野蛮な使い魔
「シスルッ」
シスルの長い赤毛が風に踊っている。
「離れなさいっ」
シスルは、濃い深緑のアザミの糸で編み込んだ細長いムチを手に持ち、それでゴブリンたちを打ちつけた。
ゴブリンがばらばらに散らばる。そこへ魔法使いが現れて、一体のゴブリンをとらえた。
「また会ったな」
茶色の魔法使いは、ゴブリンのボロ服をつかんで持ち上げた。足をぶらぶらさせたゴブリンが歯を剥きだして怒っている。その時、
「タンジーっ」
とジョーンズの声がした。
心配して戻って来たのだろう。
ふくらはぎにケガを負ったタンジーを見て、すぐに抱きあげる。
「大丈夫か?」
「助けてもらったの」
「あの時の魔法使い…」
ジョーンズも思い出したようだ。茶色の魔法使いはにやりと笑った。
「わしの名前はフランキンじゃ。さて、東へ向かう途中、こいつらが移動をしていて気になったから追いかけていたんだが、奴らの目的はあんたらかの?」
タンジーとジョーンズは顔を見合わせた。
「この先は行くことができない」
魔法使いフランキンが言った。
「どういうことですか?」
ジョーンズは、タンジーのケガの手当てを済ませて、フランキンに向き直った。
「この妖精を追いかけておったら、数日して、シスルの方から、行くところがないと戻ってきた。シスルは、アレイスターの森に住んでいたのだが、そこは魔法円が張られていて入れない。アレイスターは妖精やゴブリンが多く住んでいる。何かあったと思った矢先、ゴブリンが移動していた」
捕まえたゴブリンに目を向ける。
こげ茶色のゴブリンは、ぶすっとふてくされた顔をしていたが、唾を飛ばすようにガラガラ声で叫んだ。
「白の魔法使いだっ」
「お師匠さまだわ。やはり、アレイスターにいるのね」
「俺たちは追い出された。黒い世界の者を追い払え! ってんだ」
「嘘よ」
タンジーは、ゴブリンを睨んだ。
「お師匠さまはそんなことしないわ」
ゴブリンは生意気に真っ赤な舌を出した。
「フランキンさん、お師匠さまはきっと意味があってしたのだと思います」
「わたしもアレイスターに入ることができなかったの」
シスルが悲しそうに答える。
「何か危険が迫っているのね。でも、それが何なのか分からない」
「それで、お前らはどこへ向かおうとしておったんじゃ」
フランキンの質問は、ゴブリンに向かって言った。
ゴブリンは、つんと顔をそむけた。
「言わねえ」
「言うんじゃ」
フランキンが乱暴に手首を縛りあげて、木に吊るした。しかし、ゴブリンはぐるぐると喉を鳴らすだけで答えない。二人はにらみ合った。
「いつまで待たせるんだ」
ロイとアニスが馬を引いてやって来た。ゴブリンは、ぎょろりとした丸い目玉を大きくさせた。
「白い魔女さまだっ」
アニスに向かって叫んだ。
「おれたちの救世主、今なら間に合う、おれをエルフに、いや、エルフが無理ならブラウニーでもいいや、白い世界に入れてくれっ」
アニスは、ゴブリンの姿を見るなり、口を開けると、
「きゃあああーっ」
と、甲高い声で叫び、ジョーンズにしがみついた。
「化け物がいるっ」
ゴブリンを指さし、ぶるぶると震えだした。
「化け物は、どっかへ飛んで行けっ」
いきなり、指をパチンといわせ、ゴブリンに向かって呪文を唱えた。
「わわ、わわわっ」
ゴブリンのカラスのような両翼が開き、全身がみるみるうちに小さくなると、ゴブリンの姿はカラスに変わってしまった。
―クワーッ、クワーッ。
カラスになったゴブリンが、アニスに目がけて飛びかかる。
アニスは再び手を上げた。
呪文を唱えようとするのを、タンジーが止めた。
「やめてっ」
「その化け物をあたしに近づけないでっ」
ジョーンズの背中に隠れて、しっしと追い払う。
タンジーは、アニスに頼んだ。
「アニス、魔法を解いて」
アニスは、つんと横を向いた。
「あたしは、魔法を解くことができないの。兄ならできるけど…」
「あきらめるしかないな」
フランキンも言う。ゴブリンはぎゃあぎゃあと叫んで、宙を舞っている。
タンジーは、ポケットからレースハンカチを取り出し、ミモザの花の一部分をつまんだ。
「土星のハーブ、ミモザよ、ゴブリンの姿を浄化して欲しいのです」
ふっと息を吹きかけると、ミモザが空に舞い、粉々になるとゴブリンに向かった。ゴブリンの体にミモザの粉が舞い散ると、姿は変わらなかったが、ゴブリンは、タンジーの方へと飛んできた。
「黒い魔女よ、助かった。話ができる」
タンジーは、安堵した。
「あなたの名前を教えて」
「俺はベイ。あんたの使い魔になってやろう」
ベイは空へ高く舞い上がった。
「東の空は真っ暗だ。早く安全な場所へ移動した方がいい」
それを聞いたアニスが、ぶるっと震えあがった。
「これからどうするの?」
アニスが心配そうに言うと、フランキンは、アニスをじっと見つめていたが、
「仕方ない、宿へ泊まろう」
と言った。




