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七つの瓶  作者: リコヤ
赤 -陽気な踊り子は大地の鼓動を知る-
8/47

8

未成年の飲酒シーンがありますが、それを推奨するものではありません。

お酒は二十歳になってから、です!

8

 外に出した樽とグラスを蔵の中に戻すと、サラマンダーは樽の上に移動してきて丸まった。オーダンさんの話の通りだ。樽が燃えないのが不思議。眠っているのかしら。

 いつの間にか夜が明けていた。すっかり興奮してしまって眠気なんてないけれど。


 オーダンさんがさっそく葡萄酒を瓶に詰めてくれた。本当は樽で熟成させるものなんだろうけれど、葡萄酒としては一番できあがっているものだから大丈夫だそうだ。

 ――って、それってここで一番古い葡萄酒ってことじゃない!……いいのかなぁ……

 あのラベルもしっかり貼ってくれた。ずっと残っていたらしい。日付は手書きだ。

「やー、どーなることかと思ったけど、結局順調に手に入ったねぇ」

「はい。よかった……!」

 一つ目、赤のラベルの瓶……手に入った……!わたしはぎゅっと瓶を抱きしめた。嬉しいよぅ。


「タチバナさんがいなければ、わからんままでした。ありがとうございます」

「え?い、いえ――」

「本当にお手柄だぜ。え?アンタがいなけりゃ俺らの受け継いだモンが消えちまうとこだった」

 わあっ……クルフさんの大きな手で頭をがしがしと撫でられた。か、髪が……

「先代がナイショにしたがった理由もわかんなくもナイけどねェ」

「わたしもすてきな歌と踊りを拝見できて光栄です」

「あっはっは、光栄てのは言いすぎだよ、ルリ!」

 それからミランさんは名刺くらいの大きさの通信札をくれた。これに文字を書いて言葉を唱えると、相手の札に書いた内容が送られる魔法の道具だ。安くはないのに、いいのかな。

「交易路で困ったことがあったら、いつでも連絡するんだよ!」

「は、はいっ」

 わたしは近場への旅行しかしたことがないけれど、《ウルファ》は旅する人々だ。きっと頼る場面がでてくるだろう。


 オーダンさんがお盆にグラスを人数分載せ、片手に葡萄酒を持って出て来た。

「みなさん、よければ味わってみませんか?」

「えっ!もう飲めんの!?」

 門倉さんとクルフさんが嬉しそうに駆け寄った。お酒、好きなのね。

「本来の飲み頃は一年ほど熟成させたあとなんですが、せっかくですから」

 グラスに注がれた葡萄酒を、昇ったばかりの太陽に透かしてみた。中でなにかがチカチカしている。これ、サラマンダーの炎だ。


「『陽気な踊り子は大地の鼓動を知る』の復活に!」

 オーダンさんの音頭で乾杯。

 ……わたし、お酒飲んだことないんだけど……

 一口だけ飲んでみた。

 ……よくわからない。一瞬渋いと感じたけど、葡萄の香りが広がって……口の中ちょっとざらざらする。こういうものなのかしら。

「うっまー」

「こっりゃァいい葡萄酒だ、オーダンさん!」

「おいしいねぇ」

 うん、みんな嬉しそうだし、おいしい葡萄酒なんだろう。

 でも……サラマンダーの炎は、どこで作用しているのかしら。これだけ光っているのに、火が吹けそうとかそういう感じはないんだけど。


 ――あ。待って。

「音が聞こえる……?」

「これ、足下からだ」

 しゃがみ込んだ門倉さんは、文字通り地面に耳を傾けている。

「これ……あたしの踊りとリズムが同じだ」

 体を動かしてミランさんが言えば、

「いや、旋律も同じだぞ?」

 と、クルフさんが歌う。

 よく聞いてみようと目を閉じてみたら、まぶたの裏にたくさんの光景が浮かんできた。


 春に芽吹き、夏は空を目指す。秋に実り、冬は眠る。日が照り、雨が降り、風が吹く。ずうっと繰り返されてきた時間。これは、葡萄がすごしてきた季節の光景だ。すべてがおいしい葡萄酒の糧になる。

 巡る時に、無駄はない。すべてのものが、その一瞬にしか感じられない、出会えないもの。


 ……うん。うん、そうだ。

 今この時『赤』を、『七つの瓶』を捜しているから、オーダンさんやクルフさん、ミランさんに出会えたんだ。今じゃなかったら、遇えなかったかもしれない。


「どーしたの瑠璃ちゃん、すーごいニコニコしてるよ?」

「えっ、そうですか?えと、なんだか楽しくて、じゃなくて楽しみで!」

 不思議と『七つの瓶』を集めることに感じていた不安が消えていて、むしろ楽しみになっている。

 成功しなければすべてを失う旅だけど、憧れの『七つの瓶』を求める旅でもある。二度とない機会かもしれないんだ。

 今しかつながらない縁がある。

 楽しまなくちゃ!

「葡萄酒の効果が出てますね!」

 オーダンさんもに笑顔だ。え?葡萄酒の効果?

「この葡萄酒を飲むと、もれなく陽気になるんですよ!」

 もれなくって……でも今のわたしにはちょうどいい効果だった。


「わたし――『七つの瓶』集め、がんばります!」

 『七つ瓶』とは縁がある。だから「きっと」ではなく絶対、揃えられる。

 晴れ晴れと言いきれたのが、すごく嬉しい。



 一つ目は赤、『陽気な踊り子は大地の鼓動を知る』。

 わたしはこう説明しよう。

 赤い星を抱く葡萄酒、と。

もう一度。

お酒は二十歳になってから、です!

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