3-[An opening of tragedy]
そして、不具合が生じる。
Memory of N
順調だ、心の中で呟く。後もう少し、2メートル、1・5メートル、1・3メートル・・・・
だがそこで女が気づきやがった。
「キャーーーーー!!!」
五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿いぃ!!!!!!
女が喚きながら逃げ出す。すぐに捕まると分かっていてもそれが弱き者の習性だ。
でも、だが、しかし、だからといって、俺は捕まえない。大丈夫、すぐに喚けなくしてやる。
俺は女を追った、そしてすぐ後ろに追いつく、女がこける。女は恐怖の表情を浮かべている。
「苦ククク苦苦ク苦ククク」笑いが漏れる。俺は、手のそれを女へと振り下ろす。
地面に南瓜ほどの物体が落ち、すぐに周りが深紅に染まる。
「クク、クククク苦クク・・・・・・」
笑いが止まらない。
とそこで、此方に近づいてくる足音に気づく。
「さぁ、次の生贄は誰だ?」
楽しくてたまらない。
Memory of T
何があったんだろう、事故なのか、それとも事件か。そんなことを考えながら悲鳴の上がった方へと走る。有利は後から付いてくる。
角を曲がる、人がいた。どうやらここが悲鳴の発信源のようだ。だけど僕らの目に飛び込んできたものは、想像のしてなかった光景だった。
血だらけの路地、頭の無い女の人の体、無造作に転がる頭、僕は吐き気がこみ上げてくる。
でも、そんな吐き気もすぐに恐怖に変わる。
死体の横に屈折した笑いを浮かべて、男が血まみれで立っていたからだ。
ヤバイ、やばい、この男はヤバイ。頭の中で警鐘がなっている。だけど、それと同時に何故か僕のちんけな正義感が膨らんでいく、
「おい、そこから動くな!!!!」あーあぁ、言っちゃたよ。僕の中でもう一人の僕が呟く。
「オイ、何言って――――」後ろから有利が叫ぶ。
「ユーリは黙ってて!!!こいつは悪人なんだ!!」
君は何に拘っているんだい?また、もう一人の僕が言う。
気づくと僕は男へと向かって行った。
「おい、待て!!!そいつは――――」
後ろのほうで、有利の声がする。
男が此方に一歩踏み出すのが見えた。男が腕を振り上げる。
次の瞬間、目の前が暗くなった。何が起こったのか分からなかった。
気づけば目の前にコンクリートがあった。遠くに何か落ちていくのが分かる。
「あぁ、なんだ手てか、、、」
肩から下の腕が血飛沫を上げながら落ちていくのが見えた。誰のだろう?
誰かが僕の名を呼んでいる。誰の声?僕は誰?
まぶたがゆっくりと閉じる。
Memory of Y
さっきの悲鳴は何なんだろう。女性の悲鳴だったが・・・。そんなことを考えながら冬真の後ろを走る。
冬真が角を曲がる。コンクリート塀の向こうに姿を消す。悲鳴はこのあたりで上がったはずだが・・・・。俺は走るのを止め、歩いて後に続く。
だが、俺たちの目の前に広がっていた光景は、こんな住宅地にはあるはずの無い光景だった。
血がべったりと付いたコンクリート塀。その向こうの桜までもが朱に染まっている。その下に は、目を見開いたまま絶命したと思われる女性の首。そしてその体。そして何より、いや、だからこそ、その隣に立つ男が不気味だった。
そこで俺は男のあまりにも奇妙な、そして理解のできないものに気づく。
男の腕の肘から下が異様に長い、伸ばせば地面に付くだろう。さらにそれは先に行くにしたがって細く鋭くなっている、そう、まるで・・・・・。
にげろ、逃げろニゲロ、誰かが近くでそう言う。そこで自分の声だと気づく。逃げないと、そう冬真に伝えないと、、、、
「おい、そこから動くな!!!!」
そんな声で俺の思考は遮られる。
「オイ、何言って――――」咄嗟に叫ぶ。
「ユーリは黙ってて!!!こいつは悪人なんだ!!」冬真が言い返す。
あぁ、こうなるともう手が付けられない。なぜ、お前はいつもどうでもいいことに拘るんだ。だが、今こんなこと言っている場合がないんだ。と、そこで冬真が男のほうへと走り出す。
「おい、待て!!!そいつは――――」
いやな予感がした。今朝見た新聞の記事。巨大な刃物で切りつけられる連続通り魔事件。男の巨大な腕。だけど、でも、しかし、俺はまだ頭の片隅でそれを否定していたのかもしれない、本気でとめれば冬真と逃げることができたかもしれない。けれど、運命というものは冷たくて、そのうえ残酷だった。
男が冬真のほうへ一歩踏み出すのが見えた。男が腕を振り上げる。
その瞬間音が消えた、そんな気がした。
男の腕は冬真へ向けて振り下ろされる。肩から胸へとそれはなぞるかのように斜めに下っていく。冬真の腕が大空へと舞う。冬真の胸からは血が、あたかも噴水のように噴出す。男の顔が さらに紅く染まる。腕が、血飛沫を上げながら落ちていく。冬真の唇が動く、だが何と言っているのか分からない。
「冬真、冬真、トーマ逃げるぞ!!起きろよ!!!」だが反応は無い。
遅れて憎しみが胸の中に広がる。目の前の男に、冬真を止められなかった自分に。そしてあまりにも残酷な運命の女神に・・・・・
男のほうへと疾風の如く走る。敵わないことは分かっていた。だけど、それが守るべきものを守れなかった人間の習性なんだろう。
ゴスッッ、鈍い音を立てて俺のこぶしが男の頬へと当たる。
「ってぇ〜〜なぁ。生贄は生贄らしく隅で震えて泣いてろっての」
次の瞬間腹部に痛みが走る。傷口から自らの内臓がずり落ちていくのが分かる。下を向くと腸やら胃やらがアスファルトに砕け散っているのが分かる。
男を見る。「そんな目でこっちを見んなって。」腕が胸元へと振り下ろされる。
冬真すぐにそっちへ、、、、、、、
ゆっくりと倒れる。