真実と白黒戦争の前日談
隣にいる彼女の目は入り組んだ闇を見ているようだった。
「シロ、クロ、今からお前達には下界に降りてやってもらいたい事がある。
それが任務だ。」
真正面にいる神様は豪華絢爛な椅子に座っていた。
「やって欲しいこととはなんですか?」
彼女は神様にそう聞いた。
「お前達2人で繁栄させるんだ。やり方はなんでもいい。」
クロは深く考え込んでいた。
繁栄とは?下界の人々が幸せに暮らせるようにだろうか...。
下界の技術がどれくらいか知らないがとっても神様が無茶な事を言ってるようには思えなかった。
「是非やらせてもらいます。なぁシロ...」
横目に彼女の事を見ると無愛想に睨まれるだけだった。
「はい。神様のおうせのままに...」
彼女とクロは跪き頭を下げた。
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彼女とクロは下界に降りる為に飛行機に乗り合わせ、2人の部下であるハクと
コクは先に座席に座っていた。
「一緒に世界を繁栄させるんだ。君ともっと話しがしたい」
向こう側の隣の席に座る彼女にそう話しかけるとため息をつかれた。
「一緒に繁栄させるって言っても貴方のこと知る必要があるの?」
「あるさ。繁栄させるって言っても平和的にだ。
王同士が仲良くないと民は争ってしまう。」
「争えばいいじゃない。それで世界が繁栄するなら願ったり叶ったりよ」
彼女は本を開きクロの目など見ていなかった。
「何かを犠牲にして繁栄させるなんてそれこそ愚かな事だ。
人は手を取り助け合うべきなんだ。俺は美しくて争いがない世界を目指したい」
「綺麗事ね。そんなのは嫌いよ」
彼女は本を勢いよく閉じて投げ出すようにテーブルに置いた。
「綺麗事でいいじゃないか。それで人々が幸せに暮らしているのなら
どんな綺麗な言葉でも並べる。
人は心を込めてかけられた言霊にいい意味でも悪い意味でも惑わされ変われるのだから...」
クロは立ち上がるシロを引き止め真っ直ぐな目でそう言った。
「そんなの馬鹿馬鹿しいわ。」
飛行機は下界に降り立った。
自動的にドアが開き彼等は下界に足を踏み入れた。
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下界の景色は自然が豊かでそこに住む動物は生き生きとしていた。
「何も無いのね」
クロの背後から彼女が歩み寄って来た。
「別にいいじゃないか。今から繁栄させるのだから...」
彼女から見るクロの目は光り輝き希望に満ちていた。眩しい程に...。
ゆっくりとした速度で足を進めると村らしき土地にたどり着いた。
遠目に見ると人々が畑で農作業をしていた。
「あれは人間か。」
クロはすぐさま人々の所へと向かった。
彼女は"仕方ない"と彼について行った。
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クロとシロは人々を集め集会を開いていた。
「神様に命を受けてここに降り立ったのだ。俺は手を取り助け合える世界を
作りたい。」
クロの言葉に耳を傾け人々は熱心に聞いていた。
シロはと言うとただ黙って座っているだけだった。
「お姉さんもあそこにいるお兄さんと同じなの?」
小さい子供がシロに駆け寄りそう尋ねた。
「まぁそうね。」
シロは無愛想に頷いた。
「じゃあ、あのお兄さんみたいにあんな事できるの?」
子供にそう言われクロの方を見ると彼は人々に言霊術を披露していた。
「ちょっと違うけどできるわよ」
シロは手から魔法で炎を出現させた。
「お姉さん!凄いね。僕にもできるかな」
「さぁ頑張れば出来るんじゃない」
シロの言葉に子供は目を輝かせ喜んでいた。
「うん!僕頑張るよ」
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この世界の人々の魔力は弱い者ばっかりで強い者は極わずかだった。
でも白魔王は魔法の世界を目指していた。
魔力は楽ではない鍛錬で蓄積するしかない。
彼女は人々を修業させては夜が明けていた。
「白魔王様、厳しくするだけでは人々は疲れ果ててしまいます。」
ハクに話しかけられ白魔王は振り返った。
「帰ってきてたのね。黒魔王の修業はどうだったの?」
白魔王は自分の家の椅子でくつろいでいた。
「スパイの真似事なんて私は嫌ですよ。黒魔王様は真摯に向き合ってくれます。そんな人を監視するなんて...」
ハクは拳を握りしめ震えていた。
「黒魔王はどんな言葉で貴方を惑わしたか知らないけど世界の繁栄の為に仕方が
無いことよ。人々はいずれ分断される。白か黒に...」
「黒魔王様と手を取り合おうとは思わないですか?白魔王様...」
「思わないわ。あんな綺麗事だけを並べる男は嫌いよ。」
ハクに背を向け白魔王は自室へと向かった。
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彼女は寝室に入りポケットに閉まっていたナイフを取り出した。
黒魔王の言葉に1度でも惑わされかけた。
それだけで屈辱が胸を熱く焦がした。
"綺麗事でいいじゃないか。それで人々が幸せに暮らしているのなら
どんな綺麗な言葉でも並べる。
人は心を込めてかけられた言霊にいい意味でも悪い意味でも惑わされ
変われるのだから"
吐息混じりにクッションをナイフで刺すと中の綿が溢れて部屋中に舞散った。
黒魔王にかけられた言葉を思い出す度に吐き気がした。
それはとっても美しくて見えて綺麗で華のようで
儚く胸が赤く染った。憎しみと嫉妬が混じった恋だった。
「憎たらしい程に貴方を愛してる」
白魔王は静かにそう呟いて眠りに着いた。
次回に続く