表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

おせっかい



 ジョーンズは、アニスの後ろ姿をじっと見つめて大きく息をついた。


 生意気だが目を離せない。

 謎に満ちた女性だ。


 突然、ぼろぼろの馬車が現れて、しかも、中には女性が二人だけ。


 初めてアニスの姿を見た時の衝撃は忘れられなかった。


 濡れネズミの彼女は半裸状態で、目のやり場に困ってしまった。

 ほっそりした手足と金髪は乱れて、白い体が震える姿を見れば、手を差し伸べずにはいられなかった。


 ところが彼女は自分たちを見た瞬間、険しい顔になり愛らしい口が開いたかと思うと、無礼な言葉が飛び出した。


 あれでは、誰もが不快に感じるのは当然だった。


 とにかく、あの時のアニスは生意気で、一瞬、かかわるまいと思ったのだが、追いすがってきた顔を見ると、自制するのも辛いほど体が熱くなった。


 とにかく体のラインだけでも隠してもらおうと本人に伝えると、あまりに恥ずかしかったのだろう、急におとなしくなった。


 しおらしくなったり、怒り出したりと感情に起伏はあったが、おそらく彼女はローズを守ろうと必死だったのだろう。


 彼女は何者だろう。


 精霊、悪い者、使い魔と言った単語を聞いていると、魔法の国から来たのかも知れない。

 とにかく、アニスの事をもっと知りたい。


 女性に対してこんなに興味を持った事はなかった。まだ、結婚相手もいないジョーンズは久々に心が燃えた。


 明日の朝が楽しみだった。何としても、アニスをカッシアまで連れて帰りたいと思った。




 翌朝、ジョーンズは早めに起きて、アニスのテントをのぞきに行った。


 まだ、寝ているだろうと思っていたが、アニスはすでに起きていて外の空気を吸っていた。


「あら、おはよう。ジョーンズ」


 ジョーンズは、女性がこんなに早く起きるのはあまり見たことがなくて内心、驚いていた。


「おはよう、アニス。君はずいぶん早起きなんだね」

「まあね、夕べはありがとう。何時頃出発するの?」


 アニスは大きく背伸びしている。コットンのドレスに身を包んだ姿は、男もののシャツよりずっと似合っている。風が吹くとすそがなびいて、彼女の細い足首がのぞいた。当然、裸足のままだ。

 ジョーンズは、アニスの足元から視線を外した。


「せめて、皆が朝食を食べてからだな」

「お日様が昇ってしばらく経ったわ。皆、寝ぼすけね」

「起きているはずだよ」

「わたしが一番だったもの」


 アニスは澄ました顔で答えた。ジョーンズはどう答えていいか分からなかった。


「見張りがいなかったか?」

「寝てたわ」

「そんなはずはない」


 怪訝な顔をしたが、アニスは肩をすくめた。


「ローズはまだ起きないから、彼女の朝食はいらないわ。朝は弱いのよ」

「君の馬車に馬をつないでいこうと思う。それに乗って移動しよう」

「ああ、ジョーンズ、本当に助かるわ」


 アニスが駆け寄って来て、ジョーンズの体をそっと抱きしめた。

 突然の事で、ジョーンズは驚いた。

 あっけにとられてから、アニスを叱った。


「君は誰にでも抱きついたりするのか」

「しないわよ」


 アニスがむっとする。


「あら、でも、あなたにはしたわね。今後、気をつけるわ」


 手をひらひら振ってなんでもない顔をする。ジョーンズは顔を険しくさせた。


「若い女性が、誰にでも抱きつくんじゃない」

「だから、しないって」


 昨日会ったばかりの年下の女性から、こんな扱いを受けるのも初めてだった。しかし、悪い気はしない。

 アニスは、にっこり笑うと大きく息を吸い込んだ。


「とっても気持ちがいいわ。空気が新鮮ね」


 朝日に照らされた彼女は美しかった。

 頬は薔薇色になり、腰まである白金の髪はさらさらと風に揺れている。


 ジョーンズは何も言えず、黙って彼女を見つめていた。その時、アニスが顔をしかめた。


「やだ、夕べあんなに食べたのに、お腹空いたわ」

「大したものはないんだが…。それよりも」

「え?」


 ジョーンズはアニスに近寄ると、すっとしゃがみ込んだ。


「足の裏を見せてみろ」

「またなの? しつこい人ね」


 アニスが後じさりするのをつかまえる。


「きゃっ」

「やっぱり」


 ジョーンズは呆れて言った。


「ここは砂利ばかりで、君のやわな足にはかなりの負担がかかっていたはずだよ」

「平気だってば」


 ジョーンズは有無を言わさず、アニスの足の裏を確かめた。

 昨日とは打って変わって赤くなり、薄皮が向けている部分があった。さっと自分のブーツを脱いで彼女に履かせた。


 当然のことながら、ぶかぶかだった。


 彼女は文句を言わなかった。


「おせっかい…」


 と、小さな声が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ