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七つの瓶  作者: リコヤ
紫-まどろむ雲のみる夢-
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1

 七つ目は紫。天空の清水『まどろむ雲のみる夢』。

 確かに在るのに、飲んだ気がしない。

 ――橘昌二郎の旅行記より



 旅行鞄はいつの間にかずいぶんと重くなり、持ち運びはなかなかつらい。どうしても難しい時にだけ門倉さんに持ってもらっているけれど、やっぱりこの重さが嬉しい。

 そしてついに……ついに最後の一本を探す時が来た。ここまで来たら、手に入るか、なんて心配はどこにもない。絶対に手に入ると確信している。

 そして、七本揃ったらなにが起こるのか。

 ………………

 ああ、落ちつかない!

 手に入ると確信しているとはいえ、まだ手がかりをつかんだわけではない。ワクワクしてる場合じゃない、気を引き締めないと!


「あ、戻ってきた?」

「……え?」

 隣に座っている門倉さんが、わたしの顔をのぞき込んでいる。わたしは少しびっくりして、目を瞬かせた。

「ここんとこの瑠璃ちゃん、考え込んだりぼーっとしたりそわそわしたり、おもしろいんだよねぇ」

 にやにや笑う門倉さん。お、おもしろいって……でも言われてみれば、最近のわたしはずっとこんな調子だ。自覚すると恥ずかしくなってきて、頬に熱が集まってきた。

「落ちつかないのはわかるけど、そんなんじゃ見つかるもんも見つかんないよー。はい深呼吸~」

 言われるままに深呼吸してみる。うん、少し落ちついたかも。たったこれだけの動作なのに、深呼吸って偉大だ。


「そんで?最後の瓶はどこだかわかんないの」

「はい。ラピュタに行ったとは書いてあるんですが、それ以上は……」

「そんだけ?そーりゃぁ難しいねぇ。できるだけ絞り込まないとなんないのにねぇ」


 遥か空高くにいくつも浮かぶラピュタは、『空を飛ぶ』島だ。飛ぶということはつまり移動するということ。いつも同じ場所にいるわけじゃない。その移動距離はラピュタによって様々だ。長距離を動く島があれば、短距離しか移動しない島もある。

 地上からラピュタへ渡るには、定期飛空船を利用する。ラピュタの動く軌道はほぼ調べられているので、物資輸送の必要もあって定期便が運行されているのだ。

 このとき考えなければいけないのが、発着場から目的のラピュタまでの飛行距離。当たり前だけど、遠いとそれだけ料金がかかってしまう。回り道になっても地上で移動してから乗るほうが、ずっと安い。

 ただ軌道がわかっているといっても速度が一定ではないらしく、この時期ならここ、と言い切れないのだそうだ。だからまずは、目的のラピュタが今どこを飛んでいるのか、それを確認するのがラピュタへの旅の第一歩なのだ。

 ラピュタの位置の確認は、飛空船の発着場で調べられる。

 ラハティには飛空船発着場がないので、一番近い発着場のある町に馬車で移動しているところだ。途中で一泊する必要があるので、到着するのは明日になる。


 そして実はわたし、ラピュタには一度も行ったことがない。故郷の町には発着場がないし、飛空船の料金が高いということもある。だからそこへ行けると思うと、今度はそちらのことでワクワクして落ちつかなくなってしまう。

 飛空船の乗り心地って、どんなものなのかな?空から地上を見るのって、どんな景色なのかな?――なんて、いろいろ考えてしまう。

 あぁもう、落ちつくのよ、わたし!


 わたしがまたソワソワしだしたのに気づいたのか、門倉さんが小さく笑った。う……恥ずかしい。

「な、最後のはどんな瓶なの?」

 そんな話題を振ってくれたのは、話していれば気が紛れると気を使ってくれてのことだと思う。わたしはもちろん飛びついた。

「中身は水だそうです。祖父によると飲んだ気がしないとか」

「なにそれ……って言ったってしょーがないか。それが……ラピュタで手に入ったの?」

「それがラピュタではないようなんです。空ではあるみたいなんですが」


 おじいちゃんの旅行手帳、瓶に関する部分はもう本当にあいまいな表現ばかりで、その時どこにいたのかがほとんどわからなくなっている。前後の寄り道でなんとか推測するけれど、ときどきビックリするほど距離が開いていて、途方に暮れる。

 そういうわけで、行き先もなかなかひらめかない。そもそもラピュタには明るくないし……とりあえず、人が住んでいるもっとも古いラピュタに行けば、なにかわかるだろうか?

「うーん、それもそうかもだけどー……それより、人の行き来が多い島のほうがいいんじゃない?」

「やっぱりそうですか?」

 情報を求めるなら、交流地点へ。やっぱりラピュタでも変わらないか。


「そーすると行き先はラピュタ=クリースリーグだね」

 門倉さんの意見に、わたしは思わず首をかしげた。もっと有名なラピュタがあるからだ。

「レナト同盟のあるハルシオンじゃないんですか?」

「んーあそこも確かに交流が多いとこだけど、クリースリーグのが店多いんだよ。ハルシオンは店の数は少ないんだ――っつーか、酒場は一軒しかないの」

「さすがに詳しいですね」

 門倉さんはレナト同盟所属の傭兵なんだった。

「だって本拠地だからねぇ」

 そう言う門倉さんはなぜか少し自慢げだ。

「そんじゃ発着場でクリースリーグの場所確認して、ってとこからだね」

「はい」

 残りの時間は一月半、近いといいんだけど……


「ね瑠璃ちゃん、やっぱしさぁ、瓶のスケッチとかあんの?」

「ありますよ。見ますか?」

「うん見して見して。俺だって同盟所属だしー、いくつかラピュタまわったことあるしさ」

 ああ、そうか。瓶を見たことがあるかもしれない。わたしはおじいちゃんの旅行手帳を広げて、そのスケッチを見せた。

「これが」

 と呟いて門倉さんはじっと見つめている。そのまま黙り込んでしまった。よくしゃべる門倉さんには珍しい反応だ。


 そのうち、眉間にしわが寄り始める。

「もしかして見覚えが……?」

「………………うーん………………?」

 返事してくれたのか、唸っているのか。しばらくそのままだったけど、やがておもむろに、

「見覚えがある、よーな気がする」

 と言った。


 なんですって?

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