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はじまり



 アニスは両手を大きく伸ばした。

 真っ青な空の下、新鮮な空気をお腹いっぱい吸い込む。結っていた長い白金の髪の毛もほどいて楽にすると、草の上で伸びをした。

 パースレイン城をこっそり抜け出し、白いドレスが汚れるのも構わず、原っぱに寝転んで大好きな本を読むのは最高だ。今日みたいな日和はめったにないのだから、少しぐらい息抜きしてもいいだろう。


 アニス・テューダーは、パースレイン城の姫で、白い魔女見習いだ。十八歳の彼女は勉強が大嫌いで、空が青いからとか、今日は雨だからなど理由をつけてはたいていさぼっていた。


 今日も黙って城を抜け出して来ている。見習いとはいえ、城の者に見つからないように姿を消すことは簡単だ。


「ん?」


 アニスは体を起こした。


「何? 何かいやな気持ち」


 眉をひそめて、唇をきゅっと噛んだ。

 すばやく立ち上がると、腰まである髪の毛が唇に絡まったので、すばやく三つ編みにした。


(アニスっ、ここにいたのですね)


 頭上から、男の声がした。

 使い魔である精霊ミモザが舞い降りてくる。白いローブに身を包んだ彼は、背が高くてほっそりした体形だ。彼の長い金髪が風に揺られ、白い顔は青ざめて見えた。


「何かあったのね」


 ミモザは、アニスの姿を見て何か言おうとしたが、諦めたように小さく首を振った。


(小言は後にしましょう。大変な事が起きました)

「兄上は?」


 アニスは小走りで急いだ。ミモザがすぐ後ろにつく。


(わたしにつかまりなさい)


 アニスはミモザに抱きついた。


(パースレイン城まで移動します)


 言うなり、二人の姿は一瞬で消えた。ミモザは、瞬間移動が得意だ。

 瞬時に城まで戻り、すぐに人の気配がないことに気付いた。


「誰もいないの?」


(人間は眠らされているようです)


「母上や父上も?」


(おそらく)


「何て事…」


(とにかくノアを助けないと)


 ノアとは、アニスの兄で二人は双子だった。

 二人はノアの部屋へ向かった。

 不安のせいで心が落ち着かなかった。足が震えている。兄の部屋からは物音ひとつ聞こえなかった。


「兄上、いらっしゃるの? 開けるわよ」


 声をかけてドアノブを握った。


「あっ」


 アニスが小さく悲鳴を上げた。


「何かの力が邪魔をしている。魔法じゃないみたい」


 ぱっと右手を握りしめた。触れた手がしびれている。部屋全体なのか、それともドアの入り口だけなのか分からないが、ここからは入れない。


「ミモザ、どうする?」


(わたしは窓から入ります。アニスは隠し扉の方へまわってください)


「分かった」


 アニスは頷いた。

 このパースレイン城には隠し部屋があり、何かあった時、逃げ出せるよう地下の通路に繋がっていた。


(アニス、自分の身は自分で守るのですよ)


 ミモザはそれだけ言って、すうっと壁を抜けて外へ向かった。アニスはその言葉を聞いて、ごくりと喉を鳴らした。

 一度、自分の部屋に戻る。鏡台の横に隠し扉があるからだ。ランプに火を灯し扉を押して中へ入った。ろうそくの明かりでかろうじて見えるが通路は真っ暗だ。壁伝いに歩いて行く。


 兄上、待ってて、すぐに助けに行くわ。


 不安に駆られながらも、先を急いだ。




 ×××××




 その頃、ノアは自室で何者かに手足の自由を奪われていた。

 ドアの向こうから妹の声がした時、一瞬、視線をドアの方へ向けた。そのすきをつかれ、全身が硬直した。相手の姿は見えない。



 ――月が満ちた。パースレインの王子よ。


 暗い男の声がした。


 嫌な汗が流れる。これが、何度も見た悪夢の相手なのだろうか。


 ノアは、数日前から悪夢に悩まされていた。自分は妹とは違って、ただの人間だ。

 最近、断片的だったが悪夢を見るようになった。内容は、世界が冥界の神に支配され、滅亡させられるというものだった。

 こんにち、世界にはさまざまな種族が生まれ、平和に共存していた。しかし、冥界の神たちはその中でも黒い力を持った者たちの力を操ろうともくろんでいる。

 そこで、冥界への扉を開けさせようと考えている者があった。その扉を開ける鍵が自分なのだ。


 なぜ、自分が選ばれたのか理解に苦しむが、夢の中でノアは鍵にされてしまう。


 月が満ちた、と相手は言った。

 夢の中では、月も太陽もない暗闇だった。


 新月のことだったのか、と今になって気がついた。


 なんとか逃げないと――。

 夢が本当なら自分は鍵にされてしまう。


 しかし、どんなに足掻いても、目を閉じることすらできない。


 アニス入ってはならない。


 ノアは強く念じた。


「ノア?」


 その時、数回ノックがして、静かにドアが開いた。立ち去ったと思っていたはずのアニスが何とかして扉を開けたのだろうか。


 終わりだ…とノアは思った。しかし、顔をのぞかせたのは別の人物だった。ノアの婚約者、ローズ・アレイスターであった。


 ――なぜ、ドアが開くのだ。


 暗闇の声が驚いている。


「ノア、ここにいましたの?」


 ローズは、アニスとは真逆のおっとりした思慮深い女性だった。しずしずと中に入って来て、愛らしく小顔を傾げた。動くことのできないノアの顔を覗き込む。


「どうなさったの?」


 ノアの現状に全く気付いていない。そばに寄るとそっと肩を撫でた。


「アニスが探していますわよ」


 ローズ、逃げるんだ!


 ノアは叫んだが、聞こえるはずもなかった。ふいに、外の様子が一変した。強風が吹き荒れ、黒い雲が空全体を覆っている。突然、部屋の中が薄暗くなった。


「きゃっ」


 ローズが悲鳴を上げて、おびえた目でノアを見つめた。

 遠くで雷鳴が鳴ったかと思うと、あっという間に天井を揺るがす音が頭上で響いた。バシーンとどこか近くに落ちる。気がつくと庭の大木が倒れ、めらめらと火が燃え出した。嵐が突然やって来て城を取り囲んでいる。


 ――邪魔をする者は全て殺す。


 部屋全体を揺るがす大声が響いた。


「ああ…」


 ローズが気を失った。


 ローズっ――。


 部屋の中がどんどん冷たくなっている気がした。


 アニスはどこへ行った? 妹だけは何があっても守らなくてはならない。


 夢には続きがあった。自分が冥界の扉を開ける鍵であるなら、アニスはそれを閉じる鍵となる。双子なのに役割は正反対だ。アニスが殺されたら世界は滅びる。

 冥界の扉が開けば黒い力を持った者たちが次々と出てくるのだ。


 まさか、夢が現実になるなんて。アニスに伝えればよかった!

 今さら、悔やんでも全て後の祭りである。


 その時、倒れたはずのローズの体がむくりと動いた。ローズの茶色い瞳がかっと見開き、ノアを睨みつける。ローズの薄い唇が動いた。


「アレイスターの孫娘か、だから、たやすく魔術を解いたのだな」


 操られているローズはにやりと笑い、身動きの取れないノアのそばに近寄った。小柄なローズは背伸びをするとほっそりした指先をノアの首筋に這わせた。喉をぐっと締め付けてくる。ノアは苦しさにうめいた。


(やめよっ)


 突如、窓が開いて金色の何かが吹きこんできた。


 ミモザっ――。


 ノアは薄目を開けてアニスの精霊を見つめた。ローズに向かって、ミモザが手を一振りすると、かわいそうにローズの体が吹き飛んで壁に叩きつけられた。


 すまない、ローズっ――。


 ノアは心で謝った。


 ミモザがいるということはアニスもいるはずだ。その時、暖炉の脇にある隠し扉からアニスが飛び出してきた。


「ノアっ」


 アニスが庇うように目の前に立った。


 敵の姿が見えているのか――!


 期待すると、


「姿を見せなさいっ。この愚か者っ」


 と、目を彷徨わせて叫んだ。


 見えていないようだ。


 ノアが落胆すると、アニスの瞳が光った。深いグリーンアイがいっそう濃くなり輝き始める。


 ――白い魔女だな。


 闇の声が姿を現した。といっても形がない。黒っぽい影のようなものだ。


 黒い影が現れると、部屋中がガタガタと震え始めた。建物が崩壊するほどの揺れで、アニスはノアに抱きついた。


「何が起きているの?」


 ノアは答えられない。アニスはすぐに気付いた。


「何か魔法をかけられているのね」


 アニスは自分の頭に手を伸ばした。髪の毛に絡まっていたニワヤナギを数本手に持つ。ノアはそれを見て、アニスが今までどこにいたかすぐに悟った。

 また、魔法の勉強をさぼって原っぱで寝転んでいたのだ。


「ノットグラスよ、今すぐに兄の拘束を解き放て」


 アニスが呪文を唱えると、ニワヤナギが砕け散った。砕けたニワヤナギがノアの体を取り囲む。とたん呪縛が解けて自由になった。


 ノアは叫んだ。


「安全な場所へ逃げるんだっ」

「ミモザ、なんとかしてっ」


 すると、ミモザは迷いもなく言った。


(王子、わたしを許してください)


 え――?


 ノアが不思議に思った瞬間、ミモザから強大な力が向かってきた。


 息ができない――。


 ノアは押しつぶされそうになり、苦しさにもがいて妹を見つめた。アニスの目は見たこともないほど輝いていたが、茫然としていた。


「兄上っ」


 アニスが叫んだ時、からんと何かが床に落ちた。それは、アラベスク模様の銀の鍵だった。




 アニスが、ひゃっと飛び上がった。


 ――なんてこと! 兄上が鍵になってしまった。


 茫然としていると、ミモザが叫んだ。


(アニス、それを口の中に入れるのです)


「えっ、あわわ」


 アニスは鍵に飛びついた。握りしめると、銀の鍵が手の中で光り始める。アニスは目を閉じて、えいやっと鍵を飲み込んだ。


「うえー、吐きそうよ」


(レディがそんなことを言うものではない。十八歳にもなって)


 ミモザがちくりと小言を言う。


 二十歳のローズは気を失っていますけどね。


 ちらりとローズを見ると、かわいそうに彼女はすっかり伸びている。


 ――鍵を寄こせっ。


 黒い影がアニスに襲いかかる。アニスが身構えると、ミモザが黒い影をはじき飛ばした。黒い影がバラバラになる。


(アニス、わたしにつかまりなさい)


 ミモザが差し出した手にしがみつく。気がつけば外も部屋の中もうす暗く、真っ黒の空が呑みこもうと待ちかまえていた。

 体験したこともないほどの大粒の雨が降り出した。


 窓が破られそうだ。

 アニスは冷たい雨を見てぞっとした。


「まさか、外へ出るんじゃないでしょうね」


(ここにいては、城がめちゃくちゃにされるでしょう。参りますよ)


 ミモザがアニスを抱く手に力を込めた。


「待って、ローズを置いていけないわ」


(彼女は足でまといです)


「ダメっ、一緒に行くのよっ」


 ミモザは一瞬考えたが、ローズの身を空に浮かせた。呼び寄せて、ぐったりしたローズを腕に抱いた。


 ――逃がすと思うのか。


 声と同時に、窓が割れて激しい雨が吹き込む。

 アニスは、ローズを濡らすまいとかばった。たちまちびしょ濡れになる。そこへ嵐に巻き込まれた四人乗りの馬車がくるくると回転しているのが見えた。嵐の中にあっても原形をとどめている。

 アニスは必死になって馬車を魔法で手繰り寄せた。


「ミモザっ」


 ミモザが気づいて、すぐに三人は馬車に乗り込んだ。

 ギリギリの所で雷が、ばしーんと落ちた。


「早くっ」


 アニスは焦った。再び大粒の雨が屋根を突き破る勢いで降ってきた。


「ミモザ、急いでっ」


(あなたの望む場所へ)


 ミモザが叫んだ瞬間、馬車ごと消えた。


 ――わたしの望む場所。


 アニスは必死になりながらも、願いを込めた。



 このまま何もせずに死ぬのだけは願い下げだった。

 まだ、結婚もしていないのに――。(相手がいないのだから仕方がないんだけど…)。


 でも、アニスは、いつかきっと自分にぴったりの恋人ができると信じていた。


 わたしが望む場所は一つよ!

 アニスは願った。


 四輪馬車がすっと消える。未知の空間へと旅立つ。


 こんな大きな物体を抱えて瞬間移動したのは初めてだ。

 ミモザはさぞかし苦しいだろう。

 アニスは苦しげに顔を歪める精霊を見て思った。




 ×××××



 瞬間移動は無事に成功していた。見知らぬ場所へ降り立つなり、ミモザが目を閉じながら言った。


(アニス、申し訳ありません。わたしは少し休ませていただきます)


 言うなり、彼は一房のミモザアカシアの花に変化した。アニスは小さい花に息を吹きかけ、癒しの魔法をかけると、大切に胸にしまった。

 馬車が地上へ降り立つ。

 アニスがそっと外を眺めると、目の前に広がっていたのは荒れ地だった。

 アニスはあんぐりと口を開けた。


「まあ…」


 自分の胸にしまった精霊を見て、もう一度起こそうかしら、と一瞬、本気で思った。

 びしょ濡れのまま外へ出てみる。

 何もないと思ったのは大間違いだった。

 目の前には、盗賊のようなひどいなりの男たちがいて、唖然とした顔でアニスたちを見つめていた。

 アニスは顔をこわばらせた。


 あああ、神様。

 

 アニスは、空を仰いだ。

 この状態では、ローズが目を覚ましても、彼女は再び気を失うだろう。


 アニスは自分の姿を見て安堵した。

 顔は泥だらけでドレスはびしょ濡れだ。自分がちっとも美しくなくて良かったと心から思った。


 浅黒く背は低いが硬い筋肉を持った男が、鍬を持ったままじろじろと自分を見ている。その背後に、さらに筋肉質でひげもじゃの男がシャベルを担いでのっそり現れ、アニスのつま先から全身を眺めた。

 アニスは逃げ出したい気持ちに駆られた。


「なんだ、どうした」


 その時、男たちをかき分けて、とびぬけて若いハンサムな男が現れた。


 アニスの胸がどきりと高鳴った。


 黒髪にはっきりした顔立ち、鼻筋は整っており顎はしっかりしている。腕は太く足もたくましい。

 均整のとれた体つきで薄汚れていても、盗賊にしては気品があった。


「あなたが首領ね?」


 思わず出たアニスの言葉に、男の顔が引きつった。


「その言葉は適切ではない。私はこう見えてもこのカッシアの領主だ」


 カッシアは聞いたことがある。

 パースレイン国から、カッシアは北の方角にあった。


「広大な土地を所有されているのね」


 見渡す限り荒れ地だが。


 アニスは息を吸って気持ちを引き締めた。


「助けて欲しいの。水と食料を分けてくださらない?」

「君たちは誰だ。どこから現れた」


 男が怖い顔で言った。

 アニスは真実を伝えるべきか悩んだ。その時、数名の男たちが馬車の中をのぞいて声を荒げた。


「おい、中にすごいべっぴんが眠っているぞ」

「触らないでっ」


 アニスがすごむと、領主の背後で控えていた年配の男が吐き出すように言った。


「触るなだと? 突然、現れて、高飛車に助けろなんて言われて、あんたならすぐに助けるか? 自分の姿を見てみな、俺たちを蔑んでいるらしいが、あんたのナリもよっぽどひどいぜ」

「もういい、みんな作業に戻るんだ」


 若い領主が叫ぶと集まった男たちはしぶしぶと離れて行った。彼らは荒れ地を開拓していたらしい。


 アニスは高飛車な態度を取った事を悔んだ。


「ごめんなさい、わたしが悪かったわ。でも、とても困っているの。助けてください。領主さま」


 丁寧な言い方をしたつもりだったが、相手はそれを気に入らなかったのだろうか、もう一度、ぴくりと男の顔が歪んだ。そして、何も言わず背中を向けて行こうとした。


「あっ、お願い、待ってっ」


 アニスはあわてて男を追いかけた。

 男の手を捕まえると、アニスは手首を掴まれ引き寄せられた。簡単に体を引っ張られ面食らった。


「君は何者だ」


 耳元で囁かれる。アニスは目を見開いて男を見つめた。

 彼は青い瞳をしていた。


「荒れ地に突如、馬車が現れてみろ。みんな驚くに決まっている。それに…」


 男はちらりとアニスの全身を眺めた。


「これを着て」


 男は白いシャツに茶色のベストを着ていたのだが、それを脱いでよこした。


「なぜ?」


 アニスは、怪訝な顔で男を見つめた。


「いいから、僕の言うとおりにするんだ」


 アニスは自分を見下ろした。


 そんなにみっともないのだろうか。

 屈辱で涙が出そうになる。


 唇を噛むと、男が首を振った。


「そうじゃない。言いたくなかったが、体のラインがくっきり見えている」


 聞いた瞬間、アニスの白い顔が真っ赤に染まった。

 あたふたとベストを着て前をかけ合わせた。


 白いコットンのドレスを着ていたのだ。コルセットをつけていないので、全部見えていたのかと思うと、今すぐ消えてしまいたかった。

 男のベストは、大きくてお尻まで隠してくれている。

 たちまち、しゅんとなったアニスを見て、男はため息をついた。


「立派な馬車だが、馬が見当たらない」

「馬は、もともといなかったの…」


 アニスが小さく答えた。


「どうして?」


 男が聞き返す。アニスは顔を赤くしたまま小さく首を振った。


「わたしたちは悪い者たちに襲われて、それで、精霊が助けてくれたの」

「精霊?」


 男がバカにしたように笑う。


「バカにしないでっ」


 男が魔法を信じていないのだとすぐに分かった。


「ごめん、ごめん、そんなに怒らないで」


 アニスは両手でスカートを握りしめた。


 魔法を使って今すぐ違う場所へ行きたいのに、体が消耗していて、実は立っているのがやっとだった。

 寒さで体が震える。

 男がアニスの様子に気づいて顔をしかめた。


「まずは体を温めないといけないようだな。君は僕の馬より汚い」

「なんですって? 乙女に向かってよくも…っ」


 しかし、男の言うとおり、アニスはひどい姿をしていた。白金の髪はぐっしょり濡れていて、あられもない髪型になり、もっとひどいのは顔だった。泥で化粧したかのように、まっ黒になっていた。

 鏡を見れば卒倒したはずである。幸い姿見がなく、全身を写すことはできなかった。


 男に食ってかかると、両手首をつかまれた。


「痛いっ」


 悲鳴を上げてアニスは暴れた。男がぱっと手を離した瞬間、派手に尻もちをついた。


「痛いわっ。野蛮人っ」


 男は、はあっと大きくため息をついた。


「うるさい女だ。その馬車で眠っている女性は助けよう。君は彼女つきのメイドだろ、テントしかないから、外で見張りしろ」


 そっけなく言って立ち去る。

 アニスは助けてもらえると聞いてほっとした。

 温かいお湯で体を清めて、パンとスープでももらえたら、ありがたい。


 そして、とりあえず力が回復したら、ミモザを呼び出して、とっちめてやるっ!





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