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Unknown  作者: 朔望
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6-[The future of God or the past of the devil]




Memory of T


 次第に輪郭が浮かび上がってきた。だが、まだぼんやりとしている。

 気づけば道路に立っていた。痛みはない、感じなくなってしまったのだろうか。

 遠くのほうで叫び声が聞こえた。それも、だんだんと大きくなってくる。それと同時に視界の靄も晴れてくる。聴覚も麻痺していたようだ。

 だが、叫び声の主に気づくと体が硬直していくのが分かった。あの男だ。

 でも、様子がおかしい。叫び声は何かに苦しむようなそんな声だった。よく見ると肘のあたりを押さえて、呻いている。

「てめぇ、よくも、よくもよくも、俺の腕をぉおぉおお」此方をにらんで声を絞り出すように言った。

 そこで、男の腕がないことに気づく。腕からは止め処なく血が流れ、男の足元に小さな血溜りを作ろうとしていた。

 でも、なぜ?

 その思考でやっと、さっき切り落とされた自分の右腕が、天に向けて上げられていることに気付いた。

 腕が回復している。と、言うか、腕が元通りにつながっている。胸からの出血が治まっていることにも気付いた。左手で触ってみるが、痛みもなければ傷跡らしきものもない。

 僕は、驚愕した。

 だがそれは、腕が元に戻っているからでも、胸の傷がないからでもない。

 それは、元に戻った右腕の肘から先が、人間のそれとは明らかに違う形状をしていたからだった。

 指は鉤爪状になり、手首から少し上には刃渡り1メートルほどの両刃ナイフのようなものが突き出し、腕の脇のパイプ状の物からは蒸気のようなものが噴き出している。ナイフの先には血のような赤黒い液体が伝っていた。男の血だろう。

「う、うわあぁああぁぁ」突然、遅れて恐怖が沸き起こる。見っとも無く叫びながら、腕を振り回した。これが実は気ぐるみで振り回せば抜けて飛んでいくのではないか、そう思ったからだった。だが、それは抜けるわけでもなく、周りの塀に刃の先を当てて切り落とし、それが本物で、威容に鋭いという事実を固めただけだった。

「くそったれ。こんな所に適応者がいるなんて聞いてねぇぞ!!!」男が喚く。

「あ、ああぁ、うぅ」女の子が恐怖の声を上げる。見ると目には涙が溜まっていた。だが、

「うるせぇぞ!!!!!!!」男が女の子の頬に裏拳を食らわす。「きゃあぁ!!!!」女の子が叫んだ。

 その瞬間、僕の右腕が跳ね上がり、そのまま伸びて刃が男の右肩に刺さる。

「う、ああぁぁぁあぁ」男が苦痛の声を上げる。

 腕が縮み刃が抜けると、また、腕が伸びほぼ同じところに突き刺さる。さらに続けざまに三度刃が男の体を貫いた。そのたびに道路に血が飛び散った。


「や、やめろぉぉぉぉおぉ」左腕で、右腕を押さえ止めようとしたが、まるでほかの意志が働いているかのようにそれは動きを止めなかった。

 何度も同じ動きを繰り返す。刺す。抜く。刺す。この繰り返し。

 そのうち自分の腕が男の体を貫き続ける光景に吐き気が込みあがってきた。口の中に苦いものが広がる。目が霞む。どんどん目の前が暗くなっていく。そういえば、息をするのを忘れていた。


 前に倒れこんだ気がした。


Memory of Y


 頬に当たる何かで目が覚めた。いや、寝ていた訳ではないので、気が付いたというべきか?

 俺は飛び起きる。

 冬真の居場所を、男の居場所を知りたかったからだ。

 そこで違和感に気づく。

「あ・・・・・」思わず声が出る。

 傷がない。

 そんなはずはない!!さっきあんなに派手に斬られたんだ。少しの間呆けてる間に傷が消えるはずがない。

 だけど、俺の腹は、俺の脚は、傷一つ残ってやしなかった。

 制服は派手に裂けているのに、だ。

 けれど、今それを追求している場合じゃない。

 冬真は?あの少女は?そして男は?

 いっぺんに考えが頭の中を駆け巡る。

 周りを見渡す。

 まず、目に入ってきたのは、あの少女だ。

 全身血だらけになっているが、特に傷ついているわけではなさそうだ。気絶しているように見える。

 少し目線を動かしたところで俺はドキッとする。

 少女のすぐ隣に男が横たわっていたからだ。だが様子がおかしい。息を荒くして悪態をついている。が、此処からは声は聞き取れない。

 冬真は?何処だ?

 俺を中心にして、男と対角のところに冬真は倒れていた。

「トーマ!!!!」


 立って、歩けることを確認すると、走って駆け寄った。

 息はしている。冬真も気絶しているようだ。

 しかし、俺は目を疑う。

 冬真の腕は元通りに直っていたからだ。よく見ると胸の傷も消え去っていた。

おかしい。俺の腹といい、冬真の腕といい、おかしすぎる。

 夢だったのだろうか?だけど、この血だらけの道路を見てその理屈を押し通すことはできなかった。

「おい、誰か救急車呼べ!!!!」

「お、おう!!!」幾人かの叫び声が聞こえた。

 誰かが見つけたようだ。

 あぁ、駄目だ、目が霞む。血を失くしすぎたか?体が重い。

「おい、ダイジョゥ・・・・」少しずつ声が消えていく。


 そして、深淵に落ちていった。



Memory of N


 糞、クソクソくそぉぉぉおおぉ、

 ナンダあの餓鬼は!!!!!!!!!!!!!!

 糞、こんな所に適応者がいたなんて話聞いてねぇぞ!!!

 しかも、なんだあの型は!!!!!

 あんな、タイプ見たことねぇ。

「おい、誰か救急車呼べ!!!!」

「お、おう!!!」誰かが、此処にきたみてぇだ。

 糞、こんなんで俺の殺意が治まるかよ、ミテロよすぐに回復して。

「おい、ダイジョウブか?って、あぁーあ、気絶しちゃったよ。演技台無し。まぁ、あんだけ血ぃ流してたらこぉなるわな」男たちの一人が言う。

 こいつも俺のこんな姿を見たからには殺してやる。

「テ、テメェラァ」糞、かすれた声しか出ねぇ。

「あぁ、そうそう、君、もう、用済みやから」

「え?」

 首に何か当たる。


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