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短いです……
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男の人はケルミーア=クルフ、女の人はケルミーア=ミランと名のった。《ウルファ》には家族を示す姓はなくて、血のつながりがなくても一族を示す名前がある。だから二人は、ケルミーアのクルフとミラン、ということになる。
二人は今、飛び跳ねて踊っていた。オーダンさんから葡萄酒の話を聞いたせいだ。
「なんて素敵なの!なんてロマンあふれる話!」
「踊りがサラマンダーを捕まえ、その炎で葡萄酒を!」
「先代が内緒にしたがった理由がわかったわね。こりゃあ内緒にしたいよ、ホント!」
祖父や、これまでに『七つの瓶』を揃えた人達と同じね。
「さぁっ!いっちょやろうじゃねーか!」
クルフさんは馬車から楽器をとってきた。《ウルファ》の楽器だろう。初めて見る弦楽器だ。弦が十本もあって、弾くのが難しそう。楽器を抱えてクルフさんは地面に直接座った。いくつか弦を弾いて調律する。ミランさんはとんとんとつま先で地面を蹴ったりして、あれは準備運動かしら。
「では」
音楽が始まった。《ウルファ》の音楽を聴くのは初めてだ。
短い前奏が終り、クルフさんが歌い出した。とってもいい声だ。それに合わせて、ミランさんが軽やかに踊り出す。
大気には甘い香り、空には星
わたしは一軒の農家を訪ねた
わたしを強く惹くものはいったいなに?
人々は陽気に騒いでいる
男も女も、子供も年寄りも!
その手にあるものはなに?
娘の一人がわたしにくれた
これは大地の血潮
大気には甘い香り、空には星
歌にあわせて踊り子が舞う
わたしは捕まってしまった
でもかまわない
この実りに赤い祝福をあげよう
わたしの喜びを星へと変えて
ミランさんの舞が、歌と同時に終わった。
すてき!
わたしは思いっきり拍手した。オーダンさんも、門倉さんも、感動した様子で手を叩いている。
「クルフさんもミランさんも、すてきです!」
「ありがと。他では踊らないように言われてたから、実は今日が初披露なんだよ」
ああ、サラマンダーを捕まえるためのものだから…………て、あれ?
歌と踊りに感動して、すっかり頭から抜けていたけれど……
門倉さんがぼそっと言った。
「出なかったねサラマンダー……」
場は一気に静まりかえった。
「ちょ――ちょっと!なんで!?どうしてッ!?」
最初に我に返ったミランさんが、クルフさんにつかみかかった。
「俺に聞くな!俺だってわからん!」
誰にもわからない。
《ウルファ》の踊り子が踊ったのに、サラマンダーを捕まえられない理由。このままじゃ、葡萄酒が造れない。
「んー、なかなかうまくいかないモンだねぇ」
傍観者の門倉さんの、のんきなつぶやきが腹立たしい。