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「うそ、なにこれ!?」
呆然としているわたしとミーシャさんとは反対に、門倉さんは冷静に雪の壁を調べていた。
「つまりー、帰ってこない理由はこれだよね?雪で道を塞がれちゃったと」
トンネルの入口に雪が吹き込み、それが積もり積もって塞いでしまったんじゃないかと門倉さんは言った。
「そんな……」
それほどの雪が降ったのか。では取り残されたミーシャさんの家族やオレンフルの大人達は、無事なの?避難用の家に、ちゃんと避難できているんだろうか?
一瞬のうちに嫌な想像が頭を駆け巡る。
「他に道は?」
励ますような門倉さんの質問に、ミーシャさんは硬い表情で首を横に振った。
「この向こうに行くには……山を越えるしかないわ。でもこの時期は無理。上の方なんか、夏でも雪が残ってるくらいだから」
「ぐるっと山裾回ってくとかは?」
「……無理だと思うわ。道わからないし」
ミーシャさんはがっくりと肩を落とした。
とその時、雪の壁の向こうから、くぐもった声が聞こえてきた。
「おーい、そっちに誰かいるのかー?ミーシャか!?」
「お……お父さん!?」
ミーシャさんはがばっと顔を上げた。
「あ、上だ上。ちょっと隙間がある」
門倉さんに教えられて見てみれば、腕の太さくらいの、わずかな穴があった。
「息苦しさがないから、どっかに穴があるんだろうと思ってたけど」
そんなことに気づいてたとは。
「お父さん、なにがあったの!?」
「うーん、お父さん達が甘かったんだよ。えーと三、四日くらい前の昼頃か?猛烈に吹雪いてな」
「ああ、うん!こっちでもすごかった日があったわ」
「そうか。それで家に避難して、おさまったから出てみたらこんなになってたわけだ。採取もしないとならんから交代で掘ってるんだけど、雪がひどくてな、なかなかはかどらん」
「みんな無事なの?」
「ああ、それは大丈夫だ。家に食料も薪も十分あるしな」
ミーシャさんは、ほっとしたようにちょっと笑った。やっぱり心配で不安だったんだ。
無事が確認できただけでも来たかいがあったけど、これで帰ってしまうのも後味が悪い。と言ってなにができるか……
わたしは雪の壁を見上げた。壁というよりトンネルの入口に頂点のある山みたいだ。滑るかもしれないけれど、登ることはできそうだ。穴はその頂点にある。
「両側から、あの穴を広げられないでしょうか?せめて、人が一人通れるくらい」
「道具はどうすんの……ああ!」
門倉さんはポンと手を叩いた。そう、身動きができなくなった時のために、ソリには備えがある。中身はシャベルや携帯用コンロ。
「ミーシャさん、最優先はみんなが帰ってこれることよね?」
わたしが思いつきを説明すると、
「こっちなら雪に邪魔されないし、日が暮れようが関係ないし……」
ミーシャさんもうなずいてくれた。それを見て、門倉さんは道具を取ってくると言って駆け出していった。
「お父さん!あたし達こっち側からそこの穴広げてくから!待ってて!」
「はぁ?なに言ってんだ、帰れ!」
「この状況で帰れるわけないでしょ!」
無視よ無視、とミーシャさんはべぇっと舌を出してみせる。
どうしたら効率よく作業ができるか相談して、門倉さんが戻ってくるのを待った。足場が悪いから、実際にそこで作業ができるのはかろうじて二人だけ。門倉さんとミーシャさんで雪を崩し、わたしは下で崩された雪をトンネルの端に追いやるのが役目になった。
適材適所といえばそうなんだけど、提案しておいてほとんど役に立たないのは情けないなぁ。
明日は絶対筋肉痛だろう。もともと運動をそれほどしないし、まして雪かきなんてまったくと言っていいほど経験がない。
よいしょとシャベルで固まりをすくって運ぶのだけど、雪が載っていると中腰のままでしか動けない。雪って、こんなに重いの!
あっという間に息が上がってしまった。でもおかげで寒さを感じない。
「少しずつでいいんだからね瑠璃ちゃん。無理はしないの」
「は、はい……」
「氷になってきてるから重いのよ。降ったすぐあとなら軽いけどね」
「な、なるほど……」
情けないけど、返事は息も絶え絶え。
「もーちょっとだ瑠璃ちゃん」
顔を上げて見てみれば、穴はずっと大きく広がっていた。子供とか、小柄な人なら通れそうなくらい。成果が見えたので、少し元気が出た。
「あぁ、もう少しですね!」
「お礼にお酒、タダであげちゃうわ!」
「え?いいよ、それが目的なわけじゃないから」
「他のものなら受け取らないでしょ。気持ちの問題よ。だいたい、周りの状況をよく見てなかったこっちが原因だし。教訓ね」
ミーシャさんはべしべしと雪を叩く。
「耳が痛いな……」
「あ、お父さん。いたの」
穴が広がったせいか、声がはっきりと聞こえる。
「いたさ。お前達だけに任せるわけにはいかないからな」
「じゃあ雪、そっちに押し出していい?こっちはもう危ないから」
「おう、いいぞ」
あとはもう、早かった。ミーシャさんも雪の山から降りて門倉さんが一人で崩していってくれたんだけど、反対側からの作業が早いせいか、みるみる大人が通り抜けられるくらいの空間ができた。
「開通~!」
わー、とミーシャさんと二人で拍手。手袋をしているから音はしないんだけど。
よかった、これでミーシャさんのお父さん達が帰ってこれる。




