白黒戦争(後編)
黒い渦にどんどん引きずり込まれて抜け出す術などない。
人々を刺して殺しては己の心がズタズタに引き裂かれていく...。
この呪いは我の命が消えるまで解けない。
そうであれば誰か殺してくれ。
もう何も罪のない民を殺すのは嫌だ。
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クレス達は白魔王を睨んで一時も目を離さなかった。
「あなたは本当に光の白魔王ですか?」
クレスがそう言うと白魔王は眉間に皺を寄せ険しい顔をした。
「何を言うかと思えばそれがどうしたの」
「僕から見ればあなたの方が闇を背負っています。光を使いこなせる者が呪術を
使えるだとしたら白魔王様、いつか綻びが起きますよ」
「あたしの呪術が見抜ける者はこの先の未来に居ない。人間は愚かよ。
己に見える世界しか信じない」
ハクはゆっくりとした足取りで白魔王に近づいた。
「白魔王様は幾つのも惑星を渡り歩いてきた。何度も愚かな人間を見てきた。
でも黒魔王様だけは違った。白魔王様、貴方は黒魔王様が愛しくてでも
恋は実らなくて憎しみを抱いた。」
「貴方に何がわかるの」
白魔王は唇を噛んで怒りを震わせていた。
「ずっとそばで見ていましたから分かります。愛しい人ならこんな目に合わせないでください。お願いですから呪いを解いてください」
白魔王にハクは頭を下げたが白魔王の目は途方もない闇に包まれていた。
「嫌よ。こんなにも美しい私がいるのに見抜きもしなかった。
そればっかりか人間と恋をしたなんて信じられない。ハク、貴方はこっち側の人間はずよ。なんで黒魔王”側”なの」
「俺は黒魔王様を師として尊敬しています。だから
この地獄から救い出したいんです。」
ハクの白魔王の間からコクが割って入った。
「俺も同じだ。あんたなら分かってるはずだ。
黒魔王様に人々は光を見出してる。あの人なしでは本当の意味での繁栄は
成し得ない」
白魔王の腕を掴んで真っ直ぐな目で訴えた。
「何様なの?コク。貴方も地獄に引きずり込むこともできるのよ。」
白魔王の背後からいくつのも触手が現れ首を締め上げられ
コクは、足をばたつかせた。
「やめてください!!白魔王様」
ハクは白魔王の肩を揺らすがビクともしない。
「やめて欲しかったらあたしに本当の忠誠を誓いなさい。
誓わなかったらコクは地獄に落ちるわ」
白魔王はハクにナイフを渡した。
「やめろ!ハク、こいつに血を授けたら操り人形に成り下がるだけだ。
俺の事など案ずるな」
コクの言葉など届く事はなくハクはナイフを受け取った。
「もし黒魔王様が死んだら貴方が世界に革命を起こしてください。コク...」
ハクは震える右手で左手の甲にナイフを入れた。
小さな傷口から血が溢れて白魔王に差し出した。
「白魔王様、私は貴方に忠誠を誓います」
不敵な笑みを浮かべ白魔王は差し出された手の血を舐めた。
「これで”成立”ね。さぁ黒魔王を止めに行きましょうか」
「はい。黒魔王様は許されない事をしました。民を虐殺して
世界を滅ぼそうとしています。」
ハクの瞳には光などなく虚ろで感情がないようだった。
「黒魔王から世界を守るわよ。ハク」
「承知致しました。白魔王様」
ハクは跪き頭を下げた。
白魔王の触手からコクは振り落とされ尻餅を着いた。
「何としても止めなければ白魔王様を...」
ふと目の前を居ると傍にはクレスしかおらず白魔王達はどこかに消えていった。
「あぁ...。必ず止めて黒魔王様とハクを戻そう。」
クレスに手を差し出されコクは立ち上がった。
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雨が激しく吹き荒れ雷を伴っていた。
そんな中、険しい林道を抜けて黒魔王の元へとクレス達は辿り着いた。
黒魔王の周囲は死体が転がって血と雨水で地面は汚れていた。
「コクとクレスか...」
黒魔王の顔は疲れ切っておりやつれていた。
「黒魔王様!地獄から必ず救い出して...」
2人とも黒魔王に駆け寄るが振りほどかれた。
「殺してくれ。あたしの命が途絶えるまでこの地獄は終わらない。何人、何十人の民を殺させれば気が済むんだ。
あたしはこの世界の繁栄の為ここに来た。なのに...」
コクは黒魔王にかける言葉も見つからず悔しそうな顔をしていた。
「白魔王様を倒せば呪いは消えます。だから...」
クレスは、黒魔王の手に優しく触れた。
「何度も言わせるな!白魔王は神から優遇されてる。
闇の使いであるあたしやコクでは倒せない。そして君は
白魔王に見出された人間だ。あたしを確実に殺すために...」
黒魔王はクレスが持っていた光の剣に触れた。
「この剣はあたしを殺す為に作られた。闇を滅する。」
黒魔王にそう言われクレスは震えて崩れ落ちた。
「出会ったばかりの貴方を殺せません。光に使える白魔王よりも
よっぽどあなたの方が光を纏っています。
なんでこんなにも世界は残酷なのでしょうか」
クレスはゆっくりと立ち上がり、黒魔王に剣を向けた。
「それでいいんだクレス...」
黒魔王は笑みを浮かべ腕を広げた。
「黒魔王様!」
「邪魔させませんよ。共犯者コク...」
背後から声がしてコクが振り返るとそこにはハクが居た。
「ハク、お前。なんのつもりだ。」
「貴方を殺しに来たんですよ」
ハクはコクに矢を向けた。
「そうか。それじゃあ仕方ないな。手合わせと行こうか」
矢と剣が弾かれる音が響き渡り互いの傷を増やしても
決して止まなかった。
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「もっと地獄に引きずり込もうかしら」
カツンとカツンとヒールが鳴る音が聞こえクレスは横目に周囲を見ると無数の
触手が現れ黒魔王の体を蝕んだ。
「雷糸」
黒魔王がそう唱えるとクレスは電流を伴った糸に覆われ痛みに悶えて体が
引き寄せていく...。
光の剣を持った自分を恨んだ。
その剣は黒魔王を突き刺した。光が溢れ出して命は吸い取られ黒魔王は崩れ
落ちて消滅した。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
声にならない声を上げてクレスは涙を流して灰になった黒魔王を握りしめた。
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「もうやめるのね。ハク」
ハクの背後から白魔王は忍び寄って肩に触れた。
「はい。白魔王」
ハクは矢を打って避けるコクにナイフを投げた。
「ナイフに毒を塗りました。あなたの命はここできえることでしょう。」
ナイフはコクの腹を突き刺して悶え倒れた。
「コク!!」
倒れていたコクにクレスが駆け寄り回復の魔法を施した。
「ありがとう、クレス。黒魔王様の命が消える音がした。」
コクがそう言うとクレスはただ頷いた。
「これから世界は白魔王に支配される。俺達で革命を起こそう。
それが例え何百年後でも...」
「そうだな、クレス。黒魔王様の無念を晴らさなければ...。」
次回に続く。
ちょっと遅れてすいません。来週も更新します(´ヮ`;)