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七つの瓶  作者: リコヤ
紫-まどろむ雲のみる夢-
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4

 振り出しに戻ってしまった。

「なんだよ持ってるのに知らないのー……」

 門倉さんはカウンターに突っ伏してしまった。さっきはしゃいだ分、余計に落ち込んでいるみたい。

「悪かったわね。『七つの瓶』を探す人に会うのって、初めてなのよ。先代ならなにか知っていたかもしれないけど……」

「先代さんが集めたわけではないんですね?」

「そうなんだけど、やたら物知りでね。ずいぶん長いこと酒場の主人を務めた人だから、きっと知っていたと思うのよ。残念ながらもう、他界してしまったんだけど」

「そうなんですね……」

 本当に残念な話だ。


 長く酒場をやっていた人。ハルシオンは生まれて二十年だし、お店が開店したのはもう少し後だろう。そうすると、別の場所でお店をやっていたけれど、ここに移ってきたってことね。

 おじいちゃんと会ったことは、あっただろうか。

 おじいちゃんは、『七つの瓶』を集めるようになってから、酒場に行くことも楽しみになっていたようで、なにを隠そう、行き先の手がかりとなった寄り道とは、ほとんどが酒場や酒蔵なのだ。

 ということは、きっと会っていたんじゃないかと思うんだけど……もう確認しようのないことだ。


 ああ、行き詰まってしまった。

 おじいちゃんのスケッチ通りの瓶が、目の前にあるのに。中身にはまったく手が届かない。落ち込みそう。

 ――でもこれで最後なのだ。必ず手に入れられるという確信は、自分でも不思議なことに、まだ揺らいでいない。

 大丈夫、ちゃんと次の道は開ける。

 突っ伏したままの門倉さんが、呻くように言った。

「……瑠璃ちゃんよくそー思えるねぇ……どこから来てんの?その原動力」

「うーん……どこからでしょうね?祖父の旅行手帳でしょうか」

「あーまぁ、前例があるって、強いよねぇ」

 門倉さんはよいしょ、と身を起こした。

「俺も頑張るかぁー……」

「休んでいて構いませんよ?門倉さんのおかげで、あの瓶と会えたんですから」

 それもきっと、原動力の一つだ。


 さあ、考え直しだ。わたしはおじいちゃんの旅行手帳を開いた。あいまいな表現ばかりの旅行記を読み返してみる。

「ど?瑠璃ちゃん」

「飛空船に乗ってなにか探したようですね……雲の海から見つけ出すのは難しい、と書いてあるんです。なにを探していたのかは、書いていないんですけど」

「雲の海からなんか……?」

「見つけ出すのが難しい、というのは…………雲に紛れてしまいやすいもの、ということでしょうか」

 名前も『まどろむ雲のみる夢』、だしね。

 でもそれがどんなものか、想像がつかないので、二人そろって首をかしげてしまう。肝心の部分がわからない。おじいちゃんはなにを探したのか……


「あった、あったわよ!」

 いつの間にかカウンターから姿を消していたドロシーさんが、なにかを手に小走りでやってきた。

 ドロシーさんがかざしたのは、古ぼけたノート。そして声を弾ませた。

「代々受け継がれてきたノートなの。店主が好き勝手書いてるだけなんだけど、もしかしたらと思って見てみたらね!ビックリしなさい、『七つの瓶』について書いてあったのよ!」


 えっ……

 驚きすぎて、わたしはただ目を見張るだけしかできなかった。代わりに立ち上がって続きを促したのは門倉さんだ。

「すげー!そんで?なんて!?」

「えーと……紫、泉の雲の水、だって」

「泉の雲?」

「水を溜めた雲があるみたいね」

 あんなフワフワした雲が、水を溜められるのかな?それとも意外としっかりしてるのかな。


 ……ん?あれ?おじいちゃんが飛空船に乗って探したのって、それだよね、もちろん。ということは――

 『まどろむ雲のみる夢』を手に入れるには、この広い空から、無数に浮かんでいる雲の中から、泉の雲を探さなくてはならない。

「……そういうことになるわね」

 ドロシーさんが気の毒そうに言った。

 同じ結論に至ったらしい門倉さんも、感情の入り混じった複雑な表情でゆっくりと言う。

「…………え?マジで!?」

 一瞬気が遠くなった。


 飛空船を借りるか買うかしないと、探すことなんて不可能だ。買うなんてとんでもないし、借りるのだって簡単じゃない。

 でも、飛空船を借りるしか手段はない、よね……?

「る、瑠璃ちゃん?どーする?やっぱし飛空船借りる……とか?」

「…………」

 人の口から聞くと、途方もないことだと実感する。だってそれがいくらかかるのか、まったく見当がつかないし……!

 がっくり肩を落としていたら、ドロシーさんがリンゴジュースを出してくれた。

「落ちついて。焦っているとなにもいいことないわ」

「はい……」

 わかってる、わかってるんだけど……最後の一つだという気負いもあって、なんとしても期限内に手に入れたいと思ってしまう。ああ、よくない思考だ。


「こーんにーちは~!」

 酒場にそぐわない朗らかなあいさつとともに、わたしと同じくらいの年齢の女の子が入ってきた。ああ、あれくらい復活したい。

「あらエド、いらっしゃい」

「やっドロシー。おもしろいもの手に入れたから、おすそわけに来たんだ」

 リンゴジュースをいただきながら、聞くともなしに彼女達の会話を聞いている。エドと呼ばれた女の子は、カウンターに一本の瓶を置いた。

「じゃーん、見えない水~」

 …………え?

「……?空っぽじゃないの……ああ、中身はちゃんと入ってるのね」


「あ――あのっ!」

 直感がひらめいて、わたしは思わず二人の間に割り込んでしまった。

「それ、どこで手に入れたんですか?」

「ん?山の上。てっぺん近くに雲の塊がひっかかっててね、そこに池みたいに水がたまってて。飲んでみたらおもしろかったから汲んできたの」

 それは、

「泉の雲!?」

 わたしと門倉さんとドロシーさんの声が唱和し、エドさんを驚かせた。

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