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七つの瓶  作者: リコヤ
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2

 家に帰り着いたのは、予想通り夕方だった。

 ここからが最後の正念場。吉備津商会の会長さんに揃った瓶を見せ、橘貿易を吸収するのをやめてもら

うのだ。さすがに移動疲れしているけれど、不安なことは早く終わらせたい。

 事前に連絡をしておいたので、家の客間にはすでにもう吉備津商会の会長さんがいた。お父さんと向か

い合ってお茶を飲んでいる。

 客間の空気は緊張していた。


「では瑠璃さん、見せてもらおうか」

 わたしはうなずいて、鞄から一つ一つ瓶を取り出し、テーブルに並べた。

 赤、『陽気な踊り子は大地の鼓動を知る』

 橙、『記憶は水底、影に沈む遠い思い出』

 黄、『沈黙の向こう側』

 緑、『澱みに落ちた満ちる月の雫』

 青、『オアシスに映る祈りの姿』

 藍、『悲しみに凍えて落ちた流れ星』

 紫、『まどろむ雲のみる夢』

「これが『七つの瓶』です……!」

 一年あまりの旅の成果だ。わたしは胸を張った。

 ふむ、と会長さんはうなずき、

「間違いないんだな、理人君」

「ないよ」

 問われて、わたしの横に立っている門倉さんは、力強くきっぱりと言った。


 瓶を見つめて、なにを考えているんだかわからない会長さん。

「すごいね瑠璃……全部集められたんだね……!」

 お父さんがテーブルに身を乗り出して、顔を輝かせた。中身が入っている状態の『七つの瓶』を見れて

、嬉しそうだ。

「うん。探したらちゃんとあった。だから」

 わたしは会長さんの方を向いた。

「祖父は嘘なんかついてません!橘貿易だって、お父さんや従業員のみんなががんばっているから成り立

ってるんです!」


 勢い込んで言ったわたしに、会長さんはなぜかにっこりと笑った。とても機嫌が良さそうだ。

「もちろんだ。君のおじいさんは人をからかってくれたが、嘘をつく人じゃなかった」

 そう、おじいちゃんは…………え?

 耳を疑い、思考が止まった。会長さんは今、なんと言った?

「橘貿易が、先代の威光で商売が成り立っているわけでもないのは、よく知っていることだ」

 ………………え?よく知っている……?


 混乱したわたしの耳に、門倉さんの小さなつぶやきが聞こえた。

「あ、なんか予想が当たっちゃったみたーい……」

 門倉さんの、予想……

 この間の、ハルシオンでの会話が蘇る。

 ――あのオジサンが、瑠璃ちゃんの実家を吸収なんてするかなぁって。

 ちょっと……待って。今のって、つまり……

 吉備津商会の会長さんは、橘貿易の始まりが『七つの瓶』で、それが嘘ではないことを知っている?今

の業績も、お父さん達ががんばってのことだって知っている……?


 突然、お父さんがテーブルに手をついてがばっと頭を下げた。

「ダメだ、もう堪えられない。ごめん瑠璃!」

 え、なにが?わたしはポカンとした。お父さんの突然の行動の意味が、まったくわからない。

「あっこら橘!」

 会長さんが慌てた様子で、お父さんをたしなめた。いたずらがばれて、慌てて隠そうとするような表情

をしている。そしてお父さんも、いたずらを叱られるような顔をしている。

「最後までやり通さないと意味ないじゃないか」

「あーもちろん、そのつもりだったんですが。瑠璃があんまり真面目に信じているから、不憫になって…

…」

「だからこそ、最後までやり通すんじゃないか。余計不憫だよ」

「私はあなたほど、度胸が座っていないんですよ」


 わたしは会話する二人をじっと見た。そこには一切の緊張感がない。仲がいいみたいだ。

 止まっていた思考が、一気に動いた。

 わかった――全部わかった。


「騙したのね?」

 ギクリとする大人二人。

「会長さんがおじいちゃんのことを嘘つきだって言ったのも、一年以内で『七つの瓶』を集めないと橘貿

易が吸収されるっていうのも、嘘なのね?お父さん達は本当は仲いいのね?」

 二人ともばつの悪そうな顔で黙って答えない。でもそれが、わたしが正解を当てている証明になってい

る。

「目的は――揃った『七つの瓶』を見ること、違う?『七つの瓶』をわたしに集めさせるために、こんな

こと仕組んだのね?」

 それぞれあさっての方向を向く二人。いい大人がなにをしているのかしら、まったくもう!

「る……瑠璃ちゃん目ェすわってるよ怖いよ……」

「これが怒らずにいられますかっ?」

「だよねー……」

 門倉さんは引きつった笑みを浮かべて、弱々しくうなずいた。


 わたしはキッと大人二人を見据えた。

「答えて、お父さん、会長さん。へ・ん・じ・は?」

「えぇとね……?ちょっとケンカをしたのは事実なんだよ」

 ぼそぼそとお父さんが話しはじめた。

「お父さん達は学生時代の先輩後輩で、まあすぐに仲直りしたんだけども」

「私はもともと『七つの瓶』に興味は持っていた。橘貿易の先代が揃えたことがあるというのも知ってい

たが、私自身にそれを探しまわる暇はない。だから揃えてみせてくれる人がいないかと思っていたんだ」

 会長さんは完全に開き直っている。

「そこへ君が『七つの瓶』を集めたがっていることを聞いてね、今回のことを画策したわけだ」

 それで、わたしが学校まで休む事態まで作り出すかしら!?やりすぎだ。その計画に乗っかるお父さん

もお父さんよ。信じられない!


 わたしは隣に立つ門倉さんをじっと見上げた。

「門倉さんはもちろん、知らなかったんですよね?」

「うん。いきなりヒマかーって連絡きてさ、護衛の仕事依頼するってそんだけ!」

 今この場でもっとも信用できるのは、ずっと一緒に旅をしてきた門倉さんだけだ。

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