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満身創痍




 アニスは地面に倒れていた。


 頭が割れるように痛い。

 手で顔をさすると、手のひらにべっとりと血がつく。


「あ……」


 起き上がろうとしたが、力が入らない。


「どうなってるの…?」


 立つことができず、地面にしゃがみ込む。しかも、あたりは真っ暗で森にいるのだと思った。


 手は柔らかな白い手だ。

 肩に垂れる髪の毛は、金髪だ。


 戻ったのだ!


 飛び跳ねて喜びたいところだったが、体が痛くて笑えない。


 アニスは、自分の居場所を確認しようとした。

 手が震える。体も冷え切ってかたかたと唇が鳴った。

 そばに太い枝があったので、それを支えに立ち上がる。お腹に手を当てると、矢が刺さっていた。

 トロールに刺した矢に似ている。


 アニスが倒れていたそばには弓矢が落ちて、矢が散らばっていた。


 何が起こったのか、理解できない。


「ベイ…、ベイーっ」


 使い魔を呼んだが、ベイは来てくれない。アニスの声は届かないのか。


 ふらふらと歩き出したアニスは出口が分からなかった。


 なぜ、タンジーは森に来たの? 雨のおかげで火災が大きくなるのを防げたが、森の中は冷たく冷え切っていた。


 マロウか何かないだろうか。軟膏を作って傷に塗らないと、大変なことになりそう。


 杖を頼りに歩きだしたが、どちらに行けばいいか分からない。しかも、久しぶりに自分の姿に戻ったのに、うまく使えない。左右がばらばらに動いている気がする。


「アニス、しっかりするのよ。あなたは元に戻れたの」


 歯を食いしばる。


「とにかく、宿へ戻るのよ」


 足がもつれて派手に転ぶ。


「ううっ」


 お腹の痛みがひどい。血が止まっていないのだ。土をつかんで、立ち上がろうとすると、ネトルの葉の匂いがした。顔を上げると、群生している。


 助かった。


 何枚かちぎる時に葉のとげが刺さった。構わずに両手に乗せて、呪文を唱える。


「ネトル、ネトル、血を止めておくれ」


 ネトルの葉をさっと自分の指の間にくぐらせる。洋服をめくり、傷口を見た。一センチほどの穴が空いて、そこから血がどくどくと溢れている。


 アニスは意識を失いそうになりながら、ネトルを押しあてた。何枚かダメにして、ようやく血が止まった。


「後は、軟膏を塗らないと」


 その前に力付きそうよ。


 アニスは、弱音を吐いた。


 せっかく、ジョーンズに愛してもらえると思ったのに。


 涙がにじむ。


 どうして? わたしが何かした?


 ぐいと涙を拭いた。


「泣かないっ。わたしは、泣かないわよっ」


 ピューウー、ピューウーと、声がする。エルダーの声だ。アニスは、顔を上げて手を伸ばした。


「ここよ、エルダー」


 シロフクロウが近づいて来る。


「エルダー」



 アニス―。



 エルダーは、アニスを一目見るなり、さっと飛び上がったが、彼女はすぐに戻って来た。


 濃い赤紫の花をくわえている。


「マロウを取って来てくれたのね」


 アニスは、地面にはいつくばりながらも、マロウを石で潰した。服をたくしあげて傷に塗る。



 誰にやられた―。


 アニスは首を振るだけで精いっぱいだった。そのまま、横たわる。



 アニス―。


 エルダーが言ったが、アニスは目を閉じた。



「少しだけ、休ませて…」



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