Part 1: A myth of an opening. 1-[Non‐real waking]
Memory of N
「クク、苦クク、苦苦苦クク苦苦クク」
ついおかしな笑い声が漏れる。
持っていたそれはまだ温かい。
指から血が滴る。もちろん俺の指ではないが・・・。
後ろを見れば血が続いている。まぁ、大丈夫だろう。
窓からかこちらを見ているやつに気づく。
「俺は、俺はここにいるぞぉぉ!!」
そいつは恐怖の表情を浮かべてカーテンを閉める。
クククク、心の中で笑う。
「とうとう、面白くなってきた」月の下一人呟く。
Memory of T
四月 桜は咲き乱れ春の到来を知らせていた。
と、そこに場違いな音が鳴り響く。
ぴ、ぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴぴ・・・・・
「うぅ〜〜・・んぅ〜・・・・五月蠅ぇ〜〜〜〜!!!」
僕の投げた目覚ましは綺麗な放物線を描きながら落ちてゆくと、不吉な音を立てて床へと落ちた。
新しいのを買いにいかなきゃ。
飛んできた何かの部品を見ながら思う。
ベッドから起き上がり着替えて顔を洗いにいく。
鏡越しに覗き込んでくる顔は、世間的に言うと中の上といったところか、と、自らの顔の評価をする。
食堂に行くと、母親がテレビから顔を上げて、
「あら、早いわね?」という。
「受験生だしねw」
笑って答える。母さんもつられて笑う。
「パンにする?ご飯にする?」
と、毎朝かわることのないフレーズを使って聞いてくる。
僕は、躊躇わずに、
「パンでいい」
と答える。
「何枚?」
「一枚でいいよ」
「冬真、今日から新学期なんだからしっかり食べなさい」
「いいよ別に、それに今日は午前中で帰ってくる」
と、他愛ない会話をしてから、パンが焼けるまでの間テレビを眺める。
テレビの中には真剣な顔つきのキャスターが何かニュースを読み上げているようだ。
焼けたパンを頬張りながら、よくよく見ると最近このあたりで続発している連続通り魔殺傷事件の話だった。
犯人は「他に仲間を知らないか?」「俺はここだぞぉおぉ」などと、意味不明な言葉を叫びながら鋭利な刃物で切りつけてくるという。凶器は見つかってないらしい。
まぁ、僕には関係ないことと、席を立ち洗面所に行き歯を磨く。
学校へと向かう為靴を履いていると、外から通学する小学生の笑い声が聞こえてくる。
小学生のころは、あんなふうに何も考えず一日一日が楽しかったのを思い出すと、ふっ、と笑いがこぼれる。
でも今は、今日からまた学校が始まると思うと気持ちが沈む。
これは全国の学生の中でも珍しいというほどのことでもない。大勢いるだろう。
まぁ、そんなことを考えながらドアをくぐり学校へと家を出る。
Memory of Y
四月 桜は咲き乱れ春の到来を知らせていた。
と、それまで狂ったように囀っていた小鳥が向かいの家の窓に起き上がるものを見つけると驚いたように飛び立っていった。
チュン、チュン、チュチュ、チュンチュン・・・・・
「ふぁああぁ〜〜・・・・・・・・・」
鳥たちの盛大な囀りで起こされてしまった。
当の鳥どもはというと、俺がおきたのに驚いたのか向かいの木から飛び立っていったようだ。
然しこれは、一日の目覚めの中では最上級の目覚めかもしれない。
そんなことを考えながら、割と片付いた部屋を見渡し壁に掛けてある制服に目を留めると、着替えて1階へと降りてゆく。
顔を洗い、居間へと向かうとそこには既に父親が新聞を広げ朝飯を喰っていた。母親も隣にいた。
「おはよう、ユーリ」
「おはよう」
両親と挨拶を交わし、父の向かいの席へと座る。
魚の身を解し、口へと入れる。続けて、軽く白い湯気の上がる米を口に入れる。窓の外を通る車の音以外ほとんど音がしない。静かだ。
とそこで、新聞の一面に「連続刺殺事件 犯人は精神異常者か?」という文字があるのを見つける。何でも最近このあたりで発生している事件のことらしい。
俺は、記憶をたどり事件に関する情報を探し出した。確か鋭利で巨大な刃物で昼夜関係なく突然に切りつけられるというものだ。これは非公式だが、体の一部が切り捨てられているらしい。それは首だったり、腕だったり、さらには腹部でばっさり繋がってなかったりしているという話だ。
まぁ、俺には関係のないことと別段気にしてはいない。
ふと、目の前の皿を見ると何も乗ってないことに気づく、
「ご馳走様」
そう言い残し、俺は席を立つ。歯を磨き自分の部屋へ戻る。
ベッドの上の時計が7時10分を示す。あいつが来るにはまだ早い。
そういえばこの前あいつが、俺はもう受験生なんだから寝坊はしない、とか言ってたな。無理だろ。思わず、笑みがこぼれる。
と、そのとき窓の外から、
「おーい、おきてんのか〜〜?早くでてこ〜い!!ユーリーーー!!」
と騒々しい声が聞こえた。時計を見る、さっきから10分と立ってない。
「わかったよ!聞こえてる、今行く」
内心驚きながらも返事をする。あながち、この前の誓いも無理ではないかもしれないと思うほど、珍しいことだった。
まぁ、でも無理だ、うん、
冷静になって思う。
階段を下り、真新しい靴を履く、と、そこで忘れ物に気が付く。
急いで階段を上り、机の上にそれを見つける。プラスチックのそれには白地の文字が書かれている。渋谷区在住の人が喜びそうな文字だ。ふっ、と笑いが漏れる。
外から、「はやくしろよおおううぅ!!おい、有利!!」と、叫び声が聞こえる。
早く行ってやるか、と玄関へと向かう。プラスチックのそれを付け、靴に足を通し、ドアノブに手をかける。
「行ってきまぁす」俺は外に出る。