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むっつりと怒っているわたしの肩を、門倉さんがなだめるようにぽんぽんとたたいた。
「まーまー瑠璃ちゃん、機嫌なおして。二人がそんなこと企んだから、いろんなもん見れたんだし?ここはそれで許してあげなよぅ」
「それは……確かに、そうなんですけれど……」
旅に出るなんて、しかも憧れの『七つの瓶』を探す旅なんて、ときどきボンヤリ思い描く程度で、実現できるものだなんて考えたことなかった。長期間の旅行なんてしたことないから、そもそも想像つかなかったこともある。
それが、突然旅立つことになって。
揃えられなかったら、家がなくなってしまう――そんな重圧を背負わされての出発だったけれど、考えてみると、すぐに薄れて『七つの瓶』探しに夢中になっていた。我に返って後ろめたさを覚えても、見るもの聞くものすべてが新鮮で、好奇心のほうが勝っていた。
そうよね、せっかくの旅の締めくくりを、こんなことで台無しにしたくはない。
ふうっと息を吐く。
「……わかりました、そうします」
「うんうん」
お父さん達があーよかったと安堵する姿を見ると、やっぱり腹は立つけれど。とんでもない大人達だ。反省してほしい。思わずキッとにらみつけてしまう。
切り替えるように、明るい声で門倉さんが言い出した。
「そんでさ?瑠璃ちゃん。これ集めるとなにかあるんじゃないの。ドロシーさんが言ってなかった?」
ああ、そうだ。ハルシオンでお別れするとき、先代のノートに書いてあったと教えてくれたことがあった。
「え、なになに、なにかあるのかい?」
聞きつけて身を乗り出してくるお父さん達。調子がいいんだから、まったくもう。
「蓋を開けて並べてごらんって、言われました」
「ふーん?んじゃ瑠璃ちゃん、順番に」
わたしは端の瓶に手を伸ばした。
『赤』、葡萄酒。『橙』、サイダー。『黄』、香草のお酒。『緑』、シロップ。
なにが起こるのかという期待で、少し手が震えてきた。このままじゃ、そのうちこぼしてしまいそうだ。深呼吸をしても落ち着かないけれど、しないよりはマシ。
『青』、果物水。『藍』、ブランデー。そして……『紫』、清水。
最後の瓶の蓋を開けてテーブルに戻した。
なにが起こる……?緊張して、自分の心臓の音がよく聞こえる。
「あ……」
ふわっと『赤』の瓶から光が立ち上った。橙、黄、緑……と続けて光が立ち上る。
七色の光の帯。
「虹、だ……」
七つの瓶から、天井に届く程度の小さな虹が生まれた。小さいのに、とても美しい。
空にかかる虹は鳳凰の軌跡と言われるけれど、これはなんだろう。中身が光になっているのではないよ
うだ。
「へぇー……」
「おお……!」
「親父もこれを見たのか……!」
門倉さんやお父さん達も、目を見張って虹を見上げている。
虹から小さな光が降ってきた。水ではないけれど雨のように、七色の光が。
「きれい…………あ、れ?」
小さな光の中に、誰かの姿が見える。
「……オーダンさん……?あ、ミランさんにクルフさん……」
「おっ、喫茶クローバーの連中だ?」
この旅で関わった人達だ。
近くを通り過ぎた光の中に映った人物を見て、門倉さんが首をかしげた。
「え、これ誰だっけ?」
「えーと……あぁ、ウラナムの宿のご主人ですね……」
光は次から次へと降ってくる。その中には必ず人の姿が映っている。
情報を求めて訪ねた酒場の人、泊まった宿の人、馬車で乗り合わせておしゃべりした人、残念ながらどこで会ったのか思い出せない人もいる。
でもすべて、一年の旅の間に出会った人達だ。
一年の間に、こんなにたくさんの人と出会ったんだ……
「る、瑠璃?なにか見えるの?」
きょとんとしたお父さん。なにを言ってるんだろう。
「うん、降ってくる光の中に……」
「降ってくる光?お父さんには見えないよ、虹ができてるだけじゃないの?」
「私にも見えないな」
社長さんもいぶかしげに空中を見上げている。
「もしかして、わたしと門倉さんにしか見えていない……?」
「みたいだねー」
旅をしたわたし達だけに見える人々。
ふとおじいちゃんの言葉を思い出した。
『縁をつなげて広げるのさ』
「縁……」
誰一人欠けても、『七つの瓶』は揃えられなかった。
自分でも意識しないうちに縁がつながって、こんなにたくさんの人に、助けられたんだ。
きっとそう。でなければ『七つの瓶』が見せるはずがない。
これが、すべて集めたら起こること……
集めた人だけが見ることができる奇跡。
旅の記憶がいっせいによみがえる。まだ新しいラピュタ=ハルシオンでのできごとも、懐かしさとともにある。
うわぁ……わたしはなんて、すてきな旅をしたんだろう。
「楽しかったなぁ……!」
うっとりとつぶやくと、隣の門倉さんもうなずいた。
「そだね、おもしろかった」
わたしは光の中に映る人を見た。
「決めた。いつか、きっといつか、会いに行く!」
幻の『七つの瓶』は、虹色の架け橋。
もっとたくさんの人に会って、たくさんのものを、世界中に届けよう。
七つの瓶 終り
お読みいただき、ありがとうございました。
自分の読みたい物語を書いたので、求めるのは筋違いとは思うのですが。
感想などいただければ嬉しいです。
……批評はお手柔らかにお願いします……すぐヘコみますので……




