女王の証
ローワンが出て行った後、ラベンダーは起き上がり、できる限り自分で体を清めた。
ローワンの事を思い出すと、恥ずかしくなる。
いけない。考えないようにしないと。
ラベンダーは首を振ると、リネンのナイトドレスを、ラベンダー色のドレスへと変化させた。
肩の部分はレースをあしらい、ふんわりとしたシフォンスカートでお気に入りのドレスだ。
力を使うごとに自分が弱っている事に気がついていたが、妖精として最後の自分なのだ。最後は美しい自分でいたかった。
部屋を見渡すとテーブルに瓶詰が置いてあった。中にローズシュガーが詰めてあった。
「これを頂くわ」
ローズには様々な力があり、治癒・治療作用がある。
レモンバームのサシェを取り出し、ハーブティを作って一緒に食べた。
少し、全身が温まった気がする。
ラベンダーは目を閉じて、背中に閉じてあった羽を広げた。
「アニスの元へ行かなきゃ」
ラベンダーは呟くと、ハシバミの杖を取り出し、ドアノブに向かって魔法をかけた。
「ドアを開けた者は、リリーオブの部屋へと移動せよ」
テレポートキーを使うのはこれで最後になるはずだ。
ラベンダーはしんみりと笑った。そして、顔を引き締めた。
――エルダー。
ラベンダーは、フェンネルの使い魔に呼びかけた。
――わたしをフェンネルの元へと導いて。
すぐに窓を叩く音がした。カーテンを開くとシロフクロウが飛び込んできた。
――お決めになられたのですね?
――ええ。
ラベンダーはほほ笑んだ。エルダーが羽を広げて外へ飛び立つ。ラベンダーも後を追った。
エルダーは、マーメイドの力を借りずに森の中へと入って行った。
アレイスターの森は守られている――。
肌で感じながら、ラベンダーはさらに森を守る魔法を強くかけた。
羽ばたくたび、辺り一帯が浄化されていく。
――王女様、もうお力を使うのはおやめください。
エルダーが心配して言ったが、ラベンダーは首を振った。
――気を遣ってくれてありがとう。
王女として最後の力を振り絞る。自分は生まれ変わりたかった。
森の奥深くへ入ると、魔法使いとアニスの恋人がいた。そばには小さな白い妖精が立っている。妖精はアレイスターの赤ん坊を抱いていた。
赤ん坊を見てラベンダーは胸が熱くなった。
アレイスターを抱いている白鷺の妖精だが、特殊な力を持っているように見えた。
妖精はラベンダーを見ても表情が変わらなかった。代わりにアニスの恋人が驚いた顔をして、フェンネルを見つめた。
「なぜ彼女が戻って来たんだ」
フェンネルはそれには答えなかった。
エルダーが飛び去り、ラベンダーは地上へ降り立った。ラベンダーはあえて羽を閉じずにそのままにした。
「美しい羽ですね。女王の証だ」
フェンネルが言った。
「だいぶ顔色がいいみたいで安心しました」
「ありがとう」
ラベンダーは硬い表情のまま答えた。
彼らの背後でアニスが入ったままの繭があった。
ラベンダーはそばへと近寄った。
「アニスは無事ですか?」
「まだ、変化がないんです」
アニスの恋人がしょんぼりと答える。
「あなたは?」
「僕はジョーンズ、アニスの婚約者です」
「そう…」
もし、アニスがウインタークイーンとして誕生すればどうなるだろう。
「エルダーから話は聞きました」
「では、あなたはお決めになられたのですね」
ラベンダーはこくりと頷いた。
「待って」
ジョーンズが二人の話を遮った。
「なんの話をしているんだ。僕にも説明してほしい」
フェンネルがちらりとジョーンズを見てから、ラベンダーを見た。
「あなたにも関係があるわ。知るべきです」
ラベンダーが言うと、ジョーンズの顔がこわばった。
「一体、なんの話です?」




