真実
ジョーンズにはまだ話していないことが山ほどあった。
何から話せばいいのだろう。
全てを? 自分が白い魔女見習いであることから、そして、兄や城が襲われた事。
伝えなきゃいけないことがたくさんあるのに、アニスの舌はカラカラに乾いて声が出せなかった。
「これで状況が一変したな」
「なんですって?」
ジョーンズは険しい顔をしている。
「君たちは国には帰れないと言っていたじゃないか。では、どうすべきか。答えは一つだ。僕の屋敷で匿ってやる」
ジョーンズは、アニスの正体を知っても態度を変えなかった。そのことがアニスをほっとさせた。
アニスは、自分は場所を転々とすべきだと思っていた。しかし、ローズは違う。
彼女はかよわい女性なので、彼女だけは守りたいと思っていた。
「あなたの言うとおりにするわ」
アニスが素直なので、ジョーンズは少し顔をしかめた。
「素直だね」
「わたしはもともと素直な人間です」
ジョーンズは疑わしげな顔をしたが、静かにうなずいた。
「カッシアは田舎だが、きっと気に入るだろう」
「楽しみだわ」
馬車に戻ると、すっかり目覚めたローズが戻ってこない二人を待ちかまえていた。
「二人ともどちらへ行っていたの? わたくし一人で退屈していたのよ」
「ごめんなさいね、ローズ」
ローズは、ジョーンズが乗り込むと目を輝かせて質問をした。
「ミスター・グレイ、これからどちらへ参られるの?」
「当分は、わたしのカントリー・ハウスで過ごされるといい」
「素敵!」
ローズは、はしゃぐように手を合わせた。が、すぐに顔を曇らせる。
「ノアが一緒にいればいいのにね」
「ノアとは誰ですか?」
ジョーンズの質問に、ローズは息をついた。
「わたくしの婚約者ですの。そうだわ、ミスター・グレイ、アニスをどう思いになる?」
「なんですって? ミス・ローズ」
ジョーンズは、眉をひそめてローズをじっと見つめた。
「今は薄汚れているけど、本当はとてもチャーミングな女性なのよ」
アニスははらはらしながらローズを見つめた。この口は何を語りだすのだろう。
「アニスは婚約者がいないの。立候補は多くてもダメなのよ。口で負けてしまうから。でも、見たところ、あなた方はすでにファーストネームで呼び合っているわ。結婚するべきよ」
ローズの力説にジョーンズが困っている。
アニスは天を仰いだ。
ああ、ローズの口を開かないようにしておけばよかった。
「チャーミングかどうかは置いておいて、僕はアニスを気に入っていますよ。勇敢な女性だ」
「勇敢?」
いつ、わたしが彼の前でそんな態度を取ったのだろう。
「わたしにここまでたてついて怒鳴り散らした女性は、母親でもしないことです」
「そうなのよ、口が本当に悪いのよ」
ローズは援護するどころか、ジョーンズに加勢している。
アニスはもつれた髪の毛の先をいじりながら、外を眺めた。二人こそ気が合うと思うわ。
アニスは、除け者にされた気持ちでうじうじと外を眺めた。外は今にも雨が降りそうな天気だった。
「雨が降りそうよ」
何気ない言葉をジョーンズが拾って答えた。
「もうすぐ宿に着くから、心配ないよ」
そっと手を握られる。温かい手のひらを感じて、アニスは体が熱くなった。
「寒くないかい?」
「え、ええ」
ローズがにこにこと笑って見ている。アニスは恥ずかしくて顔を伏せた。
ジョーンズはなぜかその手を握ったまま離さなかった。
アニスも振りほどくことはできずにいた。




