表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

ビンに詰めるだけの簡単なお仕事です

「ところであんたらはなんでここに来た? 」


「はい。実は皆で旅行中に道に迷ってしまいまして、道なき道を彷徨っていたら村があったので助けていただけないかと立ち寄ったところなんです」



心霊スポット巡りでーすなんて言ったらなんと言われるか分からないので適当に誤魔化すことにした。



「なるほど。そりゃ災難だったな」


「ところでさっきのあれはなんなんですか? ゾンビですか? 」



洞山がワクワクを隠さずにそう聞く。



「いや、ゾンビじゃねぇ。あれは堕人というこの村に昔から伝わる化物だ。この村に封じられた魔物によって化物にされちまった元人間さ」



ヤバい。



なんだかこの作品のジャンルに関わってきそうなくらい面倒くさそうな設定が出てきたぞ。



「すごい。本当に映画みたい」


「やっぱり映画みたいに人を喰うんですかあいつら? 」


「いや、奴等は人を喰ったりはしない。仲間を増やそうとするんだ。堕人に殺された人間は堕人として蘇る。そしてまた人間を襲う」


「じゃあこの村から人が消えたのは」


「ああ。ほとんどの人間が堕人になっちまった。生き残ったのは極少数だ」


「警察とか自衛隊とかは? 」


「何度か外部に連絡をとろうとは思ったが、さっぱりだ。第一、化物に襲われてるから助けてくれなんて言っても誰も信じないだろう」



まぁ確かに。



「その鉄砲でどうにかできないんですか? 」



猟銃を指差しながらそう言う。



「無理だな。奴等は死なない。例え頭を吹き飛ばしても数分で元どおりになって襲ってくる」



うげ。じゃああのキモい子供も蘇ってんの?



「じゃあ何も解決策はないんですか? 」



そしたらもうなんとかして車まで戻って強行突破しかねぇな。



「あることはある」



あるのかい!



「だが、不可能に近いんだ」


「どんな方法なんですか? 」


「魔物を再度封印するんだ」


「なるほど。それは無理ですね」



そういうのはエクソシストとか寺生まれのKさんじゃないと。



「ああ。封印の祠にいるマガヘビをもう一度ビンに詰めるなんて不可能なんだ……! 」



悔しそうに地面を叩くおっさん。

え? 蛇をビンに詰める?



「なに? 封印ってそんなに簡単なの? なんかこう高名な陰陽師が呪文を唱えたりお祓いしたりとかみたいな」


「簡単なものか! 封印の祠の入り口にはゲイリーとホモールという屈強な肉体を持つ元アメリカ人男性の堕人が2人も立ちはだかっているんだぞ! 」



なんでアメリカ人男性がこんな村に!?



「ちなみにその祠ってのはどこに? 」


「ん? 祠はここから南に300m程進んだところにあるが」


「わかった。じゃあちょっと見てくるわ。この子頼む」



白目をむいて舌を出している美香をおっさんに預ける。



「お、おい。本気か? 」


「まぁ軽く見てくるだけさ」



あの化物の正体が元人間っていうならもう怖くもないしな。



「お。あれが祠か。うわっ」



封印の祠というのは洞窟の中にあるらしい。



ぽっかりと開いた洞窟の入り口ではムキムキな黒人男性とバッキバキな白人男性が血の涙を流しながら濃厚なキスをしていた。



最悪だ。早くも心が壊れそうだ。



「んんむぅ……ゲイリィ……」


「んんふっ……ホモォル……」



ヤバい。こやのままだと俺も堕人になってしまう。

早く消さなきゃ。



とうとうゲイリー(黒人男性)がホモール(白人男性)を地面に押し倒し、パンツを脱がせようとし始めたので、ナニかが始まる前に全速力で洞窟の入り口へ駆ける。



「それ以上はやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 」



俺の魂の叫びと共に繰り出されたキックは見事にゲイリーを岩壁へ叩きつけた。



そしてそのままホモールの顔面を何度も踏みつける。



「……ゲィリィ……」


「ホモォル……」



瀕死の2人は互いに互いの方向へ手を伸ばしたまま動かなくなった。



よし。悪は滅びた。



「おらぁ! よくもあんなもん見せてくれたな魔物野郎! 」


「いい加減俺と交尾しようぜぇ」


「死んでもごめんです! 」


「もう何年このやりとり続けてんだよ〜。大事な村人もほぼ俺の配下になっちまったんだぜ? もう諦めろって」


「私は村の人達を信じています! 」



祠の中では小さくて白い蛇に同じくらいのサイズの蛇が絡みついていた。


なにこれ。



「む!? 誰だ貴様! 」



シャーっと威嚇してくる黒い蛇。俺は黙って近づくとその頭を指で摘んで持ち上げる。



「や、やめろぅ! 離せ! 人間のくせに気安く触るな! 俺はマガヘビ様だぞ! 」



こいつがマガヘビなのか。よかった。蛇が2匹いるからどっちがマガヘビなのか分からなかったんだよ。



えーっと。ビンは? お、あれか。



「やめろ! ビンに俺を入れるな! せっかく作った堕人が元に戻っちゃうだろ! 」



あ。元に戻るのあいつら。そりゃいいね。



「ぎゃあああああああああああっ! 」



マガヘビをビンに入れてガッチガチに蓋を締める。



あ、必死にビンに向かって噛み付いてる。可愛い。



「あ、あの。あなたは? 村の者ではありませんよね? 」



もう1匹の白くて小さな蛇が俺に話しかけてきた。



よく考えたら蛇が喋っているという超常現象を目の当たりにしているわけだが、不思議と落ち着いている。



「ん? 俺は綾瀬井綱。あ。これ名刺ね」



なんとなく高貴な雰囲気を感じるので名刺を渡しておく。人脈作りは大切だ(蛇だけど)



「まぁ。なんでも屋さんですか。今はこういう商売もあるのですね」



俺の名刺を見ながら白蛇が言う。



「ところであんたは? 見たところただの爬虫類って訳ではなさそうだ」



「あ。失礼しました。私はアマナ。ここ信蛇村の守り神をさせていただいております」


「守り神ねー。んじゃこいつは? 」


「それはマガヘビ。恥ずかしながら私の弟です……」



へー。守り神の弟……ん?



「さっきこいつあんたに交尾しようとか言ってなかった? あれ? 蛇の間だとおかしくはないのか? 」


「いえ。そいつはただの近親相姦野郎です。ゴミですね。以前にも同じ騒ぎを起こしたのですが、その時は家族の温情からビンに詰めるだけで許してしまいました。ですが、今回はそうはいきません」



アマナの言葉にマガヘビがビンの中で暴れ出す。


「許しておくれよぅ! ねぇちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよぅ! 」



涙目でピーピー泣くマガヘビ。愛らしいな。



「あ。じゃあこいつ連れて行っていい? 」



喋る蛇なんて公にはできんが、事務所に置いておくのもいいだろつ。



「はい。煮るなり焼くなり好きにしてください。どうせこの山を出れば神通力も使えないただの喋る蛇になるだけですから」



まぁ喋る時点でただのって訳ではないけど。



「よかったな近親相姦野郎。今日からお前はウチの子だ」


「そんな! ねぇちゃん! もう二度としないから許して! 」


「綾瀬さん。今回は本当にありがとうございました。お礼に今度お仕事をお願いさせてもらいますね」


「はっはっは。蛇からの仕事なんて受けるのは初めてだ。楽しみにしておくよ。じゃあな」


「はい。またお会いしましょう」



こうして洞山幽子の依頼は終わった。



アマナの祠から帰る際にゲイリーとホモールが互いに互いの情熱を激しくぶつけ合っているシーンを目撃してしまい、マガヘビと一緒に死ぬほど凹んだり、気絶から復活した美香が抱きついてきたり、元に戻った村人たちからお礼を言われたりしたが、まぁ何はともあれハッピーエンドって奴かな。



「私……お願いがあるんです」



村人達からどうしてもとお願いされ結局GW全てをあの村で過ごし(3日で飽きた)、その帰りの車内ですっかりテンションの戻った洞山が口を開いた。



「な、なんだ? 言っておくけどしばらく心霊スポットはしばらく行かないぞ」


「いえ……あの……私を綾瀬さんのところで雇ってもらいたくて……」



少し恥ずかしそうにそう言う洞山。



「えっ? 会社は? 」


「やめます……」


「な、なんで? 」


「綾瀬さんと……天使さんというお友達と一緒にいたいので……」



しょ、小学生じゃないんだから……



「ま、まぁ収入がガタ落ちしても文句を言わないならいいけど」


「やった……」



無表情でガッツポーズする洞山。喜んでるのかそれ。



「とうとうあたしに後輩ができるんですね! 」


「うーん。でもまぁミカちゃんアルバイトでユーコちゃんは従業員だろ? 後輩って感じじゃなくね? 」


「なんでそんな盛り下がるこというんですかねイヅナさん」













こうして何でも屋ヤオヨロズに新たな従業員とマスコットキャラ的なものが加わったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ