妹のいうことを聞きなさい!
「さて、今日は何の日だかわかりますか、お兄ちゃん」
ビシィ!と人差し指を突き立ててお兄ちゃんに問いかけます。
今日は土曜日。お兄ちゃんの会社も私の学校もお休みです。
「え、今日なんかあったっけ?」
お兄ちゃんは相変わらずの体たらくです。休みの日になるとずっとゲームをしてます。外に出なければお兄ちゃんに刺激は与えられません。
「今日は映画の日ですよ!1000円ぽっきりですよ!見るしかないじゃないですか」
「いや、今日は昨日買ったゲームしていたいんだけど……」
土日やろうと考えて買いましたね。しかも結構やり込み要素たっぷりのRPG。前作のやり込みっぷりから察するに土日どころか半年くらいやりそうですね。しかし策はあります!要はゲームも出来つつ映画も見られる状況を作り出せれば良いのです。
「そんなこと言わずに。映画館から帰ってからでもゲームは出来ますし、明日も出来ますよ。それにお兄ちゃんだって、あの入れ替わり立ち替わりの激しいあの映画観たいって言ってたじゃないですか」
「うーん。……確かに言ったなぁ。」
傾いた!よし後は勢いでー
「そうでしょう♪では、お兄ちゃん準備して下さい!私も着替えてきますので。あ、覗かないで下さいね。今日のはお気にじゃないので。」
「そゆことじゃねぇだろ」
お兄ちゃんの突っ込みに「うふふー」と返しつつ、お気になら覗いてもいいんだよという伏線を張りながら自分の部屋にサッと行きます。きっとお兄ちゃんは覗きたい欲望と覗いてはいけないという倫理で葛藤していることでしょう。それによって【行かない】という選択肢を消しました。
なんという策士でしょう。諸葛孔明だってこうは策を思い付かなかったでしょうね。我ながら上出来です。
「さぁて、どうしますか。」
クローゼットを前にどの服にしようか悩みます。これは言ってしまえばデートですが、あまりに気合いを入れすぎると浮いてしまいます。場所もデパートですしね。かといってオシャレのしなさすぎは干物妹みたいな感じでイヤですよねぇ。外では完璧、家ではグータラというのも良いですが私のキャラとは違いますね。
「……う~ん、よし!こないだ買った、これでいきましょう。」
スタンドミラーの前で一通り見てからお兄ちゃんの部屋へ。
「お兄ちゃーん、準備出来ましたか?」
「おう、じゃあ行くか」
お兄ちゃんは家ではへんなTシャツとか着てますが、外出る時はちゃんとした格好するんですよねぇ。干物兄みたいですね。なんか彼女にタカる最低な人みたいな名前ですけど。
「さぁ、レッツゴーです!」
……
…
「~♪」
「機嫌いいなぁ」
「えぇ、お兄ちゃんとの映画久しぶりですからね。」
「そうだっけ?……確か3ヶ月前行ったよな」
「いえいえ、私にとって3ヶ月はずいぶん長かったですよ」
『3ヶ月も』空いたのに、お兄ちゃんにとっては『3ヶ月しか』空いていないという認識のズレはどういうことでしょう。新しい服なのに気づいた素振りもないですし。
……え、私が何の服着てるか描写しないのって?あー、そういうのは、もし漫画化された時にですね、作画の人に全部任せちゃうのでしませんです。みんな思い思いのカジュアル系な服を思い浮かべれば良いと思いますよ。私はそんなことよりも映画館内での計画をシミュレーションしてるので話しかけないで欲しいです。
とにもかくにも、デパートに着いて映画館へ。
「さぁ、ポップコーンや飲み物の準備出来ましたし、あとは始まるのを待つだけですね。」
「友達が結構観たって言ってたから気になってたんだよなぁ。これで明日話せるな。」
「まずは私と話し合いましょうね!」
ふふふ、男女が入れ替わり立ち替わりが激しいのが売りの映画ですが、内容的には恋愛物!これで途中から手を重ねて恋人繋ぎしちゃいますよ。事前にこの映画を見た友人に手繋ぎポイントを聞いてきました。絶好のタイミングでやってやります。期待してて下さい。
……
…
(おっ、このシーンは……じゃあもうそろそろですね)
……
(なるほど、男の子にはこういう過去があったんですね。)
……
(ここで出会うんですねぇ~)
……
(さぁ、ここです!お兄ちゃん御覚悟を!)
すーっ
(バカなぁぁあ!!!)
手を重ねようとした瞬間に、ひじ掛けから手を引くだとおぉぉ!なにゆえわかったんや……
「……Zzz」
……寝てます。お兄ちゃん寝ております。なるほど、寝てて何かの拍子にひじ掛けから手も落ちたんですね。映画観賞の感想に対して、さっきから私だけモノローグ出てるのにお兄ちゃん出てこないなぁって思ってましたが、寝てたから出てなかったんですね。なんというタイミングの悪さですか。……うーまぁ寝ちゃったのなら仕方ありません。私は最後まで映画を観ることにしましょう。
………
……
…
「はっ!」
「お目覚めですか、お兄ちゃん」
さっきまでのお兄ちゃんの寝顔、可愛くてもっと見てたかったんですけどね。
「あれ?寝てたのか」
「映画終わっちゃって、みんな出てっちゃいましたよ。」
「そっか……とりあえず出るか。」
「そうですね。」
帰り道。夕御飯もあるので真っ直ぐ帰ります。
「お兄ちゃんと久しぶりの映画で、終わったら映画の話で盛り上がりながら帰る私の計画が台無しです。」
「ゴメンな。最初の方は見てたんだけど、気づいたら寝ちゃってた。明日友達と話せると思ったんだけどな。」
「まず私と、でしょ?」
「そうだった、本当にゴメンなさい。せっかく新しいキレイな服着てテンション上がってたのにな。レンタル出たら絶対借りるから、そこで一緒に観よう。……トモは2回目だから嫌かもしれないけど。」
打ちきりが迫って急に伏線回収するマンガみたいに無理矢理服の話題出してきましたね。気づいてたなら始めから言って欲しいです。映画の話もしたかったです。
でも、次があるのなら、まぁいっか。
「じゃあその時はちゃんと観て語り合おうね、お兄ちゃん♪」