
「約束された勝利などありません。戦は力に自惚れた者が死んでいきます。
貴方は死ぬのが何よりも怖いでしょう」
ジスタはジタン騎士長の剣に触れて魔法を唱えた。
「フリーズキャノン」
ジタン騎士長の剣は氷漬けにされ今にも砕け散りそうだ。
「お、お前は何を知っている。おまえが知っていることを全て教えろ」
ジタン騎士長の手は震え固唾を飲んだ。
「はい...順番に教え致しますよ。ジタン騎士長」
ジスタは不気味な笑みを浮かべた。
次回に続く。
次回は8月5日か8日どちらかに更新します。