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七つの瓶  作者: リコヤ
紫-まどろむ雲のみる夢-
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2

 ラピュタ=クリースリーグは、数あるラピュタの中でも変わり種の一つだそうだ。理由は大小いくつもの島から形成されているから。どういうわけか衝突もせず、適度な間隔をあけたまま島が集合して、一つのラピュタとして存在している。普通のラピュタは島一つだけで成り立っているから、確かに変わっている。

 その島と島の間に橋をかけ、迷路みたいな町がある。町の名前もクリースリーグだ。


 最寄りの発着場とラピュタ=クリースリーグはだいぶ距離があったけど、思い切って飛空船に乗ってしまった。出発まであと三十分だったのに席が空いていたのは、運が良かった。

 瓶のスケッチを見て、見覚えがあるような気がする、と言った門倉さん。ただどこで見たのか、はっきりしないと言う。

「でも俺見てるよ。ぜーったい見てる。うん」

 そこまで言い切られたら――というより、今唯一の手がかりとなった門倉さんの記憶。まずはそれを辿るしか、道はない。

 そういうわけで、おとなしく地上を移動している心のゆとりが、わたしはもちろん門倉さんにもなくなったのだ。

 初めての飛空船だったのに、半日近い空の旅だったのに、半分上の空だった。ああもったいない。


 入島審査をすませると、門倉さんが知っている酒場へと走った。

「のさっ、ちょ、訊きたいんだけど!これ知んない?」

 お店に飛び込むなり、門倉さんは旅行手帳を店員さんに突きつける。

「は……瓶?」

「あの、『まどろむ雲のみる夢』というラベルの瓶を探しているんですが……」

「……うーん……名前は初めて聞きますね」

 店員さんは手帳のスケッチをしばらく見つめて、

「ただ、この絵の瓶を見たことがあるような気もします。いつどこで見たのかは思い出せないのですが」

「あんたもかぁ。俺も見覚えあんだけど、どこで見たのか……」


 いきなり門倉さんと同じことを言う人に会うなんて、驚いた。でもこれはつまり、瓶が確実にあるってことよね。そしてあるならば、その中身のことを知っている人、もしくは繋がる人がいる、ということ。

 きっと会えるだろうけど、だからって、すぐに手がかりが得られるとは思っていない。時間がかかるのは覚悟の上だ。

 わたし達は、次から次へと酒場を巡った。酒場だけじゃなくて、食事を出すところ、飲み物を扱うお店ならすべて。

 でも。


「全滅かぁ~~……」

「全滅でしたね……」

 港(ラピュタでは飛空船発着場とは言わないのだ)近くの広場の片隅で休憩しながら、ため息をついた。走り回ったのに結果が得られなかったから、疲れがどっとくる。

 どういうわけか、わたしより門倉さんのほうが落ち込んでいる。いつの間にか門倉さんも、『七つの瓶』探しに夢中になっていたのかな。一年近く関わっていたわけだし、なんとなく、ちょっと嬉しい。


 見たことがある、という人は意外とたくさんいた。特に酒場を経営している人に。でもやっぱり、いつどこで、の部分が不明だった。なんとなく目に入る……そういう位置にあるんだろう。

 うーん、みんなどこで見ているんだろう?ああでも、それがかえって手がかりになる?ラピュタで仕事をするのに、必ず行く場所とか……

「えー?そんなんあるのかなぁ」

「みんな違う場所で見ているということは考えにくいんです。だってまず存在が珍しいものですから……あちこちにあるとは思えません」

「あそーか。そーすると……古いラピュタとか?」

 わたしは首を横に振った。


 この場合、古ければいいというものではない。クリースリーグを歩き回って気づいたことがある。

「品揃えのよいお店は、門倉さんご存じないですか?」

「品揃えェ?」

「はい。古いものも新しいものも揃えているお店です。ここのお店は確かに人の行き来が多いようですが、お店の品揃えにはそれほど差がなかったように思うんです」

「……そんなとこ見てたの」

 その口調は感心しているのか、呆れているのか。


 特に注意して見ていたわけじゃない。なんとなく、だ。瓶のラベルはお客さんのほうに向けられているし、この旅でわたしは飲まないけれどたくさんの瓶を見てきて、種類も銘柄もいろいろ覚えた。それで漠然と品揃えが把握できるようになったのだと思う。

「そーか品揃えか……」

 考え考え、門倉さんが言った。

「うーん、そーすると……やっぱハルシオンの『豊穣の雫』かなぁ」

「ハルシオン唯一の酒場だという?」

「そーそー。大きい酒場なら他のラピュタにあるけど、品揃えっていったらやっぱり…………」

 と言葉を切って、門倉さんは動きまで止めた。どうしたんだろう?


「ああ!」

 叫んだ門倉さんは、飛び上がるように勢いよく立ち上がった。

 ビックリした――なに!?周囲の人も何事かというふうにこちらを見ている。注目されていることに気づいたけれど、わたしも驚いたので恥ずかしいとは思わなかった。

 ポカンとしているわたしのほうにぐるっと体の向きを変えた門倉さんの表情は、輝いていた。

「そーだそこだ!俺そこで見たんだ!」

「ほ、本当ですか!」

 わたしも思わず立ち上がった。

「うんっ、思い出したばっちり!行こうっ!」

 わたしが返事をするより先に、飛空船の切符を買いに走って行ってしまった。早い。待って、経費用のお財布から切符代出すから……!


 慌てて鞄を持つものの、すっかり重たくなっているので身軽には動けない。初めの頃は鞄を持って走れたんだけど、今はもう無理。引きずるほどじゃないけれど、早足で歩くのすら精一杯。

 それでもできるだけ急いで、門倉さんのあとを追った。

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