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有名なラピュタはいくつかあるけれど、中でもラピュタ=ハルシオンは上位に位置する。その誕生はたった二十年前で、まだ生まれたてと表現してもいい。それなのに誰もが知るわけは、レナト同盟の本拠地があるからだ。
レナト同盟というのは、いろんな災いから人を護るために結成された傭兵の同盟。警護とか妖魔退治をしてくれる民間団体、というくらいしか実は知らないのだけれど。
「十分だよー。それがほとんどだしねぇ」
とレナト同盟所属の門倉さんはうなずいた。
飛空船の窓から見たハルシオンは、とてもきれいなラピュタだった。多くのラピュタは森だけとか岩山だけとか、一つの姿しか持っていない。でも珍しいことに、ハルシオンは山や森が広がって、その上湖まであるのだ。どこかの地域をそのまま宙に浮かべた感じ。
初めて見るのに、不思議と懐かしい気持ちになる。故郷とはまったく違う景色なのに。
「俺もそー思ったよ。なんでかみんな、そう思うんだって」
「不思議ですね……」
「ラピュタを研究してるヤツが言うには、初めから人が住んでるせいじゃないかって。誰が最初かははっきりしないらしいけどねー」
「初めからって……つまり生まれてすぐに、誰かが住み始めたということですか?そんなこと、あるんですか?」
でも考えてみれば、そうでないとおかしいことがある。ハルシオンが誕生してからたった二十年で、これだけの人が集まる町に育ったことだ。
生まれたてのラピュタは、とても不安定な存在だと言われている。詳しいことは知らないけれど、いろいろ危険なのだそうだ。見つけた場合は、近寄らないのが暗黙の掟。確か、生まれる時も周囲にいろいろ影響を与えてしまうとか。
生まれたラピュタが安定するまでの時間もまちまちで、でも五年十年かかるのが当たり前。
そこから人が入って街を作っていく場合、資材の調達という試練がまず立ちふさがる。もちろんそのラピュタにあるもので作れることは多いけれど、全てが賄えるわけじゃない。様々な地形を持つハルシオンではそれほど困難じゃなかったかもしれないけれど、本来ラピュタに建物を建てるのは、簡単なことではない。
だからラピュタ上の街が栄えるには、時間がかかるのだ。
生まれてすぐに、人が住めたラピュタ。それが、初めから人を受け入れていた、ということだとしたら、懐かしい気持ちになるのも無理はないのかもしれない。
「……すてきなラピュタですね」
人が集まるのも当然だ。ここを同盟の本拠地に決めた人も、同じように感じたのかな。
「向こうのさ、森の方に行くと畑もあるんだよ。初めの頃は自給自足で生活できてたってウワサ」
「ラピュタで自給自足!?」
それは凄い。ハルシオンは規格外のラピュタなのね。
ラピュタは生態系が偏っているのが普通で、外から持ち込み続けないかぎり生活していくことはまず不可能なのだ。おかげで飛空船を使った運送業が盛んだ。
実はクリースリーグからハルシオンに移動するのに乗った飛空船も、客船ではなく輸送船だ。客船より安くて早い。その分なのか、座席の座り心地がよくなかったんだけど、長距離でなかったら十分なんじゃないかと思う。
船が港に着くと、わたし達は大急ぎで降りた。輸送船だからお客さんは少なかったので、混乱することなく動けた。
門倉さんが先に立って案内してくれる。
「こっちだよ瑠璃ちゃん」
港周辺の倉庫区画を抜けるとそこは広場になっていて、まず鐘塔が目に入った。広場のまん中に立つそれは、ちょっとそっけなく感じるほど装飾が少ない。てっぺんに鐘が一つあるだけで、時計塔じゃない。ハルシオンで一番背の高い建物だそうだ。
「あれがレナトの鐘だよ」
「同盟の名前の元、ですか?」
「そうらしいよ。ゴメン俺そのへんのこと、あんまし知らないんだー……興味なかったもんだからさ」
今度調べとく、と門倉さんは照れくさそうに笑った。
「ちなみにあれが本拠地。紋章ついた旗があるでしょ」
門倉さんは広場の正面奥を指差した。有名な同盟の本拠地は、ずいぶん簡素な館だった。お店じゃないから、派手である必要はないものね。見覚えのある旗は、二階から一階にかけて壁に吊るされている。
「で、『豊穣の雫』はこっち」
広場の一角がそのお店だった。今はお昼すぎ、酒場だからこんな時間には営業していないかもと思ったんだけど、もうすでにお店を開けていた。もしかして、ずっと開いているとか……?
扉を開けて中に入ったとたんに気づいたのは、そればかり追い求めていたせいかもしれない。
「あ……!」
薄暗い店内、磨き込まれたカウンターの向こう側の棚。酒瓶が並ぶ中、一段だけ空いていて、そこに七本の瓶が並んでいたのだ。わたしが持っているものと瓶の形は違うけれど、同じ『七つの瓶』だ。
「あっ、やっぱりあった!」
門倉さんはカウンターに駆け寄り、
「ドロシーさん、その、その瓶!『七つの瓶』の一つだよねっ?」
と右端の瓶を指差した。カウンターの中にいた女性、ドロシーさんは驚いた様子で示されたほうを振り返り、
「え?ああ……そうよ、『紫』の瓶」
「や……った、瑠璃ちゃんあったよ!」
門倉さんはずいぶん大喜びしている。大はしゃぎだ。
わたしも揃っている『七つの瓶』を見れたから嬉しい。けれど。
「でもあの……中身はから、ですよね」
「そりゃそうよ。これは先々代のそのまた先代の、とにかくずーっと古い頃に手に入れたって話のものだもの」
「……お店を始めたきっかけだったり……しますか?」
「あら鋭いわね。その通りよ」
ドロシーさんはにっこり笑った。だから中身がなくても、とても大切なものなのよ、と呟いた。
古い物なのに、中身が入っている他の瓶と同じように、きれいにされている。むしろよりきれいな感じだ。
うちにあるおじいちゃんが集めた『七つの瓶』も、丁寧に管理されている。同じように大切にされているようだから、そうじゃないかと思ったのだ。
ドロシーさんがカウンターから身を乗り出した。
「もしかして『七つの瓶』を集めているの?」
「はい」
最後の一本を求めて来たことを話すと、ドロシーさんは表情をくもらせた。う、いやな予感。
「ああ、残念だわ……中身を手に入れる方法、あたしも知らないのよ」
蛇足かもしれませんが、補足します。
まず、井上直久さんの『イバラード物語』に多大な影響を受けていることを白状しておきます(『ガリバー旅行記』ではないところがなんとも……)。
この世界では、ラピュタは卵から孵ります。故に、ラピュタは生き物に分類されます。
卵は強力な魔力などの結晶です(魔力の結晶がラピュタの卵になる……のですが、卵にならない結晶もありまして、ぶっちゃけその辺の詳しい設定はしていません……)。
空飛ぶ島になりますが、卵は大きくてもダチョウの卵くらいで、大抵は鶏卵くらいです。ラピュタの地形が様々なのは、卵の時に過ごしていた場所などの影響です。
他にも設定はあるのですが、いつか別作品で書きたいのでこの辺で。




