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七つの瓶  作者: リコヤ
藍-悲しみに凍えて落ちた流れ星-
38/47

6

 わたしの背中をぐいっと押して、ミーシャさんが言った。

「さ、ルリ、外に出てみて。氷の泪、見たいんでしょ?」

「うん!」

 どきどきする気持ちをなんとか抑えて、慎重に崩された雪山を乗り越える。

 こんなところで足を滑らせてケガなんてしたくない、気をつけなくちゃ――そういう余裕のなさから、わたしの視線は地面に固定されたままだった。

 それが、かえってよかったのかも。


 外に出て雪の降りしきる中、空を見上げて目を見張った。

「うわあ……!」

 雪にまじって、きらきら光るものがある。あれがきっと、氷の泪だ。不思議なことに、地面に落ちてしまうと光が消えてしまう。

 思わず手を伸ばしてみるけれど、うまく捕まえられない。

「はいこれ」

 何度も挑戦しても捕まえられないでいたら、クスクス笑いながら、ミーシャさんが手のひらに小さなものを置いてくれた。


 デコボコのまっ白な塊。淡くほのかに光っている。泪というよりコンペイ糖みたいだけど……この姿と形は。

「流れ星……」

「あら。みんなコンペイ糖みたいって言うのに」

「あ、うん、そうも思ったんだけど……ふわっと光ってるし……泪が凍って、落ちてきたって感じがして。お酒の名前もそうでしょう?」

「……詩人ねー。あなたの頭ん中見てみたいわ」

「瑠璃ちゃんはけっこう詩人だよねー」

 そんな変なことを言ったかな?印象をそのまま言っただけなのに。

「あたしには十分詩人の言葉だったわよ。それより、それ食べてみて。冷たいけど、がりっと噛んで」

 促されるまま、氷の泪を口に入れる。うわ、言われた通り、冷たい。氷を口に入れたのと同じだ。この雪の中ではとても厳しい。

我慢して奥歯で噛み砕く。

「――――っ!?」

 一瞬、火が吹けるんじゃないかと思うくらい口の中が熱くなった。寒さも忘れる。


 同じように氷の泪を食べた門倉さんが、あぁ、と手を打った。

「これあのお酒飲んだ時と同じだぁ」

「そうなんですか?」

「うん。でも今のがキツい」

 門倉さんと驚いていると、いたずらが成功したような笑顔のミーシャさんが言った。

「これをアロカで造ったお酒にまぜて熟成させるのよ」

「あーだから体がすぐにあったまるんだ」

「…………」

 わたしは空を見上げた。視界はほとんど白と灰色。光らないかぎり、雪と氷の泪の区別はつかない。

いったいどこに、あの熱さがあるんだろう?



「おっかえりーっ!」

 雪が小降りになって氷の泪も採取できなくなったので、みんな揃ってオレンフルまで戻ってきた。

 子供達が飛び出して迎えてくれた。やっぱり寂しかったのね。それぞれご両親と抱き合っていた。こんな光景を見ると、雪かき頑張ってよかったと思う。

 ちなみに子供達の面倒を託されていたリックスさんは、やけにグッタリしていた。

 氷の泪は馬に載せてトンネルを抜け、そこからは専用のソリに載せ替えて運んだ。管理方法が特殊らしい。詳しくはナイショ、と言われた。

 トンネルの出入り口に積もった雪は、きちんと雪かきして通れるように整えてきた。手慣れた人達の作業は目を見張るほどに早かった。


 またミーシャさんのおうちにお邪魔している。ミーシャさんが冷えた時はあったかい甘い飲み物!とわたしと同じ意見の持ち主だったので、思いっきり甘いココアをいただいた。

 そして。

「はい、どうぞ。お待ちかねの『悲しみに凍えて落ちた流れ星』!」

「ありがとう……!」

 瓶は箱に入れて渡された。なんでも瓶をそのまま持つと冷たすぎて、手を痛めてしまうのだとか。そのための管理用の専用の箱だそうだ。

 代金を支払うと言ったのだけど、

「あたしがそうしたいんだから、いいの!」

 と言って頑として受け入れてくれなかった。


「さて、飲んでみる?……って言いたいとこなんだけど。もう体あったまっちゃったわよねぇ?」

「うん。ココアいただいたし……どうして?」

「えーとね、このお酒、冷えてる時に飲んだら体が温まるくらいですむんだけど、体があったまってから飲むと涙が止まらなくなるのよ」

「泣いちゃうの?」

「そっ。悲しいこと次から次へと思い出しちゃって、泣き上戸になっちゃうの。泣きたくて飲む人にはいいかもしれないけどねー」

「俺ヤダ絶対飲まない!」

 お酒は楽しく飲むものだ、と力説する門倉さん。


 おじいちゃんの手帳の内容をふと思い出した。真価は温まった時か冷えた時か……おじいちゃんにとっては冷えた時、つまり体を温めるための飲み物だった。

 わたしは……どうしようかな。悲しいことを思い出すのか……泣くほど悲しいことってすぐには思いつかないけど、そんなにあったかな。

 ううん、それより今は泣くときじゃない気がする。泣きたいけれど涙が出ない、そんな時に飲むべきものだと思う。

 生じゃ食べられないっていう果物アロカを、味わってみたい気持ちはあるけれど……

「流れ星食べたから、もう十分」

 なんて、すましてみた。



 六つ目、藍。『悲しみに凍えて落ちた流れ星』。

 冷たさを突き詰めれば熱。

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