反乱の旗
彼女は、過酷な運命の中で救われた手が違っただけで世界が変わるなんて
大袈裟だと思ってた。 でも今は、違う、それだけは、分かっていた。
───そう思えるように彼女は、なってしまったんだ。
「何ボッーしてるんだ。アクア?昨日の事で警備が厳しくなってるんだ。気を
抜くなよ」
アクアの横にいた男は、顔が険しく、こわばっていた。
「うん。それは、分かってる」
彼らは、壁にひっそりと隠れていた。それは、自らの手を汚していたからだ。
人通りが多くタイミングを見計らって、爆弾を投げ込んだ。
この者達は、罪のもない人を殺してテロを起こしてこの世界に異を唱えていた。
つまり、テロリストだ。
「アクア、上手くいったな。行くぞ」
仲間である男にアクアは、手を引かれ、人通りのない路地裏に座り込んだ。
爆破音が響き渡り、どうやら作戦は、上手くいったみたいだ。
「ねぇ、ハンネス。魔法族を殺して何になるの」
アクアは、ずっと疑問に思っていた事を男に尋ねた。
「ボスの野望だ。魔法族を滅亡させて、千武族だけが生きる世界。お前だって
家族を魔法族に殺されたんだろ」ハンネスは、そう投げやりに言った。
そう、この男も魔法族に両親を殺された。
「──だけど、関係ない人達まで巻き込むのは、どうかと思うの」
「だからってもうお前の手は、汚れてる。2度と元には、戻らないぞ」
ハンネスは、そう吐き捨て立ち去っていた。
彼女には、何が正解なのか分からない。ただ こんな事をしているのは、ボスに
助けてもらった
恩を返す為だとアクア自身もそう思っていた。そしてそれは建前でもう
引き返せない事を彼女は、知っているからだ。
****
繁華街は、休日なのか、人が多く賑わいを見せていた。
ラブリーは、ツインテールを揺らしながらジスタの横を歩いていた。
「ジスタ。昨日の見た?」
ラブリーは、ジスタの顔をのぞき込んでそう言っていた。
「当然でしょ。チャンネル変えても白魔王が出てましたからね」
ジスタは、そうため息を漏らしていた。
「選択肢を与えない事がらしくて、笑えるね」
ラブリーは、笑い混じりにそう冗談ぽっく言っていたが切なそうな顔をして
いた。
「これからどうするですかね。ヒルアは、しばらく身動きが出来ないですね」
「どうかな。白魔王の目は本気だったよ。追われる事に終わりは、ないよ」
ラブリーは、うつむき加減に暗い顔をしていた。
「生き地獄ですね」
ジスタがラブリーにそう返した。突然、近くの方から爆弾音が聞えジスタは、すぐさま、バリアを張った。そのおかげで無傷に済んだがまとめに受けていたら
彼らは大怪我じゃ済まなかった。
「ありがとう。怪我ない?」
ラブリーは、尻餅を付き、ジスタに手を差し伸べてもらっていた。その手を
握って立ち上がった。
「ありませんが、怪しくないですか?あの黒いローブ──」
ジスタが指ざすと、すぐさま奴らは、立ち去ろうとしていた。
ラブリーとジスタは、互いに頷き、奴らを追いかけた。
****
彼女は、魔法なんて使えない。瞬間移動さえも出来ない。持ってるのは
銃だけだ。
だが無敵な力を誇る。アクアだけを路地裏に残して、ハンネスは、ほかの所で
住人の金品を盗んでいた。
「行き止まりですよ。千武族がなんの目的でこんな事をしたのか知りませんが
許せませんね」
ジスタは、彼女にゆっくりと近寄り、杖を引きずっていた。
そしてその青年は、アクアに小さな杖を向けていた。
「国際ギルド局の局員かしら?見逃してくれないじゃないと殺すわよ」
ジスタの背中からオレンジ髪の女性がチラリと覗かせた。
アクアは、その青年の額に銃を擦り付ける。
「うわぁ、物騒だよね。ジスタ!それに局員は、わざわざ追いかけたりしないよ。見つけ次第で魔法で抹殺だよ」
オレンジ髪の女性は、銃なんて見ても怯えもしなかった。それは、彼もだ。
アクアの耳元でその彼は、囁いた。
「俺達の仲間に千武族がいるんですよ。だから弱点も知り尽くしてるんですよね」
ジスタという男は、悪魔みたいな笑顔で魔法を唱えた。それは複雑すぎて
言葉が分からず気づいたらアクアの銃は、糸で繋がれ、投げ捨てられた。
「これで勝ったつもりなの?それに仲間が千武族って奴隷の間違いじゃないの。
魔法族は、あたし達を差別して殺してきた」
アクアは、そう激しく彼らに訴えるが眉1つすら動かさない。
「それは、あたし達じゃないでしょ。すべての魔法族が敵なの?罪もない人を殺して同じクズになってそれでいいの?」
オレンジ髪の女性の言葉は、迷いがなく真っ直ぐだった。
「それに、奴隷なんて、何も知らないくせに語るなよ。うちのマスターが望んでるのは、共存ですよ」
───ジスタという男は、「デビルハンド」と小さく唱えた。
アクアは、足がすくみ、彼らに捕まってしまった事を後悔してしまう。やっぱり魔法には、勝てないと彼女は、そう思っていた。
「飛綱」と網で持ち上げられた。アクアは、不意に見上げると、仲間である
ハンネスだった。
空挺バイクに乗っていた彼に抱き抱えられ、無理やりにも乗せられ、逃げて
行った。
「ささっと逃げるぞ、アクア」何とか、危機は、脱したが彼らの目が離れないのは、何故だろうとアクアは、そう思っていた。
****************
さっきの彼らは、去っていき、死体だけが広がっていた。
「言霊を使える奴なんて手練もいるんだね。マスターに報告した方がいいね。
ジスタ」
ラブリーは、しゃがんで、悲しそうな顔をそう言っていた。
「そうですね。テロ組織と言ったところでしょうか」
ジスタは、低い声で極めて冷静だが拳が震えていた。
「そうだね。ボスがどんな奴か、見てみたいね。」
「なんでなんですか?」
ジスタは、ラブリーの言葉の真意が分からず、問い返した。
「だって彼女、仕方ないからやってるみたいだった。まるで自分が奴隷だって
言ってるみたい」
ラブリーは、そう言って、とても冷めた顔をしていた。
「気のせいでしょ。そんな奴が人殺しなんてできるんですか?」
ジスタは、ため息交じりに呆れたように言っていた。
「だって人ってナイフで刺せば死ぬんだよ?簡単でしょ」
ラブリーは、不敵に笑い、遠くを見据えていた。
****
なんで、あの時、火の海の中、あの人の手を取っていなければ、死んでいた。彼女は、そう思っていた。でも、そんなのわかっていたのに、今はただ人を殺していているあいつら(魔法族)と同じだ。
アクアの跪く先には、ボスがいて、悠然と座っていた。
「アクア、また迷っているのか。今回は、上手くいったから良いが目を付けられたんだ。一筋縄じゃいかないぞ」
ボスは、威圧的な声でアクアにそう言っていた。
ここは、彼らのアジトでテロ組織だ。
「そんなのわかっています、でもいつまで続けるですか?」
アクアは、淡々と喋っていたが、手の震えが止めらない。
「すべての魔法族がいなくなるまでだ。希望すら与えない。あいつらが俺達にしたように地獄を味合わせる」
「そうですか、ボスらしいですね」
アクアは、偽りの微笑みを返したがすぐに見抜かれ、威圧的な声が発された。
それは、とっても不快だった。
「裏切るなよ。やつらと共存出来る世界などない。もうお前の手は、汚れている
普通に戻れないからな」
ボスは、そうやって、アクアの選択肢を取っていく。それは、彼女も分かっていた。
こんな人の傍に居たらだめなのに頷いてしまう。それは、アクアにとって仕方の無い事だった。
彼女は、こう思った。
あの時、差し伸べられた手を振り払えば、あたしの今は、こんなに汚らわしい物では、なかったのかな。そう思う度にアクアは、悲しい顔を浮かべていた。
次回に続く·····。