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赤い雨とか降ってきそう

「では! 信蛇村へしゅぱーつ! 」


「おー! 」


「おー……」



3人で円陣を組んでから車に乗り込む。



洞山幽子が運転席。俺と美香が後部座席だ。



「いやぁ。悪いですね、お客さんに運転させちゃって」



なにせ信蛇村は地図に載ってないから道が分からないのだ。



そのことを洞山幽子に話すと

「私が分かるので大丈夫です」と微笑んでくれた。



なんで分かるのか聞いたら汚ったない本を取り出して

「これに載ってます。見ますか? 」と聞かれたので丁重にお断りしておいた。



「それにしても洞山さんは普段どんなお仕事をしてるんですか? 」


「とある会社で事務職をしています……ああ、お金があるのは父が所謂地主というやつで、去年亡くなった際に私が相続したからです」


「あ。そうなんですか」



地主ね。そりゃ金持ってるわ。



「幽子さんは趣味とかあるんですか? 」


「はい……私、怖いものが好きなんです」


「怖いもの? ホラー映画とか? 」


「はい……私、見た通り地味で暗いですから、花子さんの従姉妹のホラーさんと呼ばれて昔からお友達がいないんです」


「なるほど。名字が洞山だけにね! 」


「……」


「あの。なんかごめん」



俺今絶対に世界で一番スベったっていう自信があるわ。



「名字もあると思いますが……やっぱりこの容姿かなと……」



そうかなぁ。前髪が長すぎるだけで中々の美人だと思うけど。



「それで……よく映画を観るんですけど、中でもホラー映画にハマってしまって」



俺はホラー映画苦手だけどね。怖いの超無理。



「最近では1人で心霊スポット巡りとかしてるんです」



すげぇな。この女の肝っ玉どうなっちゃってるんだよ。



ん? 待てよ?



俺があることに気づいて美香の方を見ると美香も顔を青くしてこちらを見ていた。



「ひょっとして信蛇村って……? 」


「……はい。数年前に村人全員が姿を消し、廃村となった誰も知らない最恐の心霊スポットです」


「「ィイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!? 」」


「ふふふ……楽しそうですね。いいな。私、色々な心霊スポットに行きすぎて感覚が麻痺しちゃってて」



え!? そんな奴が1人で行けないような場所ってことなの!?



「え!? そんな幽子さんが1人で行けないくらいヤバい場所ってことですか!? 」


「はい……この噂の仕入先からの話によるとヤクザの取引場所になっているだとか……カルト教団の本部になっているだとかで……怖くて」



あ。そっち? そっちの怖い奴?



「そっちなら大丈夫なんだけどなぁ」


「あたしはどっちも嫌なんですけど!? 」


「大丈夫! 幽霊なんていねーって! な! 洞山さん! (震え声)」



俺は震える声を大声で誤魔化しながら美香の肩を叩く。



「はい……私は今まで見たことないです」


「な! プロが言うんだから間違いないって! (震え声)」


「震え声で言われてもちっとも励まされないんですけど!? いやあああああああああ! 降ろしてえええええええっ! 」



美香の悲痛な叫びは車内に虚しく響くだけであった。



〜6時間後〜



「到着……です」



車に揺られること6時間。俺たちは信蛇村へ到着した。



「うわぁ。凄い」



洞山幽子が恋する乙女のような表情をする。



「おお。こりゃ凄ぇな」



本当に凄い。凄いヤバい。なんていうかもう雰囲気が死んでる。雰囲気が死んでるって思ったの人生で初めてだし、雰囲気が死んでるって思わせるこの場所はマジでヤバい。



「イイイイイイ、イヅナさん。この場所はマジでヤバいです。雰囲気が死んでます! 雰囲気が死んでるって思ったの初めてですよ! 」



奇遇だね。俺もそう思った。



「では……行きましょう」



無表情に戻った洞山幽子が進んでいく。



「ほ、本当に行くんですか!? これはガチですよ! 今にもサイレンが鳴って赤い雨が降ってきますって! 」



確かに某ホラーゲームの舞台そっくりだな。



「イヅナさん! 絶対に手を離さないでくだはいよ! 」


「ししし、仕方ねぇな! 」



そう言って俺と美香は手を繋ぐ。

その繋ぎ方は恋人繋ぎという次元を超え、もはや1つの手になりそうなレベルだ。



「あのー。洞山さん? ここって本当に廃村なの? 」



しばらく無言で歩いていたが、途中からとある違和感を感じ、洞山幽子に話しかける。



「ええ……そのはずですが」



いや、確かに建物の風化具合とかで何年も使われていないっていうのは分かるんだよ。



うん。分かるんだけど、だったらおかしいんだよね。



だってさ。家の中から笑い声とか泣き声が聞こえてくるんだもん。



あれか? ビビりすぎて幻聴が聞こえてるのか?



「イ、イヅナさん……き、気のせいだったらいいんですけどこの声なんですか? 」



美香にも聞こえてるってことは俺だけに聞こえる幻聴って線は消えたな。



「ほほほほほ、洞山さん!? これって洒落にならないんじゃ!? 」


「もしかしたら廃村になったこの村に移り住んでいる人達がいるのかも……そういうアニメを見ました」



いやいやいや。明らかにこの狂ったような笑い声は人間のものじゃねぇだろ!



「確かめましょう……」



そう言って廃屋の扉に手をかける洞山。



しかし途中で動きを止めた。



「困りました……私、知らない人の家を訪ねたことがありません……綾瀬さん……お願いします」



え!? なにこのキラーパス。死んでも嫌なんだけど。



「いや、でもほら。お取り込み中みたいですし」



ほら。笑い声が大きくなってきてるし。これはヤバイって。



「なるほど……」



ふむと小さく頷くと反対方向の家へ歩き出す洞山。



「こちらのお家は……静かです」



どうやら一回でも開けないと満足してくれないらしい。



幸いこの家からは何も聞こえない。

大丈夫。お化けなんかないさって歌があるだろ?



お化けなんかいないんだ。大丈夫。スパッと開ければいいんだよ。



「よ、よし。じゃあ開けるぞ」


「まままま、待ってくださいイヅナさん。な、何か聞こえませんか? 」



美香の言葉に驚き動きを止めた。



そして、ドアに耳を当ててみる。



「開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて」


「よし。洞山さん。帰りましょう。今すぐに」



鳥肌が止まらない。



「え……でもまだ1日目」



こいつ本当に9日間もここにいるつもりか!?



「料金はもちろんお返しします! ほら! なんなら今度は違う心霊スポットいきましょう! ここ以外ならどこにでもお付き合いしますって! 」


「え? ……本当ですか? ……お金は返していただかなくていいので約束してくださいよ……? 」



首が千切れんばかりに頷く俺と美香。



「よし。じゃあ帰りましょう」



と、言って振り返ると俺は見てしまった。



先程笑い声の聞こえていた家の扉が開き、中から血涙を流しながら笑っている老婆が出てくるのを。



「!??!?!??!!? 」



自分で出てこれるのか? 待てよ? そしたらまさか!?



俺は恐る恐る後ろを見る。



すると、目の前の扉が開き、眼球のない眼窩から血を垂れ流し、ニタニタと笑っている子供がこちらを見上げていた。



「ぎゃああああああああああっ!? 悪霊退散!!! 」



あまりにもキモかったので反射的に渾身のサッカーボールキックをその子供に叩き込む俺。



不気味な子供は蹴り飛ばされて頭から壁に激突した。



一瞬、悪戯好きの村人達が仕掛けたドッキリだったらどうしようかと思ったが、その子供が何事もなかったかのように立ち上がり、折れ曲がった首でニタニタとこちらを見ているのを見てそんな考えは消し飛んだ。



あの、その首の角度だと完全に折れてると思うんですけど……



「ゾンビ! ゾンビですよ綾瀬さん! わぁ! すごい! 本当にゾンビっているんですね! 」



テンションが上がりすぎて洞山のキャラが変わっている。そういや美香が静かすぎじゃねぇか?



「(失神中) 」



うわああああああっ! 美香が気絶したああああああっ!



「くそっ! 逃げるぞ! 」



美香を肩に担ぎ、洞山の手を取って走り出す。



車の方へ逃げたかったが、あっちではあの狂った笑い方をしているババアが草刈用の鎌を振り回しているので行けない。



「ああ。ここに来て本当によかった。まるでホラー映画の登場人物になったみたい」



俺は後悔しかしてないです。はい。



チラリと後ろを確認すると首の折れ曲がった子供は相変わらずニタニタしながら全速力で追いかけてきていた。



「はぁっ……はぁっ……綾瀬さん……わ、私、もう走れません……」



MA JI KA !?



「ええい! 舌を噛むなよ! 」



美香とは逆の肩に洞山を担ぐ。



「わわっ! 早い! 」


「最初からこうしときゃ良かったよ! 」



女2人を担いで走る。さっきと比べ、洞山の手を引かなくなったので走りやすくなった分速度も上がる。



「上がるけど……おじさん脇腹痛くなってきた」



いくら女とはいえ人間2人を担いでいるもんだから相当疲れる。



「ちょっ、やべぇ。吐きそう」



子供のくせに全然ペース落ちねぇしあいつ。これはヤバイかも。



「あんたら人間か!? 早くこっちに来い! 」



声のした方を見ると猟銃を持った猟師のような格好のおっさんが立っていた。



今までの人生においておっさんと出会ってこんなにも嬉しいと思ったことはあっただろうか? いやない。



「お、おお。あんた凄いな。女なのに女2人担いで走ってたのか」


「いや。そんなことよりあのキモいの何とかして! 」



おっさんは頷くと猟銃を構えた。



「くたばれ化物が! 」



ズパァン! という音ともにニタニタ小僧が色々なものを撒き散らしながら吹き飛び倒れる。



「早くこの場を離れるぞ」


「ぁ、あい……」



まだ休めないのか。



「あの……綾瀬さん。私はもう大丈夫です」


「あ、そう? 」



それは正直助かる。



つーか美香は大丈夫なのか? さっきからずっと気絶しっぱなしだけど。



美香の顔を見ると白目をむいて気絶していた。これはもうダメかもしれんね。

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