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決別



 ラベンダーが苦しんでいると、ドアをノックする音にハッと顔を上げた。


「ラベンダー」


 ローワンの声だ。


 ラベンダーは早鐘を打ちはじめた胸を押さえ、深呼吸をした。



 ――大丈夫よ。


 自分に言い聞かせて立ち上がる。


 ドアを開けると、疲れた顔のローワンがいた。彼は何も言わないのに中へ入った。


「起きて大丈夫なのか?」

「なぜ?」


 ラベンダーは苦しげに声を出した。


 ローワンが眉をひそめた。


「なぜ、ここにいるの? リリーオブは心配じゃないの?」

「自分の妻を心配するのがそんなにおかしいか」

「いいえ…」


 ラベンダーは首を振った。


「ラベンダー」


 ローワンが手を伸ばし、そっと肩を抱いた。背中に腕をまわされ抱き締められる。


「早く国へ戻ろう。ここにいてはお前の体は弱るばかりだ」


 ラベンダーはドキドキしながら、ローワンの体に手をまわした。


「アニスが心配なの」

「くそっ」


 ローワンが体を離した。


「いいかげん、あの魔女の事を言うのはやめろっ」

「でも…」

「明日の朝、一番にここを出るからな」


 ローワンはいらいらして見えた。

 彼はラベンダーから離れると、ソファにどっかりと座った。


「俺たちの役割は終わったはずだ」


 ラベンダーは一瞬、ローワンは「ラーラの書」の続きを知らないのだろうかと思った。

 ローワンはため息をついて、背もたれに体を押し付けるとラベンダーを見つめた。

 ラベンダーは、今まで逃げてきた真実を明らかにする時が来たのだと思った。


 胸が苦しくて、息をするのがやっとだった。


 一言、声を出せば全てが一変して終わる気がした。


 しかし、今しかない。


 ここはアレイスター国で、ついに冥界の扉が開いたのだ。時間が迫っている。


「ローワン…」

「ああ」


 ローワンはむすっとしたまま、椅子の上で長い足を組んだ。


「なんだ」

「なぜ、リリーオブまでここに連れて来たの?」


 ローワンがぐっと唇を噛みしめた。


「お前の魔法のせいだ」

「どういうこと?」

「俺がお前の部屋を開ける前に、リリーオブが先に開けたんだよ」

「まあ…」


 ラベンダーは口を押さえて驚いた。


「じゃあ…」

「あいつは厄介な場所へとテレポートした。そして、俺まで巻き添えを食った」


 どこへ飛んだのか、想像がつく。

 リリーオブは、ローワンの寝室へとテレポートしたのだ。

 ラベンダーは怒りよりも、情けなさに涙が出そうだった。


「そうだったの…」

「ラベンダー、いい加減に俺に魔法を使うのはよすんだ。おかげで助けに来るのが遅くなった」

「頼んでないもの…」


 かわいくないと思ったが、口が勝手に動く。

 ローワンは表情を硬くした。


 怒鳴るかと思ったが、彼は何も言わなかった。


 気まずい雰囲気が漂い、ラベンダーは胸がざわざわした。


「ねえ…」


 しかし、ローワンは、ラベンダーの言葉を遮った。


「ラベンダー、少し休んだ方がいい。魔法使いも言っていた。俺もここで一緒に休むから」

「ローワン、どうしてわたしと結婚したの?」


 ローワンの顔はこわばり、押し黙った。


 ラベンダーはもう一度、口を開こうとした。だが、ローワンの怖い顔を見て口をつぐんだ。


「それを聞いてどうするんだ? 俺がなんて答えるのか、お前は分かっているんだろう」

「いいえ」


 ラベンダーは困惑した。


「分からないから聞いているんじゃない」

「お前が妖精の女王だからだ」


 ローワンは吐き捨てるように答えた。


 ラベンダーは目を閉じた。指先が震え、お腹が冷たくなる。


「わたしが、女王でなければ結婚しなかった?」

「…ああ」


 ローワンが言った。


 そっか。彼はわたしを愛していなかったのだ。


 ラベンダーはぼんやりとベッドに腰かけて、夫の顔を見つめた。


 口を開かなければいいのに、魔法にかけられように勝手に口は動く。


「誰でもよかったの? 女王であれば、誰でも?」

「俺は妖精の王となるべき男だ。選択権などない」

「そうね…」


 気がつくと、ローワンが立ち上がって目の前に立っていた。


 彼は苦しそうな顔をしていた。


「ラベンダー」


 手を伸ばし、頬を撫でる。


「体が冷え切っている」


 ラベンダーには抵抗する気などなかった。ローワンの指先はかたくて力にあふれていた。


 ローワンは強くラベンダーを抱きしめたが、力を弱めて頬にキスをした。

 彼女が抵抗しないのを見て抱き上げると、ベッドの真ん中にラベンダーを寝かせた。

 頬を寄せて唇にそっと触れられる。


 ローワンの重みを感じた。


 彼は、自分を抱こうとしている。


 ラベンダーは、胸をまさぐる彼の手を感じながら、目を閉じた。


 彼は従順な妻を欲しがっている。何も抵抗しない。女王の血筋を持った女を。


 涙が頬を伝った。


「痛くしたか?」


 不意に手が止まり、ローワンが困惑した声を出した。


「いいえ…。続けて、あなた…」


 ラベンダーは吐き気がする思いを隠し、ローワンに従った。


 ラベンダーにとって生まれて初めての経験だ。


 そして、これが、最後の経験となることを彼女は選んだ。




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