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七つの瓶  作者: リコヤ
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 感無量、『七つの瓶』がついに揃った。

 私は商売を始めようと決めた。それも貿易商だ。

 ――橘昌二郎の旅行記より



 『七つの瓶』が全部揃った。揃えられた。

 それも、期限の一年を一月残して、だ。我ながら信じられない。

 正体不明、かつ揃えるのが難しいから、『七つの瓶』は幻の存在と言われる。それなのに、一年かから

ずに揃えられるなんて。まるで夢を見ているみたい。


 でも夢じゃない。夢じゃない。ずっしり重くなった旅行鞄が、それを証明している。

 嬉しい……!

「よかったねぇ瑠璃ちゃん!おめでとう!」

 門倉さんはパチパチと拍手してくれた。

「俺もなんか嬉しいよ、うん!」

 ずっと一緒に旅をして、探すのを手伝ってくれたんだものね。そう感じてくれるのはとても嬉しい。


 でもわたしにはもう一つ、嬉しいことがある。それは旅立つきっかけになったこと。

「これで橘貿易は、吉備津商会に吸収されずにすみます……!」

「………………そいや、そーゆー事情があったんだっけ……」

 門倉さんは小さく苦笑いを浮かべた。

「わたしも途中からはそのこと、あんまり考えていませんでした。揃ったから思い出したくらいです」

「そーだよねぇ、一本一本フシギのカタマリだったもんねぇ」

 感慨深げに門倉さんはうなずいた。

 うん、本当に不思議なことばかりだった。人に話しても嘘か冗談か、よくても作り話と思われるくらい

だ。


 今手元には、二冊の旅行手帳がある。一つはおじいちゃんの、もう一つはわたしの。駆け足の旅だった

からそれほど密度はないけれど、買った当初に比べればずいぶん傷んだ。ぱらぱらとめくれば、旅の思い

出は鮮やかによみがえる。

「いろんなこと、ありましたね」

「あったねぇ。俺もけっこーあちこち行ってたつもりなんだけど、エル・エルムディアに入れたのにはび

っくりだ」

 エルフ以外立ち入り禁止の、エルフの国。本来なら館までなのに、『黄』の瓶すなわちアーテジアを作

るところが見たいというわがままを聞いてくれた。

「二度目はない……かもしれませんね」

「ないだろねぇ」

 門倉さんがうんうんとうなずく。


 あとは帰るだけだ。故郷の街には飛空船発着場はないので、まずは真穂呂の都に向かうことになる。そ

こから馬車で一日。

 今晩はハルシオンの宿、緑の袖亭に泊まる。明日の朝一番の便に乗るけれど、馬車は乗り継ぎに乗り継

ぎを繰り返すうえに夜間は走らないから、故郷に着くのは早くて明後日のお昼すぎだろう。多分夕方にな

る。

 門倉さんとは、そこでお別れになる。


「まだ旅は終わっていませんけど……門倉さん」

「ん?」

 わたしは姿勢を正した。

 どこかできちんと言いたいと思っていた。故郷に……家に着いたら、きっとバタバタして言えないかも

しれない。だから今のうちに伝えておきたい。

「たくさんお世話になりました。ありがとうございます……!」

 感謝の気持ちは、言葉だけじゃ伝えきれない。でも他に表現のしようがないから、わたしはその分もと

、深々と頭を下げた。

「えぇ!えー瑠璃ちゃん、そんな頭下げることないよ!ホラ旅にくっついてきたのは仕事だしー、俺ほと

んど役に立ってないし?」

 と門倉さんはやけにうろたえた。


 初めは仕事だったかもしれないけれど、役に立ってない、なんてことはない。わたしは首を振った。

「旅に慣れている門倉さんがいなかったら、困っていたことはたくさんあったと思います。たくさん励ま

していただいたし、助けていただきました」

 行き詰まってたとき、門倉さんがふと呟いた言葉でひらめいたことは一度じゃない。

 一人じゃなくてよかったと、実は何度も思った。寂しくて泣くなんてことが一度もなかったのは、いつ

も賑やかにおしゃべりしてくれた門倉さんがいてくれたからだろう。

 きっかけがなんであれ、門倉さんがいてくれてよかった。

「あ……あははー、仕事柄お礼は言われ馴れてんだけどー……うーわー、なんだろね、照ーれるぅー」

 おどけているのは照れ隠しなんだろう。よく見れば顔が赤い。


 ……その照れた表情がちょっとかわいいとか、なぜ思ったのか。年上の人に失礼だし、忘れよう、うん


「えー、あー……のさ、一つ気になってること、あんだけど」

 しばらくジタバタしてから、門倉さんは強引に話題を変えた。

「なんでしょうか?」

 困らせるつもりはないので、わたしはそれに乗ることにした。門倉さんはあからさまにホッとした。

「その、瑠璃ちゃんの実家と吉備津商会のことなんだけど。ちょっと変だな~って」

「変……?」

「うん。あのオジサンが、瑠璃ちゃんの実家を吸収なんてするかなぁって。競争相手がいるのが楽しいっ

て人だったはずだし……しかもなんだっけ、出だしはオジサン同士の喧嘩なんでしょ?ただの喧嘩が、話

大きくなりすぎてない?」

 わたしは目をぱちくりさせた。考えてもみなかったことだ。


 ――――……言われてみれば、そうかもしれない。

「でもおじいちゃんが……祖父が旅をして『七つの瓶』を集めなければ橘貿易は生まれなくて、それを疑

われたら、わたしだって怒ります」

「うん、それはそうだろーけど……本気で別の会社を吸収……っつーか潰すのに、それ実行するかどーか

の条件を、噂を追っかけて証明させる、なんて手をオジサンが使うかなぁ。しかも期限付きったって一年

だよ?あのオジサンだったら、もっとこう、ズバン!っと追い込んでくと思うんだよねー、俺」

 そう言って首をひねっている門倉さんは、吉備津商会の会長さんの親戚だ。だから人となりがよくわか

ってて、違和感を感じるみたい。


 確かに、冷静に考えてみれば妙な話だ。『七つの瓶』を期限内に集めなければ橘貿易を吸収する、なん

て。商売人のやり方ではない気がする。というか、賭け事だ。

 言われた当初はびっくりして、まったく気づかなかった。なにしろ家に帰った途端に、お父さんが土下

座していたんだもの。それに、『七つの瓶』の手がかり探しが、難しかったこともあると思う。


「でも、わたしは吉備津商会の会長さんの人柄を知りませんから……冗談とは、とれません」

 『七つの瓶』を揃えられたから、もうそんな心配をしなくていいけれど。もしダメだったらと思うと、

想像するだけで身震いする。

 それにもし嘘だったのだとしたら、なぜそんな嘘をつく必要があるのかがわからない。

「だよねー。俺もそこらへんはわかんないや。ゴメン……てゆーか、もう気にしなくていいんだよね!マ

ジ余計なことだった、ゴメン瑠璃ちゃん」

「いえ。一度も疑ったことがなかったので、ちょっとビックリしました」

「まー疑う内容じゃないもんねぇ。もしオジサンが本気で、そんで集めた瓶に難癖つけてきたら、俺がし

っかりバッチリ保証してあげるからね。安心してて」

 門倉さんの役割は監視と護衛。ずっと一緒だったから、同じものを見て、同じことを体験している。こ

れ以上ない保証人だ。

「はい、よろしくお願いします、門倉さん」

 最後までお世話になる。わたしは丁寧に頭を下げた。

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