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七つの瓶  作者: リコヤ
藍-悲しみに凍えて落ちた流れ星-
36/47

4

 北国の女の人は強引だ、と言い切るのは偏見になるだろう。なにしろ二人しかまともに会って話していないから。しかしその二人ともが強引だった場合、少し考えてしまう。

 ここに来るのに使った大きな馬が引くソリに乗っているのは、わたしと門倉さんとミーシャさん。


「あの、本当にいいんですか!?」

 何度目かになる質問。ミーシャさんは笑って答える。

「いーのいーの!あたしが見に行くのはいいけど、チビ達の世話をお客さんには頼めないし、チビ達も知らない人じゃ不安になるだろうしね。その点リックスには慣れてるし、それならアンタ達は見物に行けるしねっ」

「いや俺は!?」

「なによ女の子の頼み断るの?いいじゃないヒマなんでしょ!チビ達も喜んでるし」

 うん、確かに子供達は大喜びだった。ミーシャさんじゃ相手にしきれないと思われる男の子なんか、特に。今でもリックスさんにまとわりついている。

「それじゃ行ってくるわ!」

「いーってらっしゃーい!」

 子供達に見送られて、わたし達は材料の採取地へ出発した。

 町からさらに奥へ行ったところにトンネルがあって、そこを抜けた先にあるという。雪はまだやんでいないからゆっくり進めるけれど、それでも三十分くらいで着くそうだ。


「ところでミーシャさん、材料ってどんなものなんですか?雪が降っている時でないと採れないと言っていましたよね」

 ミーシャさんは手綱を握ったまま、少し後ろに座っているわたしを振り返った。え、それは危なくないの?

 わたしをじっと見てから、ミーシャさんは言った。

「……その前にさ、その敬語やめてくんない?あたし達、同い年くらいでしょ?なんかこそばゆい」

「…………………………………………うん」

「あはははは、瑠璃ちゃん沈黙長すぎー」

 門倉さんは大笑いするけど、これまでずっと敬語でしゃべっているから、切り替えが難しい。普段友達とどういう言葉遣いで話していたっけ。

 ミーシャさんも難しいならいいわよ、と笑う。でもせっかくだから、普通におしゃべりしたい。頑張ろう。


「えーっと材料ね。あれはリンゴのブランデーなんだけど、それは知ってた?」

「い……ううん」

「そっか。アロカって品種でね、この辺りくらい寒くないと育たないリンゴなの。変なリンゴでさ、生でも調理してもアロカは食べらんないのよ」

「リンゴなんだから果物でしょう?食べられないの?どうして?」

「めっちゃくちゃ冷たいの」

「冷たい?」

 冷たいリンゴ?

「青リンゴって言っても見た目は緑っぽいじゃない?それが真っ青なの。もー正真正銘青いリンゴ!切ったら中はまっ白で、もう見るからに冷たいのよ」

「雪と氷でできたリンゴ、みたいな?」

「そうそう!も、ホントそんな感じ」

 それは冷たそうだ。


「その冷った~いリンゴをブランデーにすると、さらに冷たくなってね、そこにさらに冷たいものを加えるの」

「あ、それがさっき言ってた材料……?」

「そう。氷の泪って呼んでるの。これがどんなものかは見るまでのお楽しみにしたほうがいいわ」

「氷の泪……」

 なんだかすてきな名前。いったいどんなものだろう?わたしは胸を高鳴らせてソリの進む先を見つめた。


 ミーシャさんの操るソリはなにごともなく、トンネルにたどり着いた。

 ソリを降りてのぞき込んでみると、ぽつんぽつんと灯りがともされていて真っ暗ではない。道は途中で曲がっているようで、出口は見えない。

 よく見ると壁ぞいにソリが並べてある。雪で失わないように、かな。

「そうよ、外にほっといたらすぐ雪で埋もれちゃうから。ああ、これお父さん達のソリだわ」

 一つをひっくり返して、ミーシャさんはため息をついた。表情はとても曇っている。口には出していなかったけど――態度でも見せなかったけど、やっぱり心配なんだろう。わたしと同じ年だと考えれば、想像はたやすい。


「さ、あたし達も準備しましょ」

 ミーシャさんの指示で、わたし達が乗ってきたソリもトンネルの内側に引き込んだ。馬は連れて行くそうだ。

 ランプも準備して、トンネルへ入っていく。十五分くらいで出口に着くそうだ。出口が見えないせいで、距離を長く感じそう。

 トンネルの天井はすごく高い。このトンネルはもともとあったもので、馬が通れるように天井を削ったそうだ。ミーシャさんに手綱を取られた馬は、おとなしく歩く。わたし達はその後ろを少し離れてついていく。


 三人と馬の足音がトンネルに響く。

 ついこの間まで洞窟で日がなすごしていたからかな。暗くて緊張するのは変わらないんだけれど、暗がりに吸い込まれてしまいそう……という怖さは減っている。でも怖いのには変わらない。一人で通りたくはないな。

 わたしがそんなことを言うと、ミーシャさんもうなずいた。

「ああ、あたしもそれはイヤ。どこに通じるかわかっててもねー。だから正直、ルリ達が一緒に来てくれたのはすごく助かったわ」

「瑠璃ちゃんの好奇心が役に立ったってことだねー」

「……門倉さん、ちょっとその言い方は嫌です」

 まるでわたしの好奇心で門倉さんが迷惑をこうむったような言い方だけど、そんなことは起きてないはずだ。

「チビ達の好奇心の相手はキツいわよー。この間ねぇ……」


 おしゃべりをしながらだと、十五分はあっという間だ。

「その角を曲がったら出口よ」

「あ、やっと……」

 どんな景色が広がるのかわくわくしながら答えたけれど、

「ええっ!?」

 ミーシャさんが悲鳴をあげて立ち止まった。なにごとかと馬の横をすり抜けてミーシャさんの隣に立って、絶句した。


 雪で行き止まりになっていた。

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