数ヶ月後……
「悪いな、一号。フラッシュだ」
悪いな、ギー。ロイヤルストレートフラッシュ。
「まじかよ! おいイカサマするんじゃねぇよっ」
イカサマじゃない、カードの癖を覚えてる。
私はそう言ってカードの端を指す。
この微妙な擦りきれ具合、ハートのエースだ。
「てめぇ。カードゲームってそういうことしちゃダメだろ」
ギーだってやってる。3回連続でフラッシュは狙ってる。
「へへっ。フラッシュはおいらのトレードマークさ」
開き直り、自慢げにひげを揺らすギー。
確かに凶鼠のギーは、我が主から伝授された閃光の魔術を得意としている。
だから狙ってフラッシュを揃えるのだろう。
ロイヤルストレートフラッシュじゃないのは、まだ完全にカードの癖を覚えられているわけではないからだろうか。
「はぁ、ポーカーも飽きたな。一号はポーカーフェイスだからやっててもつまらん」
我が主の寝泊まりしている小屋を漁ったギーが見つけてきたトランプも、ポーカーをはじめとして神経衰弱、ババ抜き、大富豪などなど、もう遊び尽くしてしまった。
ギーも鼠顔だから、読めない。
「うるせー。あーあ、なんか面白いことないか?」
しりとりでもする?
「嫌だよ。お前毎回『る』で攻めてくるだろ。意地が悪いんだよ」
ギーこそ、『め』ばっかりなのは正直苛つくな。
我が主に後を任されはしたが、私たちは暇を持て余していた。
凶鼠のギーはあれから定期的に住処の付近の見回りをするようになったが、後を任された使命感から始めたそれは今や散歩と同義だ。
そして私は、そもそも動くことができない。
天才魔術師ガルネクスが生み出した 魔術人形たる私は、その動力となるマナ、純自然エネルギーを溜め込むため、地面から生えた管が背中に繋がっている。
ちょうど地面の下にあるマナの吹き溜まりから吸い出されたマナは管を通り、今も私の中に流れ込み続けている。
この場所一帯にはマナが溢れている。その量はいくら吸っても尽きることはないと思えるほどだ。
転移門の起動には大量のマナを必要とする。誰がここに門を設置したのかは不明だが、溢れるマナがあるため、この場所が選ばれたのだろう。
そしてその膨大なマナの一部は、私の体に蓄えられていく。
いつか来たるべき時、侵略者どもをこの手で叩き潰すための動力となるのだ。
吸えば吸うほど、私の体のなかには力が満ちていく。
我が主が与えてくれた最高の体で、文字どおり粉々に砕け散るまで戦えるだろう。
それはさておき、平時の今は力を溜めているのだ。動けないこの体が恨めしい。
「あーあ。……掃除でもするか」
相当暇なのだろう、怠け者のギーからは到底あり得ない選択だ。
それほどまでにここは退屈で、変化が少ないのだ。
がんばって。
「けっ、働きもせず食ってばっかりとは、いいご身分だぜ」
遊び相手のギーには感謝してるよ。ありがとう。
「……けっ。けっけー」
ギーは謎の言葉を発しながら、掃除のために我が主の寝泊まりしていた小屋に入っていった。
怒らせてしまっただろうか?
ギーは一度へそを曲げると、寝て起きるまでは口をきかない強情なやつだ。
そんなやつでも、少しの間話し相手がいないのは、退屈だ。
その後、私が部屋から出るごそごそという音に耳を傾けていると、不意にがらがらと何かをひっくり返す音がして、ギーが血相を変えて飛び出してきた。
ギーは箱のようなものを抱き抱え、私の目の前まで駈けてくる。
なにがあったっ!?
慌てて問いかける私に対し、ギーは抱えていた箱を得意顔で掲げて見せる。
箱の文字は『カルン島の開拓者たち』と読める。
「ボードゲームがあったぜ! 掃除はやめだ! 一号! これで遊ぼうぜ!」
偉大なる我が主は瞑想に入り、私は未完成のまま。
変化も少なく退屈な毎日だ。
だが、唯一ありがたいことは、その退屈を紛らわす遊び相手には事欠かないことか。
「ポーカー」
トランプを使ったカードゲーム。
ギャンブルなどに好んで使われる。
世界三大カードゲームのひとつと言われるが、日本ではポーカー以外はいまいち知名度が薄い。
映画「タイタニック」やドラクエなどで取り上げられたことが多いため、ポーカーの知名度はそこそこなのでは、と筆者は思っています。
「カタンの開拓者たち」または「カタン」(『カルン島の開拓者たち』)
言わずと知れたボードゲームの金字塔。
世界中に愛好者がおり、世界大会も開催されている。
小学生から理解できるルールで、プレイヤー同士が話し合い協力し時に妨害しながら遊ぶことができる。
家族とのコミュニケーションにぜひ。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%AE%E9%96%8B%E6%8B%93%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1