愛の誓い
「アレイスターを正しい道へ導けるのは、サマークイーンしかいないのだ」
フェンネルが簡単に説明をした。
ジョーンズは首を傾げた。
「サマークイーンとはなんですか?」
「南の領地を守るべき女王だ。今は両方とも存在しない」
「両方とも?」
「サマーキングもサマークイーンもいないのだ。だから、彼女に未来を託した」
ジョーンズが怪訝な顔でラベンダーを見た。
「わたしの母はサマークイーンだったのです。わたしにはその権利があるのです」
「待って、あなたは妖精の女王でしょ?」
ジョーンズの言葉が胸に刺さる。ラベンダーは目を逸らした。
「ええ」
「両方を兼ねることができるのですか?」
「いいえ」
「じゃあ、妖精の国はどうなるのですか?」
ラベンダーは歯を食いしばった。
「…リリーオブに譲ります」
「なんだって?」
ジョーンズの顔がますます険しくなった。
「フェンネル、彼女は苦しんでいるんじゃないのか。今の生活を捨ててまで、アレイスターを任せなくてはいけないのか?」
「ジョーンズ、アレイスターは危険な存在だ。彼の生き方次第で未来は変わる」
ジョーンズは再びラベンダーを見た。
「君は夫がいたのではないのですか?」
「ええ……」
「彼は知っているのですか?」
「いいえ」
ラベンダーはそれ以上何も言いたくなかった。
ジョーンズは、ラベンダーの顔色を見て口をつぐんだ。
「あなたはそれでいいのですね」
「ええ」
夫婦の間に口を出せないと思ったのだろう、ジョーンズはそれ以上聞いてはこなかった。
「ところで、さっき、あなたは僕にも関係のある話だと言いましたね」
「言いました」
「それはどういう意味ですか?」
ラベンダーは、フェンネルを見ると彼は頷いた。
「アニスの復活にも関係がある」
フェンネルが言った。
「ラーラの書には、サマークイーンが復活すると同時に、ウインタークイーンも復活するとあるのです」
「ウインタークイーンは北の領地を守る女王だ」
「わたしがサマークイーンとして復活すれば、アニスの復活にも何か変化があるかもしれません」
ジョーンズは少し考えてから訊ねた。
「…アニスが、ウインタークイーンとなるかも知れないのですね」
「ええ」
「何があっても僕はアニスのそばを離れない」
ラベンダーはじっとジョーンズを見つめた。
彼は、北がどういうものか知っているのだろうか。
ジョーンズは厳しい顔でラベンダーを見た。
「アニスがどんな姿で復活しようと、僕は彼女を愛している。だから、何があろうと離れないと誓う」
ラベンダーは目頭が熱くなり、今にも泣きそうになった。
アニスがうらやましいとさえ思った。
「わたしもウインタークイーンがどんなものなのか知りません。けれど、あなたのように頼もしい方がそばにいれば、アニスはどんな運命も受け入れることができると思うわ」
「ここに剣がある」
フェンネルが差し出したのは、錆びた銀色の剣だった。
ラベンダーは、彼方昔、それを見たような気がした。
「これはずっと海の中に沈んでいて、ようやく探し当てたばかりの貴重な剣だ。長く復活していないため錆びている。わたしが持っても害はない」
ジョーンズは錆びた剣を興味深げに見つめていた。
剣が近づくと、ラベンダーは封印されている力を感じた。
手を伸ばすとフェンネルがたしなめた。
「気をつけて、剣は人を選ぶ」
「ええ」
ラベンダーは頷くと、そばにいる白鷺の妖精からアレイスターの赤ん坊に目を向けた。
「抱っこさせて」
妖精が頷き、アレイスターを手渡した。
ラベンダーは眠っている赤ん坊の顔を覗き込んで、にっこりと笑った。
「可愛い、すごくきれいな顔をしているわ」
「そうかな」
ジョーンズが肩をすくめる。
ラベンダーはほほ笑んで、アレイスターを抱いたまま、フェンネルから剣を受け取った。
しかし、手には触れずに剣を浮かせたまま、アニスの繭へと近寄った。
「どこへ行くんですか?」
ジョーンズの焦った声がする。
ラベンダーは振り向いた。
「アニスの元へ行きます。そうする必要があるの。アニス、導いて」
ラベンダーがそばへ近寄ると、動きのなかった繭がぱくりと開いた。
ラベンダーは赤ん坊を抱いたまま、中へと入って行った。




